表紙 目次 | ■■■ 「酉陽雑俎」の面白さ 2017.10.20 ■■■ 美人草と孟娘菜日本人からすると、どうということもない山野草だが、名称が面白いゾということか。・・・女草, 葳蕤草 一名 麗草, 亦呼為 女草, 江湖中呼為 娃草。 美女曰娃,故以為名。 [續集卷十 支植下] これは、葳蕤 or 玉竹/甘野老/アマドコロ/King Solomon's sealのことである。 乾燥根茎が薬用とされるが、(根茎に節があるので玉竹と呼ぶ。)小生は"イズイ"という漢方薬の名称はいまだかつて聞いたことがない。 一方、アマドコロ(「NHKみんなの趣味の園芸」によれば別名鳴子蘭。初心者でも育てやすいので取り上げられるようだ。)の名前は小生でさえ時に耳にするから、それなりの知名度。その理由は、山菜や生薬マニアが広めている訳ではなさそう。(小生はウルイに似た茎部分を食べたことがあるが、旬は短かそうだから流行ることはなかろう。地下茎の方は全くわからない。)小生の観賞眼では、蘭といっても、鈴蘭的イメージの花であり、生け花に向いていると思う。その印象からすると、切花用の園芸栽培が進んでいそう。 →[Photo](C)TAKAO 599 MUSEUM と言うことで、娃[美人]草とか、麗草と呼ぶのには、拍手を送りたい。なにせ、甘-野老とは、地下茎が似ている鬼-野老と違って甘さがあるという、食い気一方の命名だから。(貧しさ故の可能性もあるが。) 成式もそのような気分だったかはなんとも言い難いが。 それにしても、山野草の愛好感覚は色々であることが、命名からよくわかる。 そこらを、成式は指摘したかったのでは。 尚、「本草綱目」草之一(山草類上三十一種)の葳蕤にはこのような記載。・・・ [釋名]女萎(《本經》)、葳蕤(《呉普》)、萎 (音威移)、委萎(《爾雅》)、萎香(《綱目》)、熒;(《爾雅》,音行)、玉竹(《別録》)、地節(《別録》)。 時珍曰:按: 黄公紹《古今韻會》云:葳蕤,草木葉垂之貌。 此草根長多須,如冠纓下垂之 而有威儀,故以名之。 凡羽蓋旌旗之纓,皆象葳蕤,是矣。 張氏《瑞應圖》云: 王者禮備,則葳蕤生於殿前。 一名萎香。則威儀之義,於此可見。 《別録》作葳蕤,省文也。 《説文》作萎 ,音相近也。 《爾雅》作委萎,字相近也。 其葉光瑩而象竹,其根多節,故有熒及玉竹、地節諸名。 《呉普本草》又有烏女、蟲蟬之名。 宋本一名馬熏,即烏萎之訛者也。 ただ、間違えないようにと別途記載がある。・・・ [集解]時珍曰: 諸家誤以女萎解葳蕤,正誤見葳蕤下。 [「本草綱目」草之七(蔓草類七十三種)女萎] これと対照的な名称の草もある。列記とした「菜」であって、「草」ではない。・・・ 江淮有孟娘菜,並益肉食。 [續集卷九 支植上] "孟娘"とは、"孟母"をもじったのだろうか。 「本草綱目」菜之二 (柔滑類四十一種)の【醍醐菜】の附録に記載があり、苦いものの無毒とか。その薬効たるや恐るべし。 男子陰囊濕癢,強陽道,令人健行不睡,… ただ、可食といっても、味苦を、料理に使うのはいかがなものか。 "升麻"に似ているというが、南京虫が逃げるような悪臭ありと言われる。外見類似で関係はないだろうが。日本では、この近縁種が"晒菜升麻"と呼ばれており可食らしい。名称から見て、茹でてから徹底的に水に晒して食すのであろう。蕨、薇も灰汁抜きしたものを食べるのだから、その位の手間をかけた料理方法は当たり前か。 生四明諸山,冬夏常有葉,似升麻,方莖。 肉の付け合わせにすると良いとすれば、クレソン的なほのかではあるがピリッとした苦みが嬉しいのかも知れない。脂ギタギタの肉は胃に負担がかかるから、この手の刺激は結構気分が良い訳で。 そんなところから、"少々手厳しい娘ですが、その刺激も悪いものではないですゼ"ということで命名されたのかも。 成式も実際に食べてみて、コリャその通り。是非にも収録しておこうと考えたのでは。 (参考邦訳) 段成式[今村与志雄 訳]:「酉陽雑俎」東洋文庫/平凡社 1980・・・訳と註のみで、原漢文は非掲載. 「酉陽雑俎」の面白さの目次へ>>> トップ頁へ>>> (C) 2017 RandDManagement.com |