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2009.9.28
 
 


政権は変わったが、IT“産業政策”は変わるのか…

新政権が、斬新な産業政策を打ち出せるとは限らない。
 新政権樹立により、産業政策が大きく変わるとの期待が生まれているが、どうなるかは全くの未知数。特に、IT産業政策がどう変わるのか大いに気になる。
 一番の気がかりは、この分野は、土木建築と同様に、雇用の受け皿役でもある点。業界構造を変えるような政策を打てば、雇用喪失に繋がりかねない。政治主導は結構な話に聞こえるが、かえって政策転換を妨げることになるのかも。
 本来なら、政権交代に伴う明るい絵を描きたいところだが、残念ながら難しい。

 それは、政治家の問題だけではないからだ。IT分野のビジネスマンも、古い政治家同様に産業構造の変革は大いにお嫌いなのだ。
 そんなことを言うと驚く人がいるかも知れぬが、IT国家戦略なるものを作った当時を思い出せば合点がいくのではないか。戦略と名前はついているが、その実態を知らぬ人はいまい。ネット取引の時代に対応すべく、政府が主導して、大規模ハコもの投資を敢行せよというだけのものでしかない。土木の公共事業となんらかわらない。というか、それより筋が悪いバラ撒き施策だ。
 ITを活用して、何を実現するかについては、終始曖昧な話で終始させ、不況産業化しているIT産業に税金の注射をさせたのである。産業の実態に無関心な経済学者ならいざしらず、ビジネスマンがそんな方針を打ち出すのだから、どうにもならない。
(ただ、救いが無い訳でもなかった。学者と新興企業経営者の強い主張のお陰で、ブロードバンド回線が普及した点。残念ながら、それを活かすことはできないが。)

日本の「e-政府」施策とは、ハコもの作り公共事業の別名だった。
 なかでも圧巻は、e-政府だ。目玉政策だが、省人化や省力化が目的とされず、一般人が使えるのかのチェックもしないのだから、どんなものができるかは、ビジネスマンなら始めからわかっていたこと。ともかく税金がバラ撒かれれば結構というだけのもの。
 今や、これらはゴミの山かも。メインテナンス費用は高額で、トラブル多発といった代物だらけでは。(時間の無駄だから調べた訳ではないが。)もともと、スキルを欠く責任者が、トップの指示に従い作っただけだから、なにがなんだかわからないシステムができて驚きではない。ITシステムとはそういうものである。

 この結果、IT企業では、労働集約的な利幅の薄い事業があっというまに水ぶくれ。これは、最悪の流れと言えよう。
 本来伸ばすべき、高度な技術を駆使した高付加価値な事業は片隅に追いやられたのだから。
 こんなことをすれば、競争力低下は避けられないと思うが、日本語しか通用しない市場だから、気にする必要なしということだろう。こまったものである。

悪貨が良貨を駆逐しかねない流れを早く断ち切る必要があろう。
 新政権には族議員がいないから、「護送船団」型の税金バラ撒き政策は止めることができる筈だ。これだけでも、実行して欲しいものである。
 「護送船団」型といっても、リーダー企業にメリットを与えるような「カルテル的市場化」が行われたから、かろうじて悪貨は良貨を駆逐する副作用が目立たないできたが、こんなことを続けていると、日本のITシステムの質の低下は避けられない。それは、全産業にボディブローとして効いてくる。それが実感できるようになってからでは遅い。少しは危機感を持って動いて欲しいものだ。

 すでに、そんな兆候は、現場で生まれている。注意信号が点っているということ。
 ご存知だと思うが、IT企業の内部では、昨今は、年齢的確執の話だらけ。実仕事が全くできない高齢層の雇用を維持して、馬力がある若い層を切るから、現場の不満が高まっているのだ。学者は、これは、終身雇用の問題として片付けたがるが、視点がステレオタイプすぎる。
 高齢層は技術の理解力が足りないが、「政治スキル」は身に着けている。だから仕事が取れるのである。一方、実部隊には「技術スキル」しかない。従って、齟齬が発生してしまうのである。市場が膨張していると、この体制は上手く回るが、逆になると無理な受注が始まるから、下手をすると現場は奈落の底に突き落とされるのである。
 一番の問題は、この体制を肯定的に捉えることもできる点。得体のしれない要求にもどうにか答えることができるのだから、日本のIT企業の「実装能力」は高いということでもあるからだ。
 ソフト資産の活用と称して、輻輳しかねないモジュールをこれでもかと詰め込み、旧世代ソフトにも矢鱈に手を入れるから、スパゲッティコードだらけのプログラムができあがる。作った人以外はなんだかわからない代物だが、それがどうにか稼動するのである。確かに、ただならない能力。海外には、こんな能力を持つ企業はないのでは。
 その能力でこれからも、国内で競争し合おうといのがこの業界の体質。

