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2002.10.31 |
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原子力安全対策の進捗度…東電の隠蔽工作をきっかけとして、原子力安全行政への不信感が再び高まっている。JCO事故後の安全対策も本当に進めているのか、との疑問の声さえあがる。実際のところ、どう判断すべきか、発表資料を見てみよう。 安全対策活動が進んでいるのは確かだ。しかし、それで十分か、と問われれば、イエスとは言い難い。 [安全確保・事故防止のための感受性と先見性の涵養を企画者、設計者、作業計画者及び現場管理者に要求しているし、原子炉等規制法の改正による安全規制強化と原子力災害対策特別措置法制定による原子力防災体制の抜本的強化を図っている。組織的にも相当強化されている。](「原子力安全白書 平成13年版 1 平成13年を振り返って 」 http://nsc.jst.go.jp/kensaku/index.html) この不安の源泉は、対策策定のもとになった「ウラン加工工場臨界事故調査委員会報告書」の内容だ。 (http://nsc.jst.go.jp/anzen/sonota/uran/siryo11.htm) この報告書は、1999年に完成した大部の書類だ。一覧した限りでは、大変質の高いレポートといえる。しかし、そのことが、かえって問題を難しくしている。 ■1つ目の問題は、網羅的に課題が指摘された点だ。もちろん、レポートとしては、要求を満たすために、そうならざるを得ない。間違いではない。 しかし、指摘した対象が広いから、この報告を受けて対応する方は大変な作業になる。対策が現実的に可能なレベルならよいが、無理な対策なら安全度はかえって低下する。 一般に、指摘された課題すべてに、完璧に対応すると、失敗することが多い。すべてを一気に解決できることは稀だからである。理想論で、無理に進めば、必ず、ついていけなくなる。そうなると、うまくいかない現実を隠すことになりがちだ。危険な道である。 大抵の場合、課題は互いに関連している。従って、変革を目指すなら、糸口になりそうな仕掛を考案し、まず突破口を切り開く。その後に、勢いにのって、他の課題に取り組めばよい。これが実践論だ。 それでは、どうなっているのか、実際の進展度合を見てみよう。 2001年9月、対策進捗状況の報告がなされた。(「JCO事故後2年への対応について」)それに対して、事故当日委員をされていた方が、意味深長な感想を述べている。 ---「一例を挙げればですけれども、△△△報告等をとりまとめ、それを住民に提示しましたけれども、決してこれだけでは十分ではありませんし、またこの報告を出すだけの操作のためにも事故後半年から8カ月ぐらいの期間を経てやっと報告書ができたというように、迅速な対応は非常に難しい状況でした。そういったことをかんがみますと、こういった問題に適切に事故後に対応していくためには、今後さらに機動的な体制も必要ですし、検討が必要だと個人的には思っております。」「一例を挙げますと、△△△に対応して、△△△に関する事項等について当委員会の中で△△△部会というものが立ち上がりまして、その下にさらに2つの分科会が立ち上がりまして、目下審議を進めているわけでございますけれども、このような対応につきましても今日に至るまで非常に時間がかかっているわけです。」(http://nsc.jst.go.jp/kensaku/index.html △は省略。強調は原文にはない。) この発言が本当なら、理想論に合わせた無理な動きを余儀なくされているのではないだろうか。対応自体は真面目で一生懸命だが、相当な負担がかかっているのだろう。このような動きは、安全に対してプラスに働くとは限らない。 ■2つ目の問題は、事故直後の緊急対応に関しての分析が弱い点だ。 事故第1報が政府に伝わった時の対応の問題点と、臨界事故であるとの判断が即座に下せなかった問題点を、掘り下げていない。 事故報告に的確な対応ができなかったら、その原因を徹底的に分析し、新たな仕組みをつくる必要がある。そうしないと、何度でも同じことが繰り返される。ところが、当時者はこうした問題意識を欠くことが多い。限られた情報での意思決定は、誰にとっても極めて難しいから、仕組みつくりは無理と考えてしまうことが多い。 そのため、下手をすると、不足情報を揃えることを対策と考えたりする。これは、本質的な問題解決ではない。情報が不足していても、緊急時には即座に決断できる仕組みをつくりあげることが重要なのだ。平時の議論の後の意思決定と、異常事態発生時の意思決定を同じやり方で進める訳にはいかない。 以上の点を考えると、現行の安全性確保政策では、実効はあがらないかもしれない。それぞれの施策毎に、沢山の人達が甲論乙駁を繰り返しながら、真面目に対策を進めているだけに大変残念である。 侏儒の言葉の目次へ>>> トップ頁へ>>> |
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