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■■■ 「酉陽雑俎」の面白さ 2017.10.25 ■■■

蝙蝠蛾寄生樹木

樹木名ではなく、罹病名の紹介。・・・

【醋心樹】,
杜師仁常賃居,庭有巨杏樹。
鄰居老人毎擔水至樹側,必嘆曰:
 “此樹可惜。”
杜詰之,老人雲:
 “某善知木病,此樹有疾,某請治。”
乃診樹一處,曰:
 “樹病醋心。”
杜染指於蠹處,嘗之,味若薄醋。
老人持小鉤披蠹,再三鉤之,得一白蟲如蝠。
乃傅藥於瘡中,復戒曰:
 “有實自青皮時必標之,
  十去八九則樹活。”
如其言,樹益茂盛矣。
又雲:
 “嘗見《栽植經》三卷,言木有病醋心者。”

【醋心樹】について語ろう。
杜師仁はずっと借家居住。
その庭に巨大な杏子の樹木があった。
隣人の老人は、水を担いで通る度ごとに、
必ず嘆いて言っていた。
 「この樹木は、実に惜しい。」
そこで、ついに杜は詰問したところ、
その老人答えて言うことには、
 「某は、木の疾病をよく知っているのじゃて。
  この樹木は病気持ち。
  ご要請あれば、某が治してしんぜよう。」と。
と言うことで、
その樹木の一ヶ所を診断して、伝えたのである。
 「この木の病は、醋心なり。」と。
杜は指示された箇所の汚れをとって、舐めてみた。
するとほんのりと酸味を感じたのである。
老子は、小さな鉤を手に持って、患部の蠹をとりはらい、
再三にわたって鉤で中を探った。
すると、蝙蝠に似た白い虫をつかまえることができた。
そうしてから、その傷口に伝来の薬をつけ、
再び、戒めるかのように、云った。
 「青い皮の時期より、実が付き始めます。
  しかし、その実は必ず目当てとして使いなさい。
  10個のうち、8〜9個取り去れば、
  この樹木は復活致します。」と。
言われた通りにしたところ、
樹木はますます生い茂げり盛んになった。
そこで、又、一言。
 「嘗て、「栽植經」3巻本に目を通したのだが、
  醋心を病む樹木があると書いてあった。」と。


害虫のいない植物などありえない。

大半の害虫は外皮部を食い荒らすとか、傷をつけて養分等を得る採取者だが、根中や幹中に侵入する虫もいる。
よく知られるのは、甲虫系の髪切虫/天牛の幼虫と木食虫(象虫の1種)、それに暝蛾幼虫の芯喰虫に、線虫/松喰虫の4種であろう。この他、蛾の幼虫としては、小透翅、木蠹蛾、蝙蝠蛾も、杏や桜の栽培者の間では知らぬ人無しの虫であろう。

それぞれ、好みの深さはあるようだが、いずれにしても、木質部が食べられてしまう訳である。しかし、それによって樹液が酸性になるという話は耳にしない。ただ、食われた箇所に糖分が集まり、それがアルコール醗酵し、酢ができるのかも知れない。

蝙蝠のような芋虫など考えられぬから、これが変態して蝙蝠のような蛾になりますと言われたのだろう。

「栽植經」とは、農學古籍であろうが、こうした害虫について、注意を喚起していたのである。杏子もすでに園芸作物化していたのである。

(参考邦訳) 段成式[今村与志雄 訳]:「酉陽雑俎」東洋文庫/平凡社 1980・・・訳と註のみで、原漢文は非掲載.

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