---日本のIT戦略

  NTTの光アクセス戦略

 週刊東洋経済2003年5月10日号The Headlineの記事「NTTの光アクセス戦略」を読んで驚いた。

 NTTが、1本の光ファイバーを多数の家庭が共有する形態での光通信普及を進めている、というのである。共有では、大容量通信にならないから、時代の流れに逆らう動きだ、との指摘だ。
 簡単な記載なので、NTTの戦略内容がはっきりしないが、おそらく、帯域保証実現ができる「シェアードアクセス方式」導入を指していると思われる。

 これは難しい問題である。NTTの戦略に対して批判的な論調だが、どちらが妥当とは言いきれないからだ。
 どのような光通信インフラがベストかは、技術の問題もさることながら、社会の将来像で大きくかわる。簡単ではないのだ。

 しかし、この記事は重要な問題提起をしているともいえる。
 批判内容はどうあれ、こうした問題は、本来は、早くからオープンに議論されるべきである。ところが、ほとんどの専門家は、NTTへはアドバイスするが、オープンな議論は避ける。業界インサイダーと見なされると実利があるからだろう。NTTにとっても、様々な意見を聴取している体裁が整えば、訳のわからぬ批判の嵐に曝されないで意思決定ができて好都合だろう。
 これでは、変化が激しくなっているのにもかかわらず、ISDN時代の意思決定とたいしてかわらない。・・・同じ轍を踏む可能性が高いといえよう。

 NTTが置かれている立場から見れば、「シェアードアクセス」戦略もありうるが、それが利用側にとってベストかは別な問題である。オープンな議論は、積極的利用者の掘り起こしには必須条件なのである。インフラ利用側の意向を無視すれば、ISDNのように利用がさっぱり進まないこともある。

 情報が少なすぎるので、どうなるかは予想がつかないが、とりあえず、光通信ネットワークの現状をざっくりと眺めてみよう。

 現時点では、家庭向光ファイバー通信はまだほんの導入期である。(しかし、急激に立ちあがる可能性が高い。)
 この段階では、家庭までの光ファイバー引き込み工事が早く進むなら、どの方式でもたいした問題ではない。というより、面倒でお金と時間がかかる引き込み工事を早く進めることが重要と言った方がよいだろう。従って、安価な仕組みがベストと思われる。
 この観点からいえば、「Bフレッツ/ベーシックタイプ」のような方式が主流なるのは当然である。家庭側のインターフェースは光ファイバー上の信号を銅線上に載せるだけの安価な機器(メディアコンバータ)を使う仕組みである。(光ファイバー用端末機器のOptical Network Unitは用いない。)これは、NTTの局側にLANスイッチを設置して、これに光ファイバーを繋げただけのイーサネットである。オフィス内のイーサネットとほぼ同じだ。安価な機器ですぐに対応できる。

 しかし、この仕組みで、この先もニーズに応えられるとは言い難い。
 構造上、高度なネットワーク管理は無理だ。そうなると、特別なサービス提供はできかねる。
 しかも、ベストエフォート型なので、回線が混み合うと通信容量は急低下する。もしも、皆がP2Pで動画配信を始めたら、即、パンクして、大混乱になりかねない。(もっとも、実態からいえば、幹線はガラ空きで、ローカルな回線だけが時折混雑するという状況だ。しかし、この先どうなるかは、利用パターンで決まる、将来を見通せる人などいないから、簡単に結論はだせない。)
 このままベストエフォートを続けることに疑問を感じるのは、極く自然といえる。IP電話をライフライン化して本格的に普及を狙うなら、最低通信容量保証はどうしても必要になる。

 そうなると、今の、家庭向け「Bフレッツ/ベーシックタイプ」サービスとは全く違う仕組みが必要となる。しかし、安価なベストエフォート型の普及が始まっており、NTTももたもたしていれなくなったというのが実情といえよう。

 2003年4月23日の和田社長をはじめとする幹部の3ヵ年計画への質疑応答でも、レゾナントの世界を実現する明確な意志が示された。光の急速普及に賭けるようだ。 (http://www.ntt.co.jp/ir/irtools/presen/o/meta/030423b_56k.ram)
[2002年に、NTTグループは、5年先の光通信時代に向けたグループの取組みをまとめ、「“光”新世代ビジョン―ブロードバンドでレゾナントコミュニケーションの世界へ―」として発表した。この構想によれば、ホームゲートウエーを介して、エンド・ツウ・エンドのリアルタイムコネクションを図り、超経済化を実現するとされている。なかでも、インターネットテレビのようなユーザーがコンテンツを選べる仕組みを、帯域100Mbps〜1Gbpsで持ち込むことがハイライトといえよう。(http://www.ntt.co.jp/vision/pdf/presen_0304.pdf)]

 こうなると、光の普及を「Bフレッツ/ベーシックタイプ」で進めるか、他の方式で進めるかが問題になる。IP電話を本格的に始めるつもりなら、「シェアードアクセス」型で最低通信容量保証を図る方式が登場しても驚きではない。

 ところが、これは表面的な話しであり、光ファイバーを導入して通信多重化を図るのなら、全く違う将来像も描ける。
 例えば、インターネットだけでなく、CATV放送回線やISDNを同時に利用できるネットワークも作れる。そうなると、放送インフラを取り仕切ることが可能になる上、セキュリティ保証が可能な付加サービスを加えることもできる。しかも、今まで投資してきた、電話線、CATV同軸ケーブル、テレビ電波放送といったインフラはすべて無駄になる。

 どのような決定にしろ、議論をオープンにしない限り、インサイダー以外は、発表内容をそのまま受け取ることはない。疑心暗鬼の状態で、新しい利用方法を試行する挑戦者が現われることなどあるまい。


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