「Strategic Management of Technology」 手法開発者からの一言


 日本企業の技術マネジメントは20年遅れているのかもしれない。

 Arthur D. Little が、
 世界中の技術マネジメントのコンサルタントを集めて、
 技術の体系化と技術ポートフォリオ分析の手法、「Strategic Management of Technology」、
 を開発したのが1981年〜1982年のことである。

 開発に参画した小久保厚郎が、日本でこの成果を一般公開したのが、1986年。(1)

 ↓ 「高度技術の戦略的管理」 日経マグロウヒル (企業の実務家向けなので、売り切れをもって絶版とした。)

 ところが、最近、
 「Strategic Management of Technology」手法を学びたい、
 との声がたびたびかかる。

 戦略経営分野でも似た現象が見られる。

 大前研一氏が著わした「企業参謀」を読む人が増えているのだ。
 この本の発刊は1975年である。

 ビジネスパーソン向けのマネジメント書は、文学書とは違う。
 20年前の手法を学んで、たいして役に立つとは思えないのだが。

 と言うのは、1990年頃からマネジメント手法が大きく変わり始めたからだ。
 「Strategic Management of Technology」や「企業参謀」のような
 分析思考の役割が終わったのである。

 もちろん、合理的思考や、緻密な現状分析が不用という意味ではない。
 それは大前提である。
 分析は不可欠だが、たいした価値は生みだせない、というだけの話である。

 考えればすぐわかると思うが、分析だけでイノベーションは生まれない。
 ところが、今は、イノベーションを要求される時代である。
 当然ながら、分析思考を超える発想が必要なのである。

 実際、優れた企業は、1990年代を通じて、
 イノベーションを生み出すための「自社独特」な仕組みを練り続けてきた。
 深く掘り下げる分析思考から脱し、
 高い山に登ったつもりになって、
 全体を俯瞰することで、
 イノベーションの糸口を発見するスキルを、
 組織的に磨いてきたといえよう。

 こうした状況下で、
 「Strategic Management of Technology」や「企業参謀」の分析思考を今から学ぶという姿勢には、
 問題があると言わざるを得まい。

 確かに、最低限学んでおくべき点はある。
 しかし、それだけでは20年前に回帰するにすぎない。
 イノベーション創出にはどのようなスキルが必要なのか、
 じっくり考えるべきではないだろうか。

 --- 参照 ---
(1) 小久保厚郎を研究代表者として、1983年4月〜1986年2月に行われた。
  「高度技術領域における研究開発方針を策定するに当り日本企業が直面する問題点を論じた。
  この結果をもとに,技術ポートフォリオ手法を用いた技術戦略の立案方法を提起した。
  このなかには,技術要素分割法,技術の重要度・成熟度判定法といった定式化された方法のとりまとめと共に,
  経営戦略と技術戦略の連関についての論議も集約してある。」
  http://www.nira.go.jp/icj/tt-sric/dat/1984/a5s-1001.html

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