 それも、いよいよ終焉が近づきつつある気がする。
 ユーザーがシステムの子守をする仕組みが限界を迎えつつあるからだ。ついにCPUのビット数が次の世代に入るので、アクセス可能なメモリ容量は無限に近くなる。処理能力が飛躍的に上がるということ。しかも、データ収納容量はすでに個人でもTバイトオーダーに投入。この先を考えると、データ処理/蓄積量はとんでもない数値になること間違いなし。
 こんな超巨大マシーンを、中途半端な勉強で仕上げられた「専門家」がまともに対応できるとはとても思えまい。システムのメインテナンスはプロフェッショナルが組織的に対応するしかなくなるのは自明では。
 しかし、今の日本の仕組みでは、そんな動きはとれまい。だが、変化を避ければ、時代の流れにとりのこされることは必至だ。
 この分野の「専門家」がそう感じ、危機感を抱いているのならよいのだが、年代闘争ばかりに関心が集まっているのが怖い。何が最重要なのか、よく考える必要があるのではないか。

日本のIT企業の強みである現場体質が通用するうちはよいが。
 もともと、この業界は、自分の頭でじっくり考える人は少ない。なにせ、基本的なテキストがさっぱり売れず、ノウハウ本ばかりの世界という、不思議な産業なのだ。
 この業界で人気を集めたいなら、いち早く先進国の動きを紹介したり、新潮流を褒め称えて旗を振るのが一番といわれているのだ。要するに、いち早い物真似が、ビジネス成功の鍵とされているということなのだろう。日本の他の分野でも、多かれ少なかれそんな風潮はあるが、ここまで極端な分野は珍しい。
 ただ、軽薄な言動や、大騒ぎ体質が問題という訳ではない。その喧騒の影で、実務ができないが口だけ出すような人達と一線を画し、現場で有能なエンジニアが沢山育ってきたからだ。さっぱり目立たないが、そんな人達が、IT産業をなんとか支えているのである。

 しかし、これからは、この体質が逆向きに働くかも知れない。恐ろしい時代である。
 それは、「クラウドコンピューティング」。まあ、単なるBuzzwordでしかないのだが。
  → 「クラウド競争本格化」 (2008年10月23日)
  →  「Chrome OSに何を期待したいのか」 (2009年7月27日)

クラウド化の流れに対応せずに、生き残れるとは思えない。
 この「クラウド」だが、実に、曖昧な概念。
 利用者側から言えば、サーバを意識せずにサービスを受ける仕組みということになるし、サービス提供側はユーザー数や処理量が変化しても対応できる大規模仮想化システムを作るというだけの話。データセンターの飛躍的強化と、シンクライアント化を核としたエンタープライスシステムと言えないこともないし、SaaS型で提供するサービスと呼べないこともないことになる。新しい技術は何かと言われても語れない人が大半だろう。クラウド化と叫ぶだけで、どんな変化が始まっているのか、わからない人だらけということ。業界をあげて、物真似が流行るが、なにが本質かはっきりしないから、右往左往することが予想される。

 この状況をどう見るかだ。
 構造的な変革を狙う一大チャンス到来とは言えまいか。だが、逆に、このチャンスを活かせなかれば、日本のIT企業は急速に存在感を失うというこではないか。

 こんな説明ではわかりにくいか。
 例えば、Googleが先頭を走っていると考え、これを真似して対応すれば、負け戦間違いなし。Googleがオープンな仕組みを作る訳がないから、小規模で互換性なき小規模プラットフォームを作るしかないからだ。そんなものに、なんのメリットもなかろう。せいぜい、税金で稼動するだけの事業として一定期間稼動し、そのうちコスト的に合わなくなって消滅の道をたどるしかなかろう。
 これを「護送船団」方式で回避しようと動けば、オープンな仕組みを作ることになろう。簡単な話ではないから、時間がかかる。標準化の議論をしているうちに市場はどんどん広がっていくに違いない。
 覇者となるべく、バラバラな規格の仕組みが次々と生まれるということでもある。要するに、様々なクラウド・プロバイダーのプラットフォームが並存することになる。そんな状況で、日本勢だけが、理想論で、標準化にこだわり続ければ大きく出遅れるだけのこと。
 だいたい、プログラミング言語やOSに依存しない汎用の仕組みが簡単にできる訳がない。リーダーでもない企業が集まった標準化など夢物語に近いと考えるのが当たり前ではないか。(OSひとつとっても、Microsoft、VMware、RedHatのどれをどのように選ぶべきか、議論は尽きまい。)
 しかし、おそらく、そう考える人は少数派だ。したがって、「護送船団」方式での標準化の動きが発生する可能性は高い。自民党政権下では、「業界をあげて」動くしかなかったから、習い性になっているからである。しかも、標準化は一見「戦略的」に見えるし。
 言うまでもないが、こんな動きが進めば、競争力はさらに低下していく。
。思想性なき上からの標準化は、現場の混乱を招かざるを得ないからだ。現場の実装能力でなんとか持っていた組織は瓦解しかねないということ。

新規まき直しで、クラウド型の電子政府化を進めるしかなかろう。
 ここまで語れば、“自然解”は見えたようなもの。
 今急ぐべきは、市場を顕在化させ、それに即座に応えようと動ける企業を支援することしかない。もちろん、将来に備えた試行の支援などもっての他。ビジネスとして成り立たないものを、試したところで、状況が変わる訳ではないからだ。
 これは、難しい施策が必要という訳ではない。使われていない、電子政府用IT施設を即時全廃し、外部に業務委託するだけでよいのである。言うまでもないが、一件処理毎の単価ベースで支払うだけの話だ。


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