---デジタルメディアの進展

  アナーキズムに抗して

 本物とコピー品があり、両者には機能・品質上何の差もないとする。本物入手には、やっかいな購入手続きの上、費用を支払う必要がある。一方、コピー品の場合、至極簡単な操作のみで、無料で即時入手できる。・・・このような状態になれば、市場崩壊必至なのは、義務教育を受けていればわかる筈だ。

 ところが、匿名ファイル交換の仕組みを用いた、コピー品の無料提供がまかり通っている。しかも、支払う余裕が無い発展途上国ではなく、先進国の「リッチ」な人々が行っている。それも、隠れてやっているのではない。単なる違法行為を革新的行動と賞賛する思想家の支援を受け、堂々と進めている。
 資本主義の社会では、こうした動きは、アナーキズム運動とみなさざるをえまい。

 ファイル交換の仕組みは、世界中のコンピュータを直接繋げる革新技術といえる。本来なら、革新技術を活用して、新産業を興し、経済発展を狙うべきである。これが、先進国産業技術の役割といえよう。
 ところが、実際は、アナーキズムと言わざるを得ない形で技術応用が進んでいる。貨幣に基づいた商品経済の社会を否定し、物々交換経済に逆戻りさせようとの動きがおきている。にもかかわらず、この動きを「先進的」と勘違いして、支援する人達が増えている。

 アナーキズムをここまで助長させたのは、既得権益側が、旧態依然たる仕組みを変えようとしないからだ。インターネット経由の有料コピーサービスを本格的に立ち上げる努力をせず、無料ファイル交換ブームを創出したNapsterを消滅させ、ただただ制度を守ろうとする姿勢が、こうした結果を招いたともいえる。

 新しいプロモーションの仕組みや、低コストのミュージシャン登場の場を与えるといった、動きを避け続け、消費者のメリット向上の試みもせず、新技術応用の場も提供しなければ、こうした動きが始まるのは当然だ。
 聴き放題サービスにしても、「Rhapsody」(http://www.listen.com/)、「pressplay/MP3.com」[ソニー・ミュージックエンタテインメント+ユニバーサルミュージックグループ] (http://www.pressplay.com/)、「MusicNet/RealOne」[ワーナーミュージックグループ+BMGエンタテインメント+EMIレコードミュージック ](http://www.musicnet.com/)が実質稼動し始めたのは2001年末である。Napsterに潜在顧客を取られていたとはいえ、キラーアプリとわかってからようやく動き始める。余りに遅すぎる。
 にもかかわらず、「消費者はインターネットを無料提供の場と考えている」と顧客を平然と批判する業界人が多いようだ。旧勢力側にも、アナーキズム浸透を間接的に助力したい勢力があるとしか思えない。
 しかも、ファイル交換技術の流れを知りながら、レコード業界はNapster消滅だけに拘泥した。これが最悪の状況を招くのはわかりきったことだ。

 Napsterの仕組みは、ファイルの情報紹介を行うために中央サーバが必要となる。本来は、この動きを活用して、新ビジネス創出の糸口にするべきだった。
 このような仕組みを違法化すれば、Gnutellaのようなサーバ不要の逐次参加型ネットワーク型が広まるだけだ。実際、その流れができつつあるし、Gnutellaより秘匿性が高い仕組みが、次々と出現している。インターネット上の自由を認める限り、このようなソフトを取り締まる手段は無い。(例えば、Freenetはコンテンツまで暗号化できるというし、日本でもWinMXやWinnyを駆使するコミュニティが立ちあがっているそうだ。)
 このような仕組みが普及すれば、ファイル交換記録が無いから、完璧な匿名状況の取引が可能になる。
 そうなると、音楽だけでなく、ビデオ/画像/ドキュメントといった他の出版物や、プログラムも同じ道をたどることになる。コピー交換が広がれば、すべての市場が壊滅しかねない。
 すでに、様々なサイトがファイル交換ソフトを提供し始めており、事態は深刻と見るべきだろう。[上記以外にも、KaZaA、Morpheus、BearShare、Morpheus、等沢山ある。](http://www.musicunited.org/)

 ファイル交換のインフラができてしまえば、捕捉不能な違法取引の温床となりかねない。市場壊滅を避けるには、個人の倫理感に期待するしかない。

 もしも、こうしたネットワークが巨大化すれば、通信量が爆発的に伸びることになる。下手をすれば、インターネット網を塞ぎかねない。
 そうなれば、アナーキズム勢力対インターネット統制勢力の両極による不毛な対立が始まる。どちらが勝利しても、一般の利用者にとっては迷惑な話しだ。
 これは杞憂ともいえない。実際に、危険性を孕む動きが、あちらこちらで始まっているからだ。

 混乱を避けるには、デジタル情報配布の有料インフラを早急に打ち立てる必要があろう。エンタテインメント産業は、産業防衛発想を捨て、アーティストや著作権者が動き易い新制度を導入すべきだ。

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