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2006.3.9
 
 


電子図書館構想の底流…

 2006年3月2日、EU委員会が“European Digital Library”の構築に向かって進むと発表した。(1)
 ついに来たか、という印象である。

 “digital economy”を切り拓くプロジェクトとの位置づけだが、日本ではそのような発想をする人は少数派だと思う。ブロードバンド回線が普及し、電子取引数で遅れをとっていなければ、大きな問題はなかろう、といった感覚だと思う。
 そもそも、状況認識が違うのだろう。

 知の生産性競争が始まっていると考えていれば、知を生み出す仕組みを欠けば、勝負にならないのは自明の筈だが。

 ビジネスマンなら肌でわかる。
 情報を利用するためには、その準備として、収集作業と分析作業が必要だ。ところが、データ収集量が年々増え続けているのである。収集作業の負担が重くなってきたから、電子化で対応しなければ、分析時間を削るしかなくなりかねない。
 従って、電子化に遅れれば、競争力低下は避けられないのである。

 もっとも、そんなことはわかっていると言う人が多い。
 電子図書館を簡単に考えているのだ。蔵書検索を電子化し、データベースやオンラインジャーナルへのアクセスができさえすれば、たいした問題ではないと見なしているのである。必要なら、ITの設備投資で、なんとかなると見なしている訳だ。
 しかし、現実には、電子図書館には、厄介な問題が山積しているのである。

 まず、著作権がからむ。さらに、既存の図書館がデジタル化に賛成しなければ、一歩も進まない。

 そして、実情をよく見ておくべきだろう。
 学術雑誌では、寡占化が進んでいる。数千万ページを保有し、科学の領域の知を管理する民間企業が存在するまでになった。
 知的情報へのアクセスを民間企業が握る状態になってきた。
 この環境下で、電子図書館とはどうあるべきか、ということが問われているのである。

 言うまでもないが、なにより重要なのは、利用者と蓄積情報をどう結びつけるかの方法論である。様々なニーズに合わせ、どのように情報を提供すべきかは、まだ未発達な領域で、どのような方法がベストかは自明ではない。
 例えば、ドキュメンテーションのコード化のやり方(2)ひとつで、情報アクセスの流れが変わってしまいかねない。どう標準化していくべきかも、結構重要なのである。

 Google の動きは、この観点では、まさに風雲児的である。
 現在のGoogle 検索では、とても学術分野での絞込み検索に使えるレベルではない。しかし、その膨大な情報量と網羅性、さらには高速検索能力を考えると、使い方によっては、大きな力を持つ可能性は否定できない。
 この分野は、まだ流動的なのである。

 ところが、日本の図書館情報学は、こうした波に関与する気がないように映る。
 2006年には、図書館情報大学(前身:図書館職員教習所)が閉学した。電子図書館標準化でリーダーシップを発揮しそうなものだが、独立法人化の波で存立基盤を崩されてしまったようである。
 細かな学会出版をこれからどうすべきかとか、寡占化している海外巨大コンテンツのバックアップデータベース構想を作るとか、著作権切れのコンテンツのデジタル化のありかた、等々、議論すべきことは周辺にゴロゴロしていているのだが、すべて図書館情報学の分野外ということかもしれない。
 おそらく、そんな発想の学問では、これからの時代に役に立つまい。

 もっとも、だからといって、欧州が先端を歩んでいるとは思えないが。

 電子図書館といっても、基調は、文化遺産の保存の流れである。従って、見方によっては、デジタル化による保存策と見なすこともできる。それでも、欧州は国家の寄せ集まりだから、共通基盤を作る作業にはなる。
 こうした動きに、英国や北欧がデジタル化積極策をのっけたようである。これによって、デジタル経済に向かう弾みをつけようと考えているのだろう。

 日本は、コンテンツをどう調達し、それをどう料理するのか、について関心が薄すぎるのではないか。
 学術論文数でピークアウトしているのだから、知的生産性を向上できなければ、競争力低下は避けられないと思うのだが。

 --- 参照 ---
(1) http://europa.eu.int/rapid/pressReleasesAction.do?reference=IP/06/253&format=HTML&aged=0&language=EN&guiLanguage=en
(2) http://dublincore.org/about/overview/


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