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2002.9.1
 
 


変わり始めた中国社会…

  中国社会科学院の叢書として『当代中国社会階層研究報告』が発刊された。発刊後半年もたたない2002年5月には、日本の中国書売上でベスト2位を占めるほどの、注目の書である。(http://www.frelax.com/sc/bookdb/best/)
 この本は、99年に党中央政治局の指示を受け、社会学研究所の陸学芸教授がリーダーとなって進めたプロジェクトの成果をまとめたものである。これによると、10の階層分化が進んでいるという。(http://www.nanfangdaily.com.cn/zm/20011220/)
  (1)  国と社会管理者階層
  (2)  経営者階層
  (3)  私営企業主階層
  (4)  専門技術要員階層
  (5)  事務要員階層
  (6)  個人経営商工業者階層
  (7)  商業サービス業従業員階層
  (8)  産業労働者階層
  (9)  農業勤労者階層
  (10) 都市無職、失業、半失業者階層


 今まで中国では、労働者階級と農民階級といった政治的分類が基本だった。中国共産党は階級政党と自負しているから当然だ。(労働者階級はさらに産業労働者・知識分子・官員の3階層にわかれる。)
 今回の報告では、このドグマを捨て、現実に基づいた見方を取り入れ始めたことになる。
 かつての基盤である、人口の過半を占める、産業労働者階層と農業勤労者階層は失業者と並ぶ最下位に位置付けられている。その一方で、2つの中間層の登場が明確になっている。1つは、経営者や私営企業の企業主。もう1つは、専門技術要員である。
 しかも、これから中間層を増やそうとの考え方が見える。新たな社会構造への動きを加速させようと考えているといえよう。
 かつての中国共産党なら、これは許すべからざる状況である。92年からの開放経済政策の結果、思想上でも大転換が進み始めたといえる。

 すでに、専門技術要員階層(研究者・エンジニア)は、人口シェアが5%程度に達している模様だ。
 13億人に近い巨大な人口を考えれば、日本の生産人口の技術者が中国で働いていることになる。しかも、社会的な地位は、権力者と経営者の次ぎに位置付けられており、極めて高い。
 専門技術要員は「先進的生産力と先進的文化の代表者の一つであり、社会主導価値システムおよびイデオロギーの革新者と伝播者でもあり、社会安定を守り、社会の進歩を励ます重要な力」になっていると評価されている。(国家を率いるリーダーに理系大学卒が並ぶ国としては、当然の見方であろう。)(http://www.pekinshuho.com/2002-16/china16-2.htm)

 しかし、これは政治指針というより、現実である。インターネットのリクルート・サイトを見ると、IT技術者の報酬レベルが極めて高いことがわかる。技術者は高所得層なのだ。優秀な研究者・エンジニアなら最厚遇であり、日本人以上の報酬は驚きではない。欧米以上の収入と成功報酬を約束され、故国に帰還する人も増えている。(日本企業は報酬水準が低いと見られており、おそらく、就職希望人気は最下位だろう。)
 中国では、すでに年功序列型報酬は消滅しており、職種での賃金差も大きい。
 このため、研究者・エンジニアはもとより、工場労働者まで、完全な競争社会に突入している。勿論、雇用の保証などない。

 さらに、何億人ものの生徒が、専門技術要員になり成功しようと熾烈な競争をしている。競争激化必至である。中国のエンジニアはこの競争を勝ち抜いたエリートである。
 明らかに、これが、中国産業界の活力源だ。


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