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2010.5.12
 
 


孫正義氏はハコモノ公共事業推進派なのかも…

 「IT国家戦略」で大騒ぎした時代があった。
 新時代を切り拓く動きということで持ち上げる人ばかりだった。掛け声だけは勇ましかったが、案の定、その内容はハコモノ作りと、公共サービス費用の業界バラマキ。使いもしないシステムや、美しいだけのウエブがそれこそ雨後の筍のように急成長。そのお陰で不況業種が蘇ったことはご存知の通り。
 その昔は、不景気克服と言えば、公共土木建築事業と、電力・鉄鋼設備投資だったが、同じ発想で分野をITに換えれば日本経済が再興すると考える人達ばかりだったのである。日本が輝いていた時代よ今一度という郷愁からくる政策と言ってよいのでは。
 だが、そんなことを言えば袋叩き間違いなし。「IT国家戦略」のお陰で世界一安価なADSLの普及ができたので大成功と総括する人ばかりなのだから。
 だいたい安くて当たり前である。高額な電話代金とトンデモ債権のお陰で、立派な電話局を沢山つくり、超高品質の電話線を架設済みだったからだ。それに、局間の幹線はとうの昔に光ケーブル化済である。
 要するに、ISDN普及を諦めることを決めたというだけのこと。
 もちろん、孫正義氏のリーダーシップで、ADSL普及が一気に進んだのは間違いないが、それだけのこと。ご存知のように電子政府など一歩も進まないどころか、システム導入でかえって生産性が落ちたのではないか。民間にしても、これだけブロードバンド化が進んでも電子取引の進展はたいしたことはない。
 どう見たところで、IT革命に踏み込んだとは思えまい。

 どうしてこうなるかと言えば、日本はITによる生産性の飛躍的向上をさせたくない人だらけということ。現行のビジネスの枠組みを壊されたくないからである。
 TV放送のデジタル化などその典型。世に広がるインターネット・プロトコルと親和性が悪い規格にした上、現行の放送の枠組みをそのまま引き継ぐというのだ。せっかく普及させたブロードバンド回線には乗せないのである。
 大成功の携帯電話にしても、ウエブの規格と違う上に、電話会社毎にバラバラ。
 すべてのデータをインターネットプロトコルとするからこその「IT革命」なのだが、そんな精神など欠片も感じられない。

 新政権はその辺りの状況を理解しているのかと思ったら、全く逆だった。
 巨大な不良資産であるISDN設備の更新時代に入ったというのに、又、次なるハコモノ作りを国家主導で進めようというのだから唖然。
 今度は、5000万の全世帯にFTTH(光)だそうである。まだ懲りないようだ。

 驚きは、これを孫正義氏が囃していること。(1)

 まあ、たいした通信インフラを持たないヤフーBBビジネスからすれば、そうした姿勢はわからないでもない。
 成功したADSL市場だが、今のままならHTTHに徐々に代替されていくだけ。しかも、すでに全家庭に引き込み済みの銅線を利用したADSL事業と違い、あらたなケーブル引き込み工事が必要だから、地域によってはFTTH通信インフラ事業者にビジネスを引き渡すしかなくなってしまう。これはたまらぬというのはよくわかる。

 しかし、すでにブロードバンド引き込みの伸びが穏やかになっているのに、無理して全家庭に引き込んで投資が回収できるとはとうてい思えないが。
 分岐のPONを用いた100Mbpsベストエフォートで日本を統一するなど、かつての壮大なISDN構築を目指した動きと全く同じ発想ではないのか。使う気が無い家庭に引き込んでどうしようというのか。それが意味ある時期はもう逸したのはグラフを見ればわかりそうなもの。

 そもそも、すでに、日本経済を支える主要地域には光ファイバーは敷設済み。一部の地域を除けば、FTTHが欲しいなら、いつでも可能。
 普及が伸び悩んでいるのは、たいした利用価値がないと考えている人しか残っていなくなったからであり、そんな家庭の固定電話を、分岐のPONのFTTHにつなげたところで、なんの意味があるのか。当該家庭にしてみれば、今まである電話機で同じことをするだけで、なんの変化もなかろう、実につまらぬ施策である。
 超巨大投資でTV放送地上波をデジタル化したが、デジタルTVの普及が進まないので、アナログテレビにデジタル受信機アダプターをつけるようなもの。これと同じことをしたい訳である。

 はっきり言えば、“分岐のPONを用いた100Mbpsベストエフォートで全家庭に繋ぐ”との方針は、今となっては、国民生活になんの意味もない。単なるハコモノ公共事業。

 日本における最重要課題は、魅了的な利用方法を生み出す起業家を生み出すこと。インフラの話ではない。「IT国家戦略」でハコモノ方針を打ち出したことの弊害は余りに大きいのである。
 これだけインフラが完備しても、電子商取引が一向に進まないのは、FTTH普及が遅れているからではない。普及が進んでも海外のように活性化できないことが問題なのである。
 その問題に目を瞑り、ブロードバンドなどに興味が無い家庭にまでFTTHで繋げたところで事態は変わるまい。ハコモノを作ったところで、新しい魅力的な使い方を生み出さない限り、固定電話産業がそのまま残るだけ。新産業が勃興することはなかろう。
 だいたいブロードバンドがここまで普及したというのに、未だにブルーレイディスクのソフト市場の膨張に期待するのが、日本の家電産業である。テレビとCDで世界を席巻したころを忘れられない人達が未だに業界のリーダーとされていることを忘れるべきではない。

 おそらく、日本では、5000万世帯普及より、1Gbpsのブロードバンド利用方法開発の方が面白い。早すぎて、初期の応用はニッチで終わるかも知れぬが、考えもつかなかった便益が生まれれば大市場化もありえよう。それに、すでに、無線ブロードバンドルーターをポケットに入れ、モバイル機器がすべて常時接続状態という時代に入っているのである。こちらは、黙っていてもなにかが生まれる。それは日本発ではない可能性が高いが。

 そうそう、銅線より、光ファイバーの方がメインテナンス費用を考えるとメリットがあるという主張もあるようだ。それなら、電話会社が勝手に進めればよい。それだけのこと。それが簡単ならとっくの昔に取り組みが始まっている。そういかないのは、ISDNでの認証システムが未だに稼動している事業所はあるは、FAX網があるわで、いちいち対応していたらえらく面倒なのである。(ISDNやFAX全廃ができるかね。)

 繰り返すが、今の日本に必要なのは、FTTHを全世帯に普及させることではない。電電公社の電話網整備の時代とは違うのである。しかも、こともあろうに、孫正義氏がそんな動きを応援しているのだから世も末。日本の企業家も成功を収めると、公共工事礼賛派になるのかも知れぬ。
 技術立国は自民党の弱体産業保護政策が長すぎたお陰で、残念ながらもう夢でしかないが、政権交代してもたいした変化は期待できそうにない。
 日本は、黄昏の道を駆け足で進むことになりそうだ。

 --- 参照 ---
(1) 孫正義: 「国民の、ITによる、日本復活」 BBA 2010年4月23日
   http://www.bba.or.jp/20100423/pdf/20100423bba.pdf
   [グローバル時代におけるICT政策に関するタスクフォース 「電気通信市場の環境変化への対応検討部会」]
   “「光の道」論点整理(案)” 第10回会合(平成22年4月27日)  http://www.soumu.go.jp/main_content/000064317.pdf
(図) “参考資料” 同上第9回 [2010年4月15日]  http://www.soumu.go.jp/main_content/000062749.pdf


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