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2007.10.18
 
 


自治体EAに期待できるか…

 自治体情報システムで、“レガシーシステムの見直しとオープン化”(1)が始まっており、これが本格化してくれば、改革が進むと見ている人が多いようだ。
 そんな楽観主義でよいのだろうか。
 もう動きが始まってしまったから手のつけようもなさそうだが、このまま進めば、エンジニアが一生懸命に働けば働くほど、IT産業は弱体化しかねないと思うのだが。

 なにが問題か、簡単に説明しておこう。

 自治体情報システムは企業とは目的が違う。それでは、何が目的かといえば、3つある。
  1, 住民サービスの向上
  2. 行政の効率化
  3. 地域IT産業の振興

 一見、企業とたいして変わらないように映るが、実は水と油。特に、この順番が曲者。
 先ずは、予算がとれる範囲で、できる限り様々なニーズに応えられるようにシステムを構築する。企業と違って、収益性や、競争力で考える訳ではないからそうなるのである。当然、システムは巨大化するし、なにかといえば手直し。
 その上で効率化を図る。但し、効率化といっても、担当職員の仕事量を減らすという視点でしか評価できない。民間企業と違って、これ以外の指標は曖昧な数字しかないのだから、致し方ない。従って、情報システム専門家減員、教育研修での対応力向上、単純入力アルバイト増員といった施策が登場するのが普通。要するに、中途半端なスキル無い担当者がとりしきる体制になるだけのこと。この体制で、コンピュータが止まらないように運営しようというのだ。外部に支払うメインテナンス費用はうなぎのぼり必至。
 そして、こうしたシステム構築やメインテナンスに係わる費用の大半は地元に落ちるようにベンダーを“指導”する。

 こんな状況で、メインフレームやオフコンを、オープン化して、安価なハードに換えることで、設備費用を10分の1にしたところで、運営・メインテナンスコストが嵩むことで相殺されるのは見えている。
 自治体組織は伏魔殿状態だから、実態はよくわからぬが、帳簿に直接現れない人件費を考慮すれば、2〜3年の費用と、新システム導入費用は同じ位になっているような気がする。
 どうしてこんなひどいことになるかといえば、自治体は少なくとも以下の5つの問題を抱えているから。

 1つ目は、毎年発生するプログラム更新。
 自治体の業務は、「法律」に沿って、中央の省庁の指導のもとに行なわれる。当たり前だが、常にグレーな部分は発生する。そこで、お伺いを立て、取り扱い方を決めていく。ビジネスマンなら、これだけで、情報システムにどんな影響がでるか想像がつくだろう。例外処理を、どのような体系で扱えばよいか、さっぱりわからない仕組みなのである。つまり、どのような論理でシステムを構築すべきかわからないまま、設計するしかないということ。
 年中、訳のわからぬ理由で、配管工事をさせられるようなもの。プログラムが錯綜しない筈はなかろう。ミスは必ず発生するし、それに対応する費用も半端ではなかろう。

 2つ目は、先が読めない点。
 中央省庁の次年度変更の先読みは無理。ましてや、将来的にどうなるかなど、さっぱりわからない。下手にシステムを構築してしまい、使えなくなってしまわないか、誰にも読めないのである。せいぜいできることと言えば、中央省庁の方針がどう変わりそうか、直近の情報を提供してくれる人達を見つける位だろう。大手企業と付き合うか、政府につながるシンクタンクの先生を雇うしか手はあるまい。  そのアドバイスに従って、システムをどうするか計画を立てるしかない。将来どうするか語れないのだから、システム構想など作れる訳がない。もしアドバイスが外れれば、無駄な投資になる訳で、どうするかはそれこそ鳩首会談。

 3つ目は、業務遂行体制を変えられない内部事情。
 効率向上といっても、現状の作業での話。全体を眺めた合理化の検討はできないのが普通である。組織の改変や、配置転換は簡単にできない組織だから致し方ない。たとえパッケージソフトがあっても、使えないということ。常識で考えれば、自治体業務における独自性などほんの一部だから、他の自治体と同じものを導入すれば安価で楽だが、そんなことはできないのである。自分達の作業手順や組織体制に合わせたシステムにしてもらわないと、組織が動かないのだ。当然ながら、パッケージソフトの価格や、同等のトラブル頻度は望めない。

