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2007.10.29
 
 


国家戦略でもなかろう…

 ICT(Information Technology & Communications Technology)の国家戦略の議論が進んでいるそうだ。日本の底力を発揮しようという意気込み自体は結構な話だが、現状認識や考え方が現場と乖離していなければよいが。
 特に厄介なのは、この分野は、日本は米国について強いと考えている人がいること。

 研究開発比率や特許件数で評価すれば、確かにそういえよう。これを重視すれば“「IT産業競争力指標」ランキングでは、米国の1位に次いで、日本は2位”になるのは当然だ。そして、確かに、この数字通り、材料・部品や装置で圧倒的な競争力を発揮している企業が多い。
 しかし、こうしたセグメントだけ眺めて、ICT産業全体を議論できるものだろうか。
 ICTはバイオテクノロジーとは違うのである。

 重要なのは、実生活とつながる場面で革新を図れる力量かあるかだ。材料・部品や装置はその点では、直接的なものではない。従って、ここだけいくら強くても、国全体を支えることができる訳がなかろう。
 しかし、そういった発想は少数派らしい。
 伸びる領域をはっきり見定め、そこに集中的に力を入れ、国も全力でサポートすることが重要と考える人が多数派らしい。
 そうしたセンスに、がっかりしている人もいるそうだ。

 だが、そもそも、期待するほうがおかしいのではないか。

 e-Japanでハコモノ作りを目標にした反省が全く無いからである。これができない限り、いつまでも同じことを繰り返すことになろう。
 先ずは、この総括である。
 e-Japanとは、すでに引き回し済みで、実質的に遊んでいる光ファイバー回線を開放し、ブロードバンドを普及させることを眼目にしただけ。ミクロで見れば、おそらく、インターネット接続業だけなら、収益率は資本コストを下回っている。これを埋める高収益な事業が生まれない限り、たいした意味はない。

 一方、マクロで見れば、ブロードバンド普及がどれだけ経済にインパクトを与えたのか。結局のところ、一部のネット企業が勃興しただけではないか。
 この程度なら、高い普及率など必要あるまい。低い普及率でも、結果はたいしてかわらなかったのではないか。ブロードバンド化が本当に必要な人は、たとえ高額でも移行したに違いないからだ。なにせ、超高額な携帯電話使用料を気にせず払う人が多いのだから。
 従って、回線さえ開放すれば、インターネット利用者のコミュニティはそれなりに発展していた筈。ただ、スピード早まったのは間違いないが。
 逆に言えば、日本では、ブロードバンド接続料金を払っていても、ナローバンドとほとんど変わらない使い方をする人が大勢いるということ。

 要するに、ブロードバンドが普及したからといって、社会全体で見て飛躍的な生産性向上や新たな価値創造につながったとは思えないのである。

 ただ、よかった点が無い訳ではない。政府の大盤振る舞いで産業を立ち上げようとしなかったからだ。しかし、それは戦略内容とは無関係。

 それより驚くのは、e-Japan IIである。e-Japanは大成功だったが、利用という視点ではもの足りないところがあるから、重点応用分野での活用を図ろうというのだ。

 ICTという技術の性格を全く理解していないことがよくわかる。
 社会にインパクトを及ぼす新しい技術を入れるということは、ミクロでいえば企業や家庭での業務プロセスや生活パターンが変わることを意味する。従って、ICTを使うと、産業構造から、社会の仕組みまで、すべてを変えるきっかけになる。
 ところが、そんな気は全く無いまま、通信インフラを作ることを目標としたのである。インフラができれば、産業が自然に発展すると勘違いしていることがよくわかる。

 はっきり言えば、産業構造は変える気はないし、組織も同じままでいたい。社会変化をできる限り抑えておいて、ICTを活用しようという方針なのである。
 これでは、どうにもなるまい。

 この体質がよくわかるのは、住基カードや電子タグのようなプロジェクト。お上に標準化してもらえば、市場が立ち上がると思っているのだ。

 こんな状態が続く理由は皆わかっているが手をつけられない。
 簡単に言えば、時代感覚豊かなリーダーや優秀な中堅幹部が育っている企業がある一方で、1980年代と全く感覚が変わらない企業が数多くあるということ。
 そんな企業の意見を取り入れるのだから、まともな方針が生まれる訳がなかろう。

 こんなことを続けていたら、日本全体が長期低迷へとひきずりこまれるのではないか。

IT投資マインド(2)
番付 合算点数
1位 インド 100点
7〜10位 仏,韓,米,北欧 64〜58点
15位 イタリア 43点
16位 日本 13点
 先ずは、日本の深刻な状況をしっかり把握すべきである。
 2007年5月に発表されたIT投資マインド調査結果を見れば、一目瞭然。(2)16ヶ国中、群を抜いた最下位。
 得体の知れぬ官需がらみの仕事で食べ続ける企業も目立つし、競争あって無きような産業も多いから、IT投資に興味など湧かないということだろう。

