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2003.2.2
 
 


生き残る年功序列制度…

 年功型賃金/人事制度全廃に踏み込んだのは、日本の製造業大手では富士通が初と言われている。1998年のことだ。
 この英断で、昇給/昇格を職務毎の目標達成度で決める制度が広まった。

 これで、日本の大企業の雇用制度が抜本的に変わると語る人が多かった。確かに「成果主義」の導入で、収入が「増える人」と「減る人」の2極分化が進んでいる。
 しかし、実態からいえば、賃金抑制色が色濃く、有能で成果を生む社員を厚遇するように働いているとは思えない。

 ITProの調査によれば、IT専門家で(SE、プログラマー、PJマネジャー、シス運用担当、コンサルタント、等)2002年年収が20%以上増加すると見込む人は1.5%だ。10〜20%の増加を見込んだ人も僅かで、3.7%にすぎない。
 特別な成果を出した数パーセントの人の収入が、せいぜい1割増える程度、というのが厚遇像の実態といえそうだ。 (日経コンピュータ2002.9.9「ITプロフェッショナルの給与・処遇実態調査 もう給料は上がらない」)

 この程度の人数しか、まともな収入増がないなら、以前の相対評価のAランクとたいして変わらない。
 年功序列を本気になって崩すつもりなら、以前の数年分の昇給が一年で行われる筈だ。特に、若年層は低収入だから、大幅上昇者が大量に出ることになる。1割増の人数が数%程度で収まることは考えにくい。
 ということは、従来型の年功序列型を殺さずに、擬似「成果主義」を取り入れた制度が、日本の主流、といえそうだ。

 確かに、給与明細上から職能資格給という名称は取り筈された。高齢側の高給社員の賃下げも目立つ。しかし、有能な若手社員が「成果主義」に基づき厚遇されている兆候は見うけられない。年功序列を温存した擬似「成果主義」制度の可能性が高い。

 経営不振に直面する企業では、この状況が鮮明となる。
 「成果主義」導入済みのメーカーの研究所の例だが、数人のグループを担当する管理職氏は、ほとんどが大幅な減収に見まわれている。減収の個人差も大きい。
 厳しそうに見えるが、実態はそうでもないらしい。この年代は、雇用が守られさえすれば、明日から生活にこまる人は少ないからだ。多額な教育費と住宅の大型ローンを抱えて苦吟する人は少数らしい。
 従って、ここだけ見ると、成果主義は確実に根付いているように見える。
 ところが、若年層社員では状況は180度違う。

 入社して数年の社員に収入をたずねると、昇給ゼロだという。しかも本年もゼロ続行は間違いないそうだ。上司の中堅若手にきいても、ほぼ同じ回答だ。
 実質収入増の若手など、周囲には見当たらないという。このため、「結婚退社」の流れができているという。所帯を持つつもりなら、転職余儀なし、という訳だ。
 当然ながら、年功序列が廃止され、成果主義が導入された、と考えている人は皆無に近い。

 一般に、言行不一致は、不満を高まらせる。高給な高齢者側での給与削減が目的なら、年功廃止と言うべきでない。
 廃止と宣言しながら、年功序列を残せば、間違いなく、若手の優秀な人材が外部に流出する。この先収入増の見込みがなければ、有能な若手から、チャンスを発見次第、次々と退職していくことになろう。
 若手コア人材の雇用維持という観点で、日本企業は、今、正念場に立たされている。
 国際的競争力の確保には優秀な人材確保は必須条件である。年功型賃金/人事制度全廃を本気に取り組まなければ、日本企業の競争力低下は一気に進む。

 年功廃止で急ぐべきは、新卒給与水準の改定である。
 多くの企業では、未だに新卒給与水準が全員一律だ。この状況にもかかわらず、年功全廃とか、「職」と「成果」で給与を決める仕組みができた、と称する。そのようなことなどあり得ないのに、技術担当役員は何も意見を述べない。
 例えば、高度なソフトウエア開発能力を持ち、入社直後からベリバリ仕事を進める開発者がいる。その一方で、本人が「なにも知らないが頑張ります」と発言し、手取り足取りで、顧客回りをしている営業見習がいる。両者が全く同じ給与だ。
 前者は、電話で思考を中断されることを嫌い、自宅で仕事をする。長時間労働がが残業代は無い。後者は、各地を回り、残業代と出張費が嵩み、実質的に2倍の収入を稼いでいる。

 こうした矛盾を放置し続ければどうなるか、はっきりしていよう。


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