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■■■ 「酉陽雑俎」の面白さ 2017.11.15 ■■■

蚯蚓切断甲虫と狩猟蜂

「續集卷八 支動」には、まるで昆虫記のような記述がある。

その1は蚯蚓を切断する虫。・・・

予同院宇文獻雲:
 “吉州有異蟲,長三寸余,六足,
  見蚓必為兩段,
   才斷各化為異蟲,相似無別。”


6本足ということなら、昆虫と見てよいだろう。そのなかで、ミミズを主食にしておりその身体を切断する能力がある種といえば、虎甲/斑猫/ハンミョウ/Tiger beetleだろう。
牙形の大顎がある。ただ体長は1寸にも満たないから、大きさが余りに違いすぎる。東南アジアは種の宝庫らしいから大きいモノもいる可能性はある。(世界最大のハンミョウはアフリカ南部に棲息する種で約2寸。)

一般的には、ミミズを2つに切ると前後両方が再生する訳ではない。その状態を見たら、小生もそのように言うだろう。自切生物だから、切り落とされた部分はしばらくよく動くから、2匹になったようなもの。ただ、後から再生できるのは頭側(帯がある方)だけ。もちろん、短く切られてすぎてしまえば死ぬ訳だが。
ただ、100%そう言えるのかはなんとも。
例外が1993年に東北農業試験場で発見されているからだ。(大和姫蚯蚓)頭部を欠く断片にも再生能力があるという。

その2は、子供のために蜘蛛狩猟に精を出す蜂。・・・

又有赤腰蜂,養子於蜘蛛腹下。

赤腰蜘蛛蜂 or 蜂赤腰鼈甲蜂のことだろう。
蛛蜂/鼈甲蜂 or 蜘蛛蜂/Spider wasp or Pompiliの類は、雌の蜘蛛(黄金蜘蛛を狙うという。)"狩りで知られる。但し、自分達の餌として食すことはないらしい。
巣に生き餌として運び込んでから卵を産み付け、幼虫の餌にするのである。
余計なことは一切書かず、たった1行だが、しっかりと観察していたことがわかる。

「ファーブル昆虫記/Nouveaux souvenirs entomologiques」の"ベッコウバチ─クモを捕らえる狩りバチ/les pompiles"に記載されるまで、実に1,000年かかったのである。

【ファーブル昆虫記の当該部分の内容】
仏最大種の帯鼈甲蜂は、欧州最大種のナルボン子守蜘蛛
(伊ターラントのこと。つまり、黒腹タランチェラ)を狩るが、そのシーンは未見。中黒鼈甲蜂の麻酔針 v.s. 裏切閻魔蜘蛛の毒腺牙の決闘は、両者危険を避け互角で進むが、巣のある網から落とされた蜘蛛が戦意喪失して決着。…仏語と英訳はウエブで閲覧可能。和訳は集英社版の2巻下をお勧めしたい。・・・注には、広津和郎:「動物小品集」の鼈甲蜘蛛が蜘蛛を狩った一節が引かれている。(瑠璃似我蜂 v.s. 蜂を食う豪モノの鬼蜘蛛らしい。広津は、どのように蜂が攻撃したのか興味深々なのである。)成式、ファーブル、広津と同じように気になって、気になってというところ。尚、単純な適者生存的進化論では、こうした状況を全く説明できまいという風情での注記となっているのも、この書籍の質の高さを物語る。

(参考邦訳) 段成式[今村与志雄 訳]:「酉陽雑俎」東洋文庫/平凡社 1980・・・訳と註のみで、原漢文は非掲載.

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