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2003.1.3
 
 


イノベーションのジレンマ以前の問題…

 1997年、クリステンセンがイノベーション発生過程を研究し、「すべて正しく進めている成功企業が失敗する」と看破した。(http://harvardbusinessonline.hbsp.harvard.edu/b01/en/common/item_detail.jhtml;jsessionid=FVCOS0KP4UBEKCTEQENR5VQKMSARUIPS?id=5851&_requestid=37531 邦訳「イノベーションのジレンマ」翔泳社,1999)
 ヒト/モノ/カネと共に、高度な技術力を備えている企業が、イノベーター登場で衰退した原因を分析すると、成功の鍵だったプロセスや価値基準によるイノベーション阻害が主要因とみなせる、という内容である。
 単純な教訓だが、この教訓を活かした技術経営は簡単ではない。

 特に、日本では簡単どころか、困難に近い。というのは、この「教訓」をねじ曲げ、自分達の稚拙な技術マネジメントの正当化に使うからだ。
 断絶的な技術進展で業界リーダーが入れ替わるとの論旨だけを取り出し、次世代の技術を磨けば、花開く時が必ず来ると主張する。これまでの失敗の原因を探らず、現行の研究開発体制擁護に徹する。  マネジメントスキル向上のために読み込むのではなく、自分達の行動の正当化を図れる論拠を、著名な書籍から抜き出すのである。

 このような姑息な姿勢に憤慨するスタッフも多い。
 しかし、このような姿勢に転換させた原因は、スタッフにもある。
 クリステンセンの本を必読とみなしたのは、もともとはスタッフの方だ。一見、正当そうだが、直面する課題に関する社内議論を避け、有名論文購読を優先したともいえる。
 この正月休みも様々な「勉強」を推奨したようだ。現実の問題に立ち向かうより、知識を増やした方が、解決につながると考えているのだろう。
 このような非実践的主義的な行動を推奨する限り、幹部の意思決定の質は高まることはあるまい。

 クリステンセンは、イノベーションのジレンマの実例としてハードディスクドライブ産業を取り上げたが、技術マネジメントの教訓を得たいなら、特許庁の技術分析を読む方がためになる。(http://www.jpo.go.jp/techno/pdf/hdd.pdf)
 文章はおだやかだが、日本企業の技術マネジメント上の本質的欠陥を指摘している。

 開発面では、タイミングや課題の絞り方が甘い。・・・必要な要素を開発させるだけで、技術構造が案出できない。そのため、重要そうな要素技術を徹底的に磨き続けるだけの研究開発になる。当然、技術を活かした事業競争力向上が実現できない。要素技術で遅れをとったのではなく、技術マネジメント力が弱体なためにリーダーになれないのである。(日本企業でも、技術構造が単純な、ハードディスクドライブ用単品部品メーカーは圧倒的な競争力を発揮している。)
 生産面では、製造プロセスに係わる技術を重視していなかったし、量産コストの将来予測もが甘かった。・・・製造/量産に係わる要素技術が劣っていた訳ではない。どのように技術を使えば勝てるか、という基本的なマネジメント能力を欠いているのである。
 製品ポートフォリオ(マーケティング)面では、得意な製品ラインを固める方針を貫けない。

 以上の結論は、企業内では、誰でもが感じていることといえよう。
 しかし、この教訓が活かされるだろうか?


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