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2003.3.9
 
 


日立製作所の株価水準の意味…

 技術のオピニオンリーダーは無責任だ。相変わらず、まだまだ日本企業強しと主張し続けている。  もちろん、誰が見ても世界のトップを走っているといえそうな企業もあるが、不調な日本企業を、底力ありと見なす論理はいい加減そのものだ。

 オピニオンリーダーは、現在不調な企業も早晩復活できる、と語る。その根拠は、世界最高水準の技術がそこかしこに存在するというもの。
 これは、海外でも認められている、と指摘する。

 こうした主張の特徴は、アカデミズム/科学領域での論理を、産業技術に当てはめる「無理筋」型論理である。
 彼等は、要素技術における水準だけを議論する。これは科学なら意味あるが、産業技術では意味は薄い。個別の技術水準が、全体としての競争力優位を意味するとは言えないからだ。
 他社が追随しないのは、投資効率が悪いからかもしれないし、先頭を走らなくとも、他社の成果が使えるなら研究開発を行う必要はない。企業の論理はアカデミズムとは違う。

 世界最高水準の要素技術を沢山持っていても、収益が実現できないなら、カネは流出一方だから、企業は没落一途、と考えるべきである。

 従って、産業技術における競争力を、個々の要素技術水準で眺めたところでたいした意味はない。収益性が高い事業展開に繋がる「マネジメント力」こそ、総体としての技術力を発揮する鍵だからだ。

 ところが、オピニオンリーダーは、巧妙な論理で、この議論を避ける。技術力は高いと発言し、聴衆に「心地よさ」を提供するのだ。スポンサーを喜ばす、商売人に徹しているといえよう。

 それでは、実際のところ、どの程度の「マネジメント力」なのだろうか。・・・典型例として、日立製作所を見てみよう。
 誰が見ても、同社には数多くの優秀な研究者/エンジニアが存在する。世界に冠たる要素技術も数多い。この力が収益に寄与しているだろうか?

 実は、その答を求めるために、深い分析は不要である。株式市場の声を聞けばよいのだ。
 同社の株価は2002年後半から低迷したままである。期待感などないといえる。
[2002年11月中旬から2003年3月初旬まで、同社の株価は500円を中心にプラスマイナス約50円のレベルに張りついたままだ。過去10年ではほぼ1000円前後だった。例外は、1998年後半の下落と、2000年の1500円を越える高騰だけである。]
[日経ビジネス2002年11月25日号の特集「日立サバイバルプラン」でも、「“不沈”の代表に向けられた解散通告」との記事が登場しており、評判は地に落ちたといえよう。]

 といっても、同社は無為に過ごしている訳ではない。2002年7月付けの株主向け解説で、バランスシート改善に注力する方針を明確にした。投資家に対して、資本効率向上に動くと確約したのだ。
[「バランスシートをさらに強固なものにしていきます。・・・D/Eレシオは、2002年3月末時点で0.97倍となっていますが、2004年3月には0.8倍にすることを目標としていきます。長期社債格付は、A格以上の維持を目指します。事業リスクが従来以上に高まることも考え、財務面ではAA格相当の財務健全性を目標に、バランスシートのスリム化を推進します。」](http://www.hitachi.co.jp/IR/to/index.html)

 ところが、投資家の評価は向上しない。
 2003年3月7日の終値は、なんと461円である。本社ビルを500億円程度で売却し、貸借費用が約15%削減できる見込み、とのニュースが流れたが、株価上昇に繋がらなかった。小手先のバランスシートスリム策を評価する人もいなくなったのだろう。(http://www12.mainichi.co.jp/news/search-news/872596/93fa97a790bb8dec8f8a-0-1.html)

 日立製作所の1株当りの株主資本は連結で686.53円である。にもかかわらず、株価が461円なのだ。
 バランスシートが信用できるなら、異常な事態といえよう。株価全般低迷やITバブル崩壊の影響による一過性の株価低下と見るわけにいくまい。

 どう考えても、収益をあげる体質からほど遠い企業、と見なされたのである。この状態では、技術力を議論しても無意味といえよう。
 今後も、1万人規模の雇用調整が予想されている、と言えるかもしれない。例えば、1人3000万円の特別費用が発生すれば、総額で3000億円が株主資本から消える。そう考えれば、帳簿価格以下になるのは当然だ。


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