表紙 目次 | ■■■ 「酉陽雑俎」の面白さ 2017.11.30 ■■■ 串銭名になった昆虫"蚨"という見慣れない文字の昆虫の話。・・・青蚨,似蝉而状稍大,其味辛可食。 毎生子,必依草葉,大如蠶子。 人將子歸,其母亦飛來。不以近。遠,其母必知處。 然後各致小錢於巾,埋東行陰墻下。 三日開之,即以母血塗之如前。 毎市物,先用子即子歸母,用母者即母歸子,如此輪還,不知休息。 若買金銀珍寶,即錢不還。 青蚨,一名魚伯。 原典はコレ。・・・ 【青蚨】似蟬而状稍大,其味辛,可食。毎生子,必依草葉,大如蠶子。人將子歸,其母亦飛來,不以近遠,其母必知處。然後各致小錢錢字原空闕。據黄本補。于巾,埋東行陰牆下,三日開之,即以母血塗之如前。毎蟬物。先用子,即子歸母;用母者,即母歸子。如此輪還,不知休息。若買金銀珍寶,即錢不還。青蚨者,一名【魚伯】。 出《窮神秘苑》。 母子関係とそれに繋がる錢話が、いかにも唐突。穴銭を100枚(実際は81。)まとめて紐に通して、高額貨幣として使っていたものを【青蚨】と呼んでいる理由を記載したかったようだが。(ついでながら、その、縄索で纏まった串銭を"貫"と呼ぶ。…[用例]開貫瀉蚨母,買冰夏蠅。 [「出城別張又新酬李漢」 李賀]) その辺りは、晋 干宝:「捜神記」卷一三が詳しい。・・・ 南方有虫、 名【𧑒𧍪】、 一名則【蠋】、 又名【青蚨】。 形似蝉而稍大。味辛美、可食。 生子必依草葉、大如蚕子。 取其子、母即飛来、不以遠近。雖潜取其子、母必知処。 以母血塗銭八十一文、以子血塗銭八十一文。毎市物、或先用母銭、或先用子銭、皆復飛帰、輪転無已。 故、淮南子術[万華術]以之還銭、名曰青蚨。 ともあれ、名前は多岐に渡る。 「本草綱目」卷四十 蟲之二 【青蚨】では、[釋名]として、蠋を除外し6つ記載されている。 蚨蟬 蟱蝸 𧑒𧍪 蒲蝱 魚父 魚伯 魚伯は、ヒト的な河神であるが、概念が違うから、これとは無縁と考えてよさそう。・・・ 水君状如人,乘馬,衆魚導從。一名【魚伯】,大水有之,漢末有人於河際見之。 [晉 崔豹:「古今註」卷中 魚蟲] ここでの魚父とか、魚伯という名称は、水蟲の類という意味であろう。 魚伯識水旱之氣,蜉蝣曉潛泉之地, [「抱朴子」内篇 對俗] "蚨"には蟬的"蝗"イメージができあがっていて、富を導く水蟲とみなされたのだろうか。 水蟲なら、香りが病みつきになるらしいゲンゴロウやタガメといった東南アジアの人気食材系の虫と言う気にもなるが、水中棲の肉食虫だから、草の上まで昇る習性はなかろう。 ただ、蝉の格好をしているとすれば、甲中系としたいところ。インドシナの山岳部では、甲虫類は羽と足を外して外殻丸ごと食べており、可食との記述に合致するからだ。しかし、水辺の昆虫にはあてはまらないから、外すしかなさそう。(蛋白源が乏しい地域の食だが、成虫一匹ではたいした量は期待できそうにない。おそらく、ボリボリ食感を楽しみながら大量に食べるのだろう。おそらく、蝉とは食感的には相当違うのではないか。蝉は、油で揚げて帝の食前に供さたに違いないく、高貴な食だったからである。おそらく、羽化直後の柔らかい状態で捕獲し、羽をもぐのだろう。) そうなると、どうしても、そこいらの蛾の類と考えたくなる。 蚕[=蠶]の子、つまり一般的なイモムシ類と同じ大きさと記載しているからだ。この類なら、成虫も幼虫も食べることができそうだし。蝉と似ているとは思えないが、味的には蝉並みではなかろうか。 イヤー、実に難しい。 しかしながら、石や草の上に出て来る水蟲に拘るなら、以下の類に属している虫と見なすしかなかろう。 蜉蝣/カゲロウ/Epheneroptera 石蠅/河螻蛄(磧翅類)/カワゲラ/Stonefly …成虫は陸棲。 石蛾/飛螻蛄(毛翅類)/トビケラCaddisfly …幼虫は芋虫体型で巣を作る。陸上羽化。 ただ、これらに"可食"と呼ばれる虫がいるかと言われると、なんとも言い難し。 日本の天竜川上流域という狭い地域に限定すると、カワゲラ、トビケラの幼虫(ざざ虫)食は存在している。佃煮だけでなく、揚げ物にもするということだから、大陸でもそのような食文化が存在していた可能性はあろう。 「本草綱目」では、青蚨と蜉蝣は別扱いなので、同一視する訳にはいかないが、成虫になって二日ほどで死んでしまうはかない命の虫を特別視してもおかしくないから、その一種のような気もする。 しかも、不完全変態であるから蛹を経ずに羽化することになり、幼虫であっても、成虫一歩手前ということになろう。生殖のための期間はとてつもなく短いから、成虫は羽化寸前の幼虫の側からかたときも離れようとしないということかも。 交尾の相手を目視で発見できるとは思えないから、なんらかの化学物質を発散させて総雌の出逢いを実現させている可能性もあろう。そうなれば、体液が付着している箇所に近くの成虫がやってくる現象は大いにありそう。 以上、素人の推定。 (参考邦訳) 段成式[今村与志雄 訳]:「酉陽雑俎」東洋文庫/平凡社 1980・・・訳と註のみで、原漢文は非掲載. 「酉陽雑俎」の面白さの目次へ>>> トップ頁へ>>> (C) 2017 RandDManagement.com |