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■■■ 「酉陽雑俎」の面白さ 2017.11.19 ■■■

鼠の大量発生

"鼠王"という語彙は、中世のお話から来ている、独語"Rattenkönig"の翻訳語とされていることが多い。しかし、その概念は相当に古く、西域発祥らしい。
その地域で、鼠の大量発生が度々目撃されていたからではないか。
釋道安《西域志》曰: 于道中有鼠王國,大者如狗,小者如菟,著金袈裟,沙門過不禮,白衣不禮輒害人。  [「太平御覽」鼠王]
《異苑》曰: 西域有鼠王國,鼠大如狗,中者如兔,小者如常鼠,頭悉白,然帶以金枷,商估有經過其國,不先祈祀者,則齧人衣裳,世得沙門呪願,便獲無他,衆僧釋道安昔至西方,親見如此,俗諺云,鼠得死人目精則為王。  [「藝文類聚」鼠]

ともあれ、その辺りを書いておこうということで、一文をしたためたのであろう。・・・

【鼠】,
舊説
 鼠王其溺精一滴成鼠。
一説
 鼠母頭似鼠,尾蒼口鋭,大如水中獺,

   (獺でなく、水牛の場合も。[《異物志》@「太平御覽」鼠])
性畏狗,溺一滴成一鼠。
時鼠災多起於鼠母,鼠母所至處,動成萬萬鼠。
其肉極美。
凡鼠食死人目睛,則為鼠王。
俗雲:
 鼠上服有喜,凡衣欲得有蓋,無蓋兇。

古い"鼠王"伝説によれば、その小便の一滴が鼠になると。
一説では、鼠母の頭と脚は鼠に似ており、尾の色は蒼色で、口は鋭くして、その大きさは水中に居る獺
[カワウソ]のよう。そして、犬を畏れる体質。こちらも、小便の一滴が一匹の鼠になると。
時に、鼠による災害が発生するが、多くは鼠母が起こしている。鼠母が行くところは、数にして万々たる鼠が蠢くことになる。
その肉は極上で美味。
凡そ、鼠というものは、死人の目の瞳を食うと、則、鼠王になるもの。
俗に言われていることだが、
 鼠が上服を齧ると喜ぶべきことが起きるが、
 凡そ、鼠は服を齧るものであり、
 蓋が有る場所に格納したいものである。
 蓋無しは、それこそ凶兆。


鼠が家に居つくと、その小便の臭いがたまらないし、そこらじゅう齧りまくるので、そのことがお話に挿入されてしまうのだろう。
ただ、それに対抗するために、猫の涎でも登場しそうなものだが、そういうことはない。ペット化した猫は、一匹狩猟は得意でも、たいして役に立たないことが判明していたのかも。膨大な群れに対抗して飼い主を守ろうと咬み付くのは犬だけだったということか。
ただ、小便一滴との表現は、なかなか鋭い。鼠の小便時間は僅か1秒と言われており、そのかわり、そこらじゅうに放尿するから、一億匹の大行進でも見れば、尿の一滴が一匹にあたるとの言い草は受け入れ易い表現である。

このとんでもない繁殖力の大元と目されていたであろう<胆[=膽]>だが、そのありかは肝臓とされていたようである。・・・

鼠膽在肝,活取則有。

胆を頂戴して鼠の繁殖能力を身に着けようと考えたに違いなく、その場合は、生きているうちでないと消滅すると見ていた訳で、生け捕りにして肝を取り出して食すことが行われていたことになる。それが、宗族繁栄に不可欠とされれば、家長は喜々として服用せざるを得なかったであろう。
たまらぬ社会である。
もっとも、肥った鼠は美味であるゾというのは、グルメの成式先生お墨付き評価だから、その後に御馳走がまっていたかも知れぬが。

(参考邦訳) 段成式[今村与志雄 訳]:「酉陽雑俎」東洋文庫/平凡社 1980・・・訳と註のみで、原漢文は非掲載.

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