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■■■ 「酉陽雑俎」の面白さ 2017.10.12 ■■■

猫柳のベッド

なんということもなき短文が結構難しい。・・・

青楊木,出峽中。
為床,臥之無蚤。


"青楊"とは、新緑の柳と解釈したいところだが、山岳地域の細い谷に生えることを特徴としているから、種としての名前なのであろう。
現在のこの名称の樹木は、遼寧〜華北〜西北〜四川〜西蔵の中高地川沿いに広く分布するポプラの一種というか、箱柳系のナガバドロである。樹高30mにも達するというから、中国の森林公園の栽植に合いそうだし、建築材にも向くだろう。

今村注では、箱柳ではなく、川辺に広く自生している細柱柳 or 水楊/猫柳/Chinese pussy willowと見なす。
「本草綱目」木之二(喬木類五十二種)の水楊が妥当とする訳だ。
 【釋名】青楊(《綱目》)、…
 時珍曰:
  楊枝硬而揚起,故謂之楊。
  多宜水 蒲之地,
  故有
、蒲柳、苻之名。 

箱柳だろうが、猫柳としても、その後の特徴の説明にはビックリさせられる。

蚤除け材になるというのだから。
冗談とは思えないし、実際に使えば即座にわかる筈である。

ポマンダーに使うものとしては、柑橘類やスパイス/ハーブといった強い香りを振りまく植物が中心。薬効が歴然としている除虫菊にしてもママでは香りが飛ばないから、ほとんど意味がない。ポプラ材や猫柳の枝から芳香というのも考えにくかろう。
虫が嫌う芳香樹木といえばもっぱら、ユーカリ・楠類でしかない。そもそも、広葉樹は針葉樹のような殺菌効果が期待できる精油成分は滅多にないのである。
それに、虫採少年ならご存知だと思うが、猫柳の樹液には、甲虫類を集める力がある位だし。

ただ、日本人的な"猫毛"感覚からすると、わかる気はしないでもない。あのフカフカした芽の毛がついた枝のベッドで寝たらさぞかし気持ちがよかろうと。蚤も避けられるかも、とついつい思ってしまう。
そうなると、蚤除けの意味も読めて来る。・・・柳の細枝で編んだ柳行李ならぬ、猫柳の寝床に違いあるまい。夏なら、ラタンのベッドより快適かも知れぬ。風通しがよすぎて、蚤はよりつけまい。

(参考邦訳) 段成式[今村与志雄 訳]:「酉陽雑俎」東洋文庫/平凡社 1980・・・訳と註のみで、原漢文は非掲載.

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