表紙 目次 | ■■■ 「酉陽雑俎」の面白さ 2017.9.30 ■■■ 夢に出て来る幽霊「酉陽雑俎」は"夢篇"[→前集卷八]をわざわざ設定しているが、他の篇にも、中宗の"夢"を初めとして、特徴的な話を別途収録している。幽霊が夢に現れる話は珍しいものではないが、「續集卷三 支諾皋下」に3譚あるので、目を通しておこう。 1つ目は、琴の妙なるメロディーが幽鬼を引き寄せたという話。・・・ 成式三從房叔父某者, 貞元末,自信安至洛,暮達瓜洲,宿於舟中。 夜久,彈琴,覺舟外有嗟嘆聲,止息即無。如此數四,乃緩軫還寢。夢一女子,年二十余,形悴衣敗,前拜曰: “妾姓鄭名瓊羅,本居丹徒。 父母早亡,依於孀嫂。 嫂不幸又歿,遂來揚子尋姨。夜至逆旅,市吏子王惟舉,乘醉將逼辱。 妾知不免,因以領巾絞項自殺,市吏子乃潛埋妾於魚行西渠中。 其夕,再見夢揚子令石義留,竟不為理。 復見冤氣於江石上,謂非煙之祥,圖而表奏。 抱恨四十年,無人為雪。 妾父母俱善琴,適聽郎君琴聲,奇音翕響,心感懷嘆,不覺來此。” 尋至洛北河清縣溫谷,訪内弟樊元則。 元則自少有異術,居數日,忽曰: “兄安得此一女鬼相隨,請為遣之。” 乃張燈焚香作法,頃之,燈後窣窣有聲。 元則曰: “是請紙筆也。” 即投紙筆於燈影中。 少頃,旋紙疾落燈前。 視之,書盈於幅,書雜言七字,辭甚淒恨。 元則遽令録之,言鬼書不久輒漫滅。 及曉,紙上若煤汙,無復字也。 元則復令具酒脯紙錢,乘昏焚於道。有風旋灰,直上數丈,及聆悲泣聲。 詩凡二百六十二字,率敘幽冤之意,語不甚曉,詞故不載。 其中二十八字曰: “痛填心兮不能語, 寸斷腸兮訴何處? 春生萬物妾不生, 更恨魂香不相遇。” 成式の三從房伯父の話。(名前は明かせない。) 貞元の末のこと。 信安から洛陽への旅程だったが、暮れに瓜洲に到達。 舟中泊になってしまった。 夜が深まり、琴を彈じていた。 すると、舟外から嗟嘆の声が流れてくるのに気付いた。 息をひそめると、即、なにもなかった雰囲気に。 こんなことが4回ほど。と言うことで、軫を緩めて寝にかえった。 夢に一人の女子が現れた。 年は二十余で、その容姿は憔悴した状態で、衣服は破れていた。 前に出てきて、拝礼した後に、言うことには、 「妾でございますが、 姓は鄭で、名は瓊羅と申します。 もともと住んでいたのは、丹徒でございます。 父母を早くに亡くし、孀嫂を頼っておりました。 ところが、その嫂も不幸なことに歿してしまいました。 遂に、姨を尋ねて揚子江まで来てしまいました。 夜になってしまいましたので、旅館に。 そこで、 市の吏の息子である王惟舉がやってきて、 醉いにまかせて凌辱しようとしたのでございます。 妾は、これは逃れられないとわかりましたので、 領巾で首を絞めて自殺した訳です。 市の吏の息子は、密かに、 私を魚行の西にある渠の中に埋めてしまいました。 その夜、揚子令の石義留の夢で再見したのですが、 最終的には、処理して頂けませんでした。 又、揚子江の石の上でも冤気をだしましたが、 非煙之祥ということで、絵図にして上奏されただけ。 恨みを抱いて40年になりますが、誰も忌清めてくれませぬ。 ところで、妾の父母ですが、どちらも琴を善くしておりました。 いましがた、郎君の奏でる琴の声を聴きまして、 その奇なる音と妙なる響きに、心底感懷を覚え、 溜息を洩らした訳でございます。 ということで、 思わず、こうしてココに来てしまいましたの。」と。 そして、洛北河清県溫谷に到着。 内弟の樊元則を訪問。 この元則だが少年のことから異術を心得ていた。 数日そこに滞在して居たのだが、ある日、忽然と言いだした。 「兄貴には、安からんことに、 一人の女の幽鬼が付随しておりますな。 仰せとあらば、コレをどこかに遣ってしまいましょうか?」 たちまち、燈火を張り、香を焚き、頃合いに術をかけた。 すると、燈の後で"窣窣"という音がした。 元則が言うことには、 「これは、紙と筆を請うているのです。」と。 そこで、即、紙と筆を燈影の中に投げ入れた。 少々経つと、紙が燈の前に旋回して疾落してきた。 それを視ると、紙幅いっぱいに書いてあり、雜言七字の書。 その辭は甚だしく淒恨な内容だった。 元則は、直ちに、それを記録するように命じた。 幽鬼の書いたモノは久しく留まらず、 すぐに漫滅してしまうからである。 曉になる頃、紙の上は煤がついたようで、文字も消えていた。 元則は又具酒と脯、それに紙錢を準備させるよう命じ、 暗闇が訪れる頃合いに合わせて、道路で焚かせたのである。 風がおこり、灰が旋回して舞った。 