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☀ 📖■■■ 「酉陽雑俎」の面白さ 2017.12.15 ■■■
人の虎変身譚
虎変身譚が収録されている。[續集卷二 支諾皋中]・・・虢州五城縣黑魚谷，貞元中，百姓王用業炭於谷中。
中有水，方數歩，常見二黑魚，長尺余，遊於水上。
用伐木饑困，遂食一魚。
其弟驚曰：
“此魚或谷中靈物，兄奈何殺此！”
有頃，其妻餉之。
用運斤不已，久乃轉面。
妻覺状貌有異，呼其弟視之。
忽褫衣號躍，變為虎焉，徑入山。
時時殺獐鹿，夜擲庭中。
如此二年。
一日日昏，叩門自名曰：
“我用也。”
弟應曰：
“我兄變為虎三年矣，何鬼假吾兄姓名？”
又曰：
“我往年殺黑魚，冥謫為虎。
比因殺人，冥官笞余一百。
今免放，杖傷遍體。
汝第視予無疑也。”
弟喜，遽開門，見一人，頭猶是虎，因怖死。
舉家叫呼奔避，竟為村人格殺之。
驗其身有黑子，信王用也，但首未變。
元和中，處士趙齊約常至谷中，見村人説。
貞元[785-805年]期の話。
虢州[＠河南霊宝]五城縣黑魚谷でのこと。
ここらは、西坡遺跡(仰韶文化)辺りで、いかにも古代神化伝説の地といった風情あり。
百姓の王用はこの谷の中で炭焼業に従事していた。
その谷には、数歩四方の広さの水辺があり、
何時も、2尾の魚がおり、身の長さは1尺余りで
水面を遊泳していた。
王用は木を伐採していて、飢えを感じたので、
遂に、その１尾を食べてしまった。
弟はそれに驚いて言った。
「此の魚は谷の中の靈物だヨ。
兄さん、なんで殺したりするの！」と。
頃合いになって、妻が食事の用意をした。
しかし、王用は斧を使い続け、仕事に没入。
そうこうするうち、顔をこちらに向けた。
妻は、その容貌が異常な状態であることに気付き、
弟を呼び、様子を視たのである。
すると、忽然と、衣服を剥ぐようにして脱ぎ、
叫んだと思うと勢いよくとびあがったのである。
そして、なんと虎になり、まっすぐに山に入ってしまった。
その後、時々、東方狍/獐鹿/ノロジカ/Eastern roe deerを殺し、それを夜中に庭の中に放擲したのである。
斯くの如しで、２年が経った。
ある日のこと、日が暮れ、門を叩き、自ら名乗る者がいた。
「我は、"用"なり。」と言うのである。
それに応えて、弟は言った。
「我が兄は、虎に変身してしまい、かれこれ３年。
何処の鬼かネ？
我が兄の姓名を騙るのは。」と。
すると、又、語る。
「我、往年のことだが、あの黒魚を殺してしまった。
そのため、冥土で虎にさせられてしまった。
そうなってから、人も殺しもしたので、
冥土の官僚から鞭打ち100回の笞刑を受けてしまった。
今、ようやくにして、放免されたところ。
杖の傷跡が身体に残っている状態。
汝、その次第を視てみよ。
そうすれば、もう疑うこともなくなろう。」と。
それを聞いて、弟、喜ぶ。
ついに門を開いたところ、
一人おり、それを見たのだが、
その頭は、猶、虎のママ。
余りの恐怖で、弟は死んでしまったのである。
家人もあげて叫び、呼応し奔走し、皆避難してしまった。
その果てに、村人はなぐり殺してしまった。
その遺体を検分したところ、黒子が見つかり、これは確かに王用と信じるに足るとされた。
ただ、首から上は未だ変わらず虎頭。
元和年間[806-820年]に、處士の趙齊約が、その谷の中によく行っており、村人の言説に出会ったとのこと。
「太平御覧」には、人⇔虎の変身にまつわる話が21も収録されているという。極めて近しい存在の動物だったと言えよう。
そのなかでも、日本で有名なのが、李景亮:「人虎伝」(「宣室記」"李徴"をベースとした小説。)である。
だが、成式がそのような文芸を目指しているとはとうてい思えないし、「宣室記」に感興を覚えることもなかろう。
ここは、リアリズムで読め、ということでは。
確からしいのは、王用は妻と弟のもとから突然去ったという点だが、ココが曲者。
もともと虎仮面の盗賊団に近しく、無頼漢として家も地域でも札付きの嫌われ者だったとすれば、鼻つまみ者を拉致してくれと頼んだ可能性があろう。
消えてくれて、一段落。万々歳である。
ところが、王用は組織の人間ではないから、上手くいかず戻ってきてしまう。そうなると、元の木阿弥。弟は兄に、もう主人には戻れんゾと通告したのであろう。
妻と弟による追い出し作戦に気付いた王用は、激怒し弟を殺害。
しかし、このままでは一大事ということで、妻と家人は大騒ぎし、村人に助けを乞う。そんな事情を百も承知だから、鼻つまみ者の帰還許さずといったところ。
閉鎖社会ではよくある仕業。部外者には、虎頭人身の怪物になってしまった王用という者を皆で ブッ殺したと伝えればよいだけのこと。
(参照) 王員:"「山月記」および「人虎伝」における唐以前の虎の変身語要素の伝承 "言語文化共同研究プロジェクト 2014＠大阪大学大学院言語文化研究科 2015年
(参考邦訳) 段成式[今村与志雄 訳]:「酉陽雑俎」東洋文庫/平凡社 1980・・・訳と註のみで、原漢文は非掲載.
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