---アジアの先進国

  中国の移動体通信政策の凄さ。

 中国政府の統計によれば、2002年11月末に、固定電話が2億1,268万台、移動電話が2億31万台に達した。移動電話の対前年累計新増分はなんと5,509万台だ。(http://www.mii.gov.cn/mii/hyzw/tongji/yb/tongjiziliao200211.htm)
 信じ難いような規模とスピードでの普及だ。
 一方、日本を見ると、2002年12月末の国内の移動電話が7352万台(前年末より641万台増)、PHSが557万台(前年末より13万台減)である。(速報値 http://www.soumu.go.jp/joho_tsusin/pressrelease/japanese/sogo_tsusin/030110_1.html)
 日本国内の累積台数に匹敵する規模の市場が、中国では1年程度で開拓されるのである。

 中国の特徴といえば、このような市場の巨大さと、成長スピードばかり語られる。しかし、注目すべきは、市場のダイナミズムの方だ。通信分野はどの国でも管理が厳しく、国内産業保護は鉄則であり、中国も例外ではないが、大胆な競争政策を貫いており、日本とは大きく異なる。

 と言っても、基本政策(規制当局はMII)は日本とたいして変わらない。
 国家管理だった電話事業を、固定と移動を分離した上、競合環境を整えた。固定の核は中国電信(China Telecom)、移動を、中国移動通信(China Mobile)、中国聯合通信(China Unicom)の2大企業中心の展開とした。(固定としてはさらにChina Railway Telecom、衛星はChina Satellite、インターネットはChina NetcomとJitong Communicationといった体制。)
 電話機メーカーに関しても、一応は認可制度があり、厳格な管理が行われている。(といっても、多数の参入者を認めている。)

 しかし、見かけの骨格は似ていても、市場での現実の動きは全く違う。メーカー間の熾烈な競争が喚起され、短期間でシェアが大きく変動している。
 つい最近まで、中国通を自称するビジネスマンは「中国のケータイの代名詞はモトローラ」と語っていた。確かに圧倒的だったのである。ところが、1994年に欧州規格にも市場を開いたため、ノキア、エリクソンの両巨頭が一挙にシェアを獲得し状況は一変する。しかも、欧州規格が普及し始めたため、シーメンスやアルカテルも浸透を図り始めるし、CDMAのトップメーカーサムスンもシェア獲得に注力した。このため、2000年頃から、まさに大乱戦となった。規制はあるが、ほとんど自由市場に近い競争だ。大手メーカー間の戦いではあるが、地位がいつ入れ替わっても驚きでない。
 これに加え、中国勢がシェアを伸ばし始めた。WTO加盟で、競争条件が同一になったため、競争はさらに激化している。(2002年第3四半期のシェアは、サムスン3位、中国のTCLが4位との報道もある。) (http://www.ccidnet.com/news/industryexpress/2002/11/12/128_77769.html)  こうした状況下で、日本企業は、NEC/松下が参入しているとはいえ、部品を別とすれば、ほとんど存在感が感じられない。

 日本市場の、庇護された枠組み内の競争経験だけで、ダイナミックな展開が必要な戦場に参入しても、ほとんど力が発揮しえないといえそうだ。
 日本の競争状況が極めて特殊なのは携帯「写メール」のヒットを見れば一目瞭然だ。イノベーティブな開発企業にもかかわらず、競争参加さえ認められなかったのだ。こうした弊害は昔から言われ続けてきたにもかかわらず、政府は黙認している。黙認が、通信メーカー保護政策になると、勘違いしているのだろう。
 製品開発のイノベーターを呼び込む競争政策がなければ、長期的には産業全体が衰退する。通信企業は、自らの首を締めることになる。

 中国の競争政策が生きていることの証は、固定電話側の動きにも見てとれる。中国電信は既に保有している固定通信網の上にPHS網(中国名は「小霊通」)を構築して、積極的なビジネス展開を始めている。移動分野に参入できなかったため、携帯機能を持つPHSに注力し始めたのである。投資額が少なくて済むため、地方都市中心に普及が進んでいる。
 もちろん、政府の指導で始まったものではない。全く逆である。
 自由な競争が始まれば、UTStarcomのように、通信サービス業に対して、積極的にPHSインフラ展開(「PAS」)を始める企業も登場する。この分野でも、メーカー間の競争は激しい。[UTStarcomは、日本から(孫正義ファンド)出資を仰いでいる。] (http://ir.thomsonfn.com/InvestorRelations/PubCorporateOverview.aspx?partner=Mzg0TlRFeE9BPT1QJFkEQUALSTO&product=MzgwU1ZJPVAkWQEQUALSTOEQUALSTO)

 PHS技術は、安価にインターネット接続できる点で、第3世代携帯と互角以上に戦える。しかも、日本が発祥元だ。日本企業にとって、移動体通信市場の橋頭堡確保という点でも、大きなチャンスがある分野といえる。ところが、一部の日本企業を除けば、中国市場への参入意欲は感じられない。次世代携帯への注力姿勢を見せなければならないからであろう。チャンスが巡ってきても、国内の枠組み維持のために、その力を生かせないのだ。

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