 4つ目は、ITの流れに表面的に合わせようとする体質。
 自治体の上層部が情報システムに関心を示すことは稀。しかし、体面上、そう映ってはまずいから、世の中の動きに遅れずに対応していることを示したくなる。お陰で、新システムの構築プロジェクトが始まることが多い。この結果、システムの統合が図られたりする。同じデータを使うなら、統合すれば重複仕事がなくなるし、メインテナンスも楽になるといった類の素人発想が好まれる。これで、事務効率向上のリーダーシップが発揮できたということで大満足なのである。しかし、たいていの場合は、スタンドアローンのままの方が効率的だ。それぞれのシステム自体が方針は曖昧で、年中、中味が変わるから、統合すると不安定なシステムになりかねないからである。何の知恵も出せないし、判断能力も無い人が、システム構築の基本方針を決めるのだから、どうなるかはわかりきった話。

 5つ目は、緊急対応できない仕組み。
 官庁とは、計画に沿ってその通り実行するからこそ価値がある。民間企業のように、間違ったと思ったら、朝令暮改で対応する訳にはいかないのだ。このため、何をするにも煩雑な手続きが生じる。ハードの障害が発生しても特例という訳にはいかない。といって、そんなことをしていられないから、ベンダーになんとかするように頼むに違いなかろう。すべてがこんな調子で、コスト管理ができる訳がなかろう。

 このことは、情報システムを真面目に取り組んでいる自治体なら、“レガシーシステムの見直しとオープン化”に簡単に乗る訳がないのである。
 毎年、訳もわからぬ変更が必要となるのだから、スパゲッティ・コードは避けられないかも知れない。となれば、それを前提にした開発体制を作るしかない。それならレガシーシステムで結構となるかも知れない。ハードは高価だろうが、プログラムの中味を十分わかっている人がいるなら、その方が安心だからだ。自力全体設計ができるなら、地元ベンダーでできる部分と、大手に発注すべき部分の仕訳もできるし、モジュール化スキルがあれば、最適ベンダーへの分散発注も合理的に行える。これができるなら、レガシーシステムの方が圧倒的に安上がりかも知れないのである。
 これを、外から見れば、まだメインフレームやオフコンを使っており、古い技術しかわからず、昔からの人達があいも変わらぬスタイルで働いているようにに映るだろう。このため、遅れた自治体と見なしかねないが、実は、こちらが先進的なマネジメントと呼べるかも知れないのだ。

 以上を理解すれば、ベンダーの姿勢も理解できる筈だ。

 ゼロ円入札は当然の話である。なにせ、メインテナンス費用はうなぎのぼりになるのだから。それに、訳のわからぬ変更は必ず入ってくる。複雑化な業務の仕組みが一旦出来上がってしまえば、そう簡単に新システムへの転換はできなくなる。リスクが高すぎて、既存システムに新システムをつなげる離れ業で受注したいと考える企業がいないからだ。

 常識とかけ離れた高額受注もよく調べれば、妥当かも知れないのである。とんでもない無料サービスを埋めているだけの可能性も捨てきれない。

 ゼネコン型と揶揄されるが、それも致し方あるまい。なにせ、「地域IT産業の振興」のために、質はピンキリであっても、ともかく地元企業を使わざるを得ないのである。と言うより、大手発注の必然性などないが、キリの企業があって怖いから、自治体は大手にすべての責任をとって欲しいのである。従って、大手は仕事はしないが、お金だけ通過することになる。ここだけ見ればピンはねだが、キリ企業は確率的に問題を発生させる。この後始末をするためにエンジニアは泣かされるのである。問題が発生しなかったプロジェクトのピンはねで、どうやらこの仕組みが持っているのかも知れない。

 大手企業のエンジニア・研究者にとってみれば、こんな仕組みのなかで、新しいシステムを開発していくのだから、大変である。今時セミカスタムのシステムなど作っていたら、とても商売にならない。要するに、基本構造をつくり、モジュール化して、アクセサリー的に様々なものをつけることで、セミカスタム化に見せかけるようなやり方しかできない。
 しかし、こんなことが簡単にできるほど、コンピュータは進化している訳ではない。
 理屈上ではできる筈でも、ハードが対応できるとの保証は無い。従って、現実にハード上で稼動させる実装の仕事は大事になることが多い。勘が悪いエンジニアが主導していると、破綻することもあろう。自治体はすべての責任をベンダーに押し付けるからたまったものではない。
 しかし、不思議なことに、たいていはどうにかなるようだ。なんとか強引に稼動させているのだろう。日本のエンジニアは、この面では、類稀な能力を持っていると言ってよい。しかし、その力を生かす仕組みは無い。
 従って、この分野の競争力は低下していくに違いない。

 --- 参照 ---
(1) 「自治体EA(Enterprise Architecture)業務・システム刷新化の手引き」 http://www.soumu.go.jp/denshijiti/system_tebiki/kiso/content01.html
(キーボードの写真) (C) まだまだひよこさん(http://taojp.blog115.fc2.com/)
  [photolibrary 40231 パソコン] http://www.photolibrary.jp/img20/81_40231.html


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