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☀ 📖■■■ 「酉陽雑俎」の面白さ 2017.12.22 ■■■
麻疹
赤瘡とは"蟲"ですゾ話。[續集卷二 支諾皋中]・・・長慶初，洛陽利俗坊有百姓行車數輛，出長夏門。
有一人負布囊，
求寄囊於車中，且戒勿妄開，因返入利俗坊。
才入坊，内有哭聲起。
受寄者發囊視之，其口結以生綆，
内有一物，状如牛胞，及黑繩長數尺，
百姓驚，遽斂結之。
有頃，其人亦至，復曰：
“我足痛，欲憩君車中數裏，可乎？”
百姓知其異，許之。
其人登車，覽其囊不悅，顧曰：
“何無信？”
百姓謝之。
又曰：
“我非人，冥司俾予録五百人，
明歴陜，虢，晉，絳，及至此，
人多蟲，唯得二十五人耳。
今須往徐、泗。”
又曰：
“君曉予言蟲乎？患赤瘡即蟲耳。”
車行二裏，遂辭：
“有程，不可久留。
君有壽者，不復憂矣。”
忽負囊下車，失所在。
其年夏，天下多患赤瘡，少有死者。
長慶初[穆宗代:821年]のこと。
洛陽の利俗坊[＝正俗坊]の百姓が車数台を連ねて長夏門から出立した。
長夏門は洛陽城南中央にあった。その東第一街が【仁和】坊で、その北が【正俗】坊である。「酉陽雑俎」の話は《宣室志》が原典のようである。この坊里には、李固言、盧氏の邸宅があった。
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┼┼┼┼│【正俗】
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│【帰徳】▼【仁和】
│------長夏門------ [「唐兩京城坊考」卷五]
伊水
すると、布嚢を背負った男が一人でてきて、車の中にその嚢を預託させて欲しいと言ってきた。
ただ、みだりに開けてはならぬと戒めを受けたのである。
そこで、百姓は、引き返して利俗坊に入った。
坊里に入ったところ、内部の方で慟哭の声が起きた。
預託された百姓は、嚢をあばいて中を視たのである。
その口は、真新しいつるべ縄で結んであり、
内には、牛の胎盤のような物が１つと、
長さ数尺の黒縄が入っていた。
百姓は仰天し、すぐに引き閉めた。
そうこうするうち、そのお方が又やって来て、再び言った。
「我は足が痛くてたまらぬ。
君の車中で数里の間休憩させて欲しいのだが、
如何なものか？」と。
百姓は、このお方が異界の人と知っていたので、許可した。
そのお方は、乗車し、その嚢の状況にに気付いて、不悅になり、
言った。
「何故に、信を守らなかったのだ？」と。
百姓平謝り。
そこで、又、言った。
「我は人に非ず。
冥界の司により、五百人を予め採用すべく活動している。
夜が明ける間に、陜、虢、晉、絳を経てここに至った。
(河南道汴州の陜州[＠三門峡陕]と虢州[＠河南霊宝]に河東道蒲州の晉州[＠山西臨汾]と絳州[＠山西聞喜])
人々には"蟲"がいることが多く、
ただ、獲得できたのは２５人にすぎない。
そして、今から、すべからく、徐、泗に往かねばならぬ。」と。
(河南道汴州の徐州[＠江蘇徐州彭城]と泗州[＠安徽/江蘇-天長/盱眙/明光/泗洪])
さらに、言った。
「君は私が言った"蟲"を知っているかネ？
赤瘡[＝麻疹/はしか]を罹患することこそが"蟲"なのだヨ。」と。
車が２里行ったところで、ついに別れを告げることとなった。
「旅程があって、長く留まってはいられない。
君は、長寿者であるから、何も憂えることは無い。」と。
そして、忽然と、嚢を背負ったまま下車したのである。
その後の所在はわからない。
その年の夏のことだが、天下は赤瘡の罹患者が大勢でた。
しかし、死亡者は少なかった。
尚、「太平廣記」巻三百四十六鬼三十一"では、この最後の部分は"其年夏，諸州人多患赤瘡，亦有死者。(出《宣室志》)" となっている。恣意的に"間違えた風"に記載したのかも。
麻疹は、免疫力の有無で運命が左右される。免疫が全く無いと、成人は一発でお陀仏とも。唐代はなす術がない極めて危険な疾病とされていたであろう。たとえ、死亡を免れても、失明する場合も多く、人々から恐れられていたのは間違いない。
この百姓は免疫があるからほぼ大丈夫なのであろう。
(日本では藤原氏全盛期に、天然痘と麻疹が貴族階級で大流行。小生は、これが新興仏教が拡がった理由と見る。)
現代では、麻疹は、ウイルスの空気感染で拡がることが知られているが、そのウイルスは牛を家畜化する過程で牛疫から生まれたと推定されている。
それを考えると、"牛胞"の如きものを持ち歩く冥界の官吏が徘徊するという話は、その辺りを薄々感じ取っているようにも思える。つまり、赤瘡は牛飼から始まったもので、それが流行するのは大都会だけだから、誰かが意図的に拡大していると考えたということ。
成式が評価している、孫思邀:「備急千金要方」第五下 少小嬰孺方下 癰疽瘰第八を見ると、流石に赤瘡対応は書かれていないようだが、現代の免疫予防の種痘を思わせるような瘡への処方が掲載されている。
治小兒疣目方: 以針及小刀子決目四面，令似血出，取患瘡汁黄膿敷之，莫近水三日，即膿潰根動脱落。
官僚システムは異国も含めた網羅的情報収集と、そこからのご都合主義的物真似と取捨選択はお得意だが、その裏返しで概念的把握能力が弱体。そのため"気付き"は期待できないから、せっかくのチャンスは生かせないことがよくわかる。
成式先生は、そこらをよくご存知だったと見える。
(参考邦訳) 段成式[今村与志雄 訳]:「酉陽雑俎」東洋文庫/平凡社 1980・・・訳と註のみで、原漢文は非掲載.
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