そのすぐ上に、数丈は舞い上っただろうか、 そこで、悲しげな泣き声が上がった。 その詩は凡てでは二百六十二字。 ほとんど、幽冤之意を敘したものに仕上がっていた。 語ははなはだわかりにくいものだった。 そんなこともあって、詞の方は不載である。 ただ、その中の二十八字(7言x4句)だけ引用しておこう。 「痛恨で心が一杯で、とても語れるどころではありませぬ。 この断腸の思いを、どこに訴えればよいのやら。 春になると、萬物が生まれるというのに、 妾は生きることさえできません。 魂香に相い見まえることができぬのが痛恨の極み。」 2つ目は、婚礼用の車管理役を仰せつかった男が、その官吏にまつわる男女間の心の襞を夢で知ってしまった話。・・・ 中書舍人崔嘏,弟崔暇,娶李氏,為曹州刺史。 令兵馬使國邵南勾當障車, 後邵南因睡忽夢崔女在一廳中。 女立於床西,崔暇在床東,執紅箋題詩一首,笑授暇。 暇因朗吟之,詩言: “莫以貞留妾,從他理管弦。容華難久駐,知得幾多年。” 夢後才一歲,崔暇妻卒。 中書舍の官吏、崔嘏の弟である崔暇は李氏を娶った。 曹州で刺史をしており、 兵馬使の国邵南に障車[婚嫁時用]の管理役をあたらせた。 その後、邵南は睡眠中に忽然と夢を見た。 その夢のなかでは、崔暇は一人の女と客間に居た。 女は、長椅子の西側に立っており、 崔暇はその椅子の東側に座っていた。 紅色の箋を手にしており、 題詩を一首しるし、笑いながら崔暇に授けた。 崔暇は、早速、その詩を朗吟した。 詩はこのような(意味の)文言だった。 貞淑だということで、妾を留めおかないで。 そういうことなら、管弦で磨く他ないでしょう。 華の容姿を久しく留めるのはいと難し。 お知り合いになって、幾年過ごせますでしょう。 そして、夢の後、ほぼ1年。 崔暇の妻、逝去。 3つ目は、政治臭芬々の夢。内容は吉兆のお知らせであるし、それを引き出したのは仏への帰依の結果とも読めるから、登場するのははたして幽鬼かは、なんともいえない。・・・ 李正己本名懷玉,侯希逸之内弟也。 侯鎮淄青,署懷玉為兵馬使。 尋構飛語,侯怒,囚之,將置於法。 懷玉抱冤無訴,於獄中累石象佛,默期冥報。 時近臘日,心慕同儕,嘆咤而睡。 覺有人在頭上語曰: “李懷玉,汝富貴時至。” 即驚覺,顧不見人。 天尚K,意甚怪之。 復睡,又聽人謂曰: “汝看墻上有青烏子噪,即是富貴時。” 及覺,不復見人。 有頃,天曙,忽有青烏數十,如雀飛集墻上。 俄聞三軍叫喚逐出希逸,壞練取懷玉,扶知留後。 成式見臺州喬庶説,喬之先官於東平,目撃其事。 李正己の本名は懷玉。 侯希逸[安祿山部將:n.a.-781年]の妻の弟である。 侯は、淄青の鎮護役だった時に、懷玉を兵馬使の職に任命した。 その仕事ぶりを尋問するに、流言ありとなり、 侯は怒り、囚人として確保。 (侯のフレームアップ臭い.) 法の定めにより留め置きになった。 (侯は処刑は避けた.) 懷玉は冤罪ということで、恨みを抱いたが、訴えるすべ無し。 しかたなしに、獄中で石を積み上げて仏の形象とし、 黙してそれに祈り、冥界にその報が届くよう精進した。 臘日に近づいた頃である。 ふと仲間をなつかしく思う気分になって来た。 憤激慨嘆の境地だったが、そのまま眠りについた。 ふと、頭上に人の気配を覚えた。 そして、語りかけて来たのである。 「李懷玉よ。 汝が富貴になる時来たり。」と。 ビックリして目が覚めた。 眺めてみたが誰もいなかった。 天空は未だに真っ黒なので、甚だ怪しい事と思ったが、 再び眠りに落ちた。 すると、又、人がこう謂うのが聴こえた。 「汝、墻の上を看よ。 そこに、さざめく青烏がいるであろう。 即ち、 それが富貴の時を意味するのである。」と。 目が覚めてしまった。又、どこにも人など見えなかった。 少々時間が経って、ようやく天空は曙。 すると、忽然として、数十の青酉が現れ、 あたかも雀のように墻の上に群れて飛び回った。 三軍の叫喚が耳に入ってきた。 遂に、侯希逸は追い出されたのである。 そして、囚人環境は懷され、懷玉はそこから取り出してもらえた。 その上、留後[軍官]のブレインとして扶助することになった。 成式は、臺州[@浙江]の喬庶に会ってこの話の説明を聞いた。 喬の先官が東平に居た時、これを目撃したという。 (参考邦訳) 段成式[今村与志雄 訳]:「酉陽雑俎」東洋文庫/平凡社 1980・・・訳と註のみで、原漢文は非掲載. 「酉陽雑俎」の面白さの目次へ>>> トップ頁へ>>> (C) 2017 RandDManagement.com |