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2003.3.11
 
 


トヨタの真似は避けるべし…

 自動車産業が日本経済を支える状況になって久しい。

 言うまでもなく、その柱がトヨタ自動車である。

 多くの人が、トヨタだけは、こてからも世界の先端を歩むことは間違いないと見ている。次世代自動車技術に関しても世界のナンバーワン、と考える人ばかりだ。まさに、賞賛の嵐だ。

 確かに、誰が見ても、日本の希望の星だ。従って、下手に反対意見を述べると、村八分になりかねない。
 しかし、トヨタの動きが時代に合ったものか、よく考える必要があろう。

 トヨタの強さの基盤は、革新を生み出す「人」を育てる仕組みだと思う。各自の頭でじっくり考え、組織的にイノベーション創出を目指す企業体質を確立したから、負けないのである。
 どの企業も、このような体質を実現したいだろうが、トヨタの仕組みを真似たところで、同様な結果を生み出せるとは限らない。競争力の根源が「人」だからである。

 例えば、チーフエンジニアの「想い、志」が実名入りでホームページに公開されている。これは、社外向けだが、社内の技術者なら、チーフエンジニアはどのように仕事をしているか、もっとよく知っている筈だ。奇麗事ではない本当の「想い、志」が、仕事に対してどのように臨むことを意味するか、実感しているに違いあるまい。  こうした実感をベースに、優秀な人材が育ってきたから、トヨタは強いと考えるべきである。(http://www.toyota.co.jp/fce/)

 この体質は、経営者の姿勢からも読み取れる。
 驚くことに、経営団体のトップになっても、スタンスは変わらない。あたり障り無い発言を避け、本質的な問題をはっきり語る。その典型が、消費税問題の発言だ。消費税率毎年上昇策を訴えたのである。
 これに対し、政府税調の石会長は、実践性に欠ける、と見なした。毎年変化させるなど、税の素人の提言、と切り捨てた。専門家の見解は、一挙に10%