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2000.1
 
 


技術貿易データから見て日本の技術水準が高いといえるか…

 『科学技術研究調査報告』の日本の技術貿易によれば、1993年から技術輸出が輸入を超えるようになっている。この結果を引用して、日本の技術力は十分高いと結論付ける論者が多い。一方で、実感とはかなり違うという意見もある。実態はどうなのか?

 結論から言えば、「このデータでは実態はわからない」。

 そもそも、技術貿易を分類した数値が公表されていないため、このデータから技術水準を議論するのには無理がある。例えば、急増している筈のコンピュータソフトに関するビジネスは技術貿易上どのように扱われているかなどがよくわからない。従って、このデータを用いた、マクロ論は避けた方が賢明である。国全体としての長期的トレンドを見たいなら、むしろ日銀の国際収支統計をお勧めする。こちらは、分類上からくるバイアスの危険性は少ない。

 いずれにせよ、データそのものが曖昧なだけでなく、事業のパターンが変化しているので、こうしたマクロ論が今迄通り通用する保証はない。「技術導入による国産化」が技術劣位を示すといった単純な技術貿易の時代は終わったからである。今は生産拠点がグローバル化しており、技術移転は実物貿易の構造に絡む。結果として、様々なパターンの技術貿易が登場して来た。しかも、ソフトウエアそのものが独立した事業として成立しており、技術なのか実物商品なのかの境も明瞭ではない。十分に注意を払ってデータ分析しないと、間違って解釈しかねない。

 見当違いを避けるには、自動車、通信・電子・電子計測器といった産業分野毎に技術貿易を見るべきだ。この場合、貿易の対象地域にも着目する必要がある。

 まずは、自動車産業分野だが、ここだけは突出した存在である。技術輸入は少なく、輸出額が極めて大きい。このセクターが日本の技術貿易を支えている。対象地域は先進国である。技術力は高いと言えそうだ。

 通信・電子・電子計測器分野も技術貿易では大きなセクターだ。ところが、この分野は自動車と異なり、輸出、輸入共に多額である。特徴的なのは、輸出と輸入の地域バランスが大きく違うことだ。輸入は、当然ながら、大部分が北米で残りが欧州だ。これに対して輸出は、アジアが極めて多い。アジア向けというのは、ローカルのエレクトロニクス・ハイテク企業への技術移転もあるが、生産拠点再構築にともなう、グループ内での技術移転もかなりの部分を占めている可能性が高い。そうだとすると、輸出超過といっても業界の構造変化が技術貿易額に出ているだけである。北米向けだけで見ると、常に入超構造である。輸出が輸入を上回るような勢いなど、とても感じられない。日米だけに注目するなら、むしろ日本の技術力は弱体かもしれない。

 これ以外の産業では、鉄鋼業は出超構造だが、全貿易のなかでは小さいセクターである。
 
 注意すべきは、医薬品分野だ。業界の実情からいえば、重要な医薬品の多くは海外由来であり、明らかな技術較差がある。日本の製薬メーカーが世界的な大型商品をいくつか持つようになったとはいえ、欧米と技術力で肩を並べているとは考えにくい。しかし、技術貿易の数値から見れば力は拮抗している。実物商品の直接輸入という形態をとることで特許権料等の支払いがなくなり、統計上では技術輸入額が少なくなっているのかも知れない。

(追記)
技術貿易輸出額には純技術ライセンシング以外のエンジニアリング関係の収入が一部含まれている。注意しないと、間違えた解釈をしてしまう可能性がある。


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