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2000.3.2
 
 


品質管理技術弱体化の意味…

  「日本の品質管理技術が弱体化していないか。?」という質問に回答するのは極めて難しい。---Yesでもあり、Noでもあると思う。企業の実態を見ていると、日本の品質管理技術が優れていると感じる分野は確かにある。しかし、その一方で弱点も存在している。

 日本が特に力を発揮しているのは、製品設計途中で大幅な方針変更が無い製品分野だ。設計や製造方法の細かな手直しは多くても、全体への影響は小さい場合である。
 こうした分野では、参加メンバーの入れ替えも少ないし、組織変更も必要としない。高品質に向かって邁進すれば、間違い無く成果はあがる。この条件下では、手馴れた仲間が担当するから、知識は人に蓄積されていく。当然、業務遂行スキルは時間とともに高度化する。新技術が必要なら、最適導入方法を十分に検討するから、問題発生確率は低い。早目に対処を開始していれば、新技術を利用した高品質な製品上市で先鞭をつけることさえできる。参加メンバーが互いにチェックしながら動けるから、品質問題が起こりそうな箇所が予見できるし、たとえ問題が起きても的確な組織的対応がすぐにできる。すぐれた体制といえよう。

 昔から、日本企業の組織はホモジナイズで、「個」も真面目で粒が揃っていると言われている。この特徴を活かせる分野といえよう。

 ところが、こうした能力が活かしにくい分野もある。典型はソフトとビッグ・サイエンスだ。
 ウインドウズ2000レベルのOSの開発には5000人が必要だという。全部を一度に管理はできないから、モジュールに分割して開発が進む。技術の進歩で、新しいモジュールが加わることもあるし、各モジュールの仕様変更も日常茶飯事だ。こうした個々の動きは、他のモジュールに影響を与える。もしも、こうした相互作用が激しすぎれば混乱し、設計はまともに進まなくなる。従って、各モジュールが独立して走れるよう、全体管理と個別管理をスムースに進める体制は不可欠だ。上手く機能しないと、短期間開発に失敗する。もともと、ソフトの場合、どのような特殊な利用条件下でも、確実に動く完璧な製品創出は無理である。致命的なバグを減らすしかない。問題を徹底的に詰めすぎれば、上市が遅れ、商品価値を失いかねない。品質水準の設定や全体管理が極めて重要になる。こうした分野では、前述した日本企業の徹底的な高品質邁進型では優位性発揮は難しいだろう。
 ビッグ・サイエンスも同じことがいえよう。開発期間は極めて長期に渡る。当初の設計方針は、新技術の登場や、新しい対処方法の発見で、次々と変更を余儀なくされる。当然ながら、途中で人や組織も変わる可能性が高い。このなかで、全体の技術構造を欠陥なき様、精緻に取りまとめる作業は、人間の頭脳のキャパシティを越える。設計標準、信頼性や品質の評価基準を整理し、プログラム化しない限り、管理どころではなかろう。日本の品質管理技術が優れているといっても、こうしたプログラム開発でも優位に立てるとはいえまい。

 今迄は、こうした、ソフトやビッグ・サイエンス分野は一般の製造業には遠い存在だった。ところが、90年代から、同じようなマネジメント手法を必要とする分野が急増している。
 アウトソーシング先を頻繁に変更する必要に迫られたり、文化の違う企業と共同で設計・製造を進めることが増えたからだ。このため設計のモジュール化が不可欠になってきた。こうなると、複雑な開発体制を迫られ、全体調整可能なプログラムや統合CAD利用のスキルで製品品質が決まってしまう。
 その上、技術や市場の変化が急だ。特に、アセンブル型商品は、短期間開発、即時生産、寿命短命、な製品が増えた。作り込みの時間的余裕は無くなった。学びながら新しい技術へ対応する日本方式は不利である。経験を生かし品質向上を図る時間がとれないからだ。

 今までの日本企業の強みだけでは、力が発揮しにくくなった。従って、こうした動きに応えている企業だけが優位を維持、強化しているといえよう。


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