 調査したガートナージャパンの見解によれば、“5年後に果たして日本がIT先進国でいられるかどうか、大きな疑問”だそうだ。

 もっともこれでは実感が湧かないだろうから、投資家の視点での、この分野で活躍する企業番付「BusinessWeekのInfo Tech 100」(3)を眺めるとよいかも知れぬ。この分野の日本企業の状況がよくわかるからだ。
 当然ながら、Amazon.com、Apple Computer、Google、Microsoft、Cisco System、IBM、Oracle等お馴染みの企業が並ぶ。だが、Dell、SAP、Motorolaは選外。
 これだけでも、時代の流れを感ずることができよう。

 なかでも、BusinessWeekのコメントが秀逸。
 フィンランド企業のNokiaが携帯電話の雄となったことを先ず思いおこさせる。その上で、未だに注目される理由を語るのである。
 現在のNokiaは、低所得な国で大きなビジネス生み出していることが評価されているのだ。インド、中国は当たり前だが、アフリカ、ラテンアメリカにも大きなチャンスを見つけたのである。今や発展途上国の携帯電話サービスは市場も大きく、魅力的なビジネスなのである。
 日本の携帯電話メーカーは数多いが、そんな話とは無縁に近い。といって、先進国のビジネスマン相手に、Research In Motionの“BlackBerry”のような商品を出す訳でもない。小さな国内市場のなかで、マスコミをにぎわす新製品開発に大忙し。その一方で、政府の施策を巡って右往左往。すでに、世界のシーンからは消えているのである。
 メーカーに高い技術力がありながら、“戦略的”国策の結果、こうなった訳である。

代表的なインドのIT企業
[番付はInfo Tech 100(3)]
番付 企業名
23 Tata Consultancy Services(TCS)
30 Infosys Technologies
49 Wipro Technologies
70 Cognizant
73 Satyam Computer Services
76 HCL Technologies
 携帯電話はともかく、BusinessWeekのリストに登場する日本企業の数は極めて少ないのである。日本のICT産業に成長性の息吹が感じられなくなっているということでもある。
 登場するのは、ゲーム(任天堂)、通信サービス系(ソフトバンク、 KDDI)とキャノン、東芝、東京エレクトロン、ニコン。要するに、日本企業に注目する人は激減しているということ。
 リストを見ればわかるが、注目されているのは、日本よりは、インド企業の方だ。
 ついに、インドが重要な一角を占める時代が到来したということでもある。

 昔から、シリコンバレーではインド系エンジニアだらけだったし、表に示すように、時代を切り拓いたインド系著名人にもことかかない。米国は優秀な人材の供給源として、ずっとインドを重視してきたのである。多分、ワーキングビザの過半はインド人だろう。
インド系著名人
Hotmail Sabeer Bhatia >>>
Pentium Processor Vinod Dham >>>
Sun Microsystems Vinod Khosla >>>
i2 Technologies Sanjiv Sidhu >>>
LP algorithm Narendra Karmarkar >>>
 ところが、通信回線がグローバル化し料金が低廉になったため、インド現地の低賃金なミドルやボトムクラスのエンジニアの活用に目がいくようになった。プログラム書き、ファイルの保守管理、コールセンター、等々の業務が、一斉にインドへのアウトソーシング化するのは当然の流れ。
 それが、今や、高度な知的業務のアウトソーシングへと変わりつつある。
 低賃金業務は中国企業へ下請けに出すし、コールセンターはフィリピンに流れつつあるから、高度な知的レベルが要求される開発や研究に焦点をあてているのだ。
 組み込みソフト開発や、バイオインフォマティクスのような産業で世界の中心になることを目指していると言ってもよかろう。

 今までのインドの魅力的人材は有名大学(IISc,IIT,IIIT)出身者。数は自ずと限られていた。大学出は多いが、エンジニアはそう多くはないし、ビジネス向きでもなかった。しかも、有名校以外は、硬直的なカリキュラムで変化の兆しもなかった。
 しかし、情報処理産業の成長は目覚しく、その雇用人口は日本をとうに越えているのは間違いない。この巨大産業のニーズに応えるために、高等教育は変わっていくに違いない。
 そうなると、インドから輩出されるICT分野の人材数は膨大になる。この分野の研究開発大国化する可能性大だ。

 そんな情勢で、日本の情報処理産業の企業は一体どのように一角を築くつもりなのだろうか。日本語だけしか通用しないソフトに特化し、携帯電話同様の鎖国型市場を作って生き延びるつもりなのだろうか。
 そうした議論を踏まえた上で、国策を語って欲しいと思う。

 --- 参照 ---
(1) “BSA、EIU調査「IT産業競争力指標」日本の詳細データを発表”Buisiness Software Alliance [2007.10.1]
  http://www.bsa.or.jp/press/release/2007/1001.html
  「競争のための手段 IT産業競争力のベンチマーク」エコノミスト インテリジェンス ユニットのレポート
   http://www.bsa.or.jp/file/EIU__Benchimarking%20IT%20industry%20competitiveness2007.pdf
(2) ガートナー ジャパン「世界のIT投資マインド、1位インド、日本最下位」[2007.5.17]
  http://www.gartner.co.jp/press/pdf/pr20070517-01.pdf
(3) “THE FUTURE OF TECH -- THE INFO TECH 100” BusinessWeek [2007.7]
  http://www.businessweek.com/magazine/content/07_27/b4041408.htm
(ネットワークイメージのイラスト) (C) clipart.jp http://www.clipart.jp/index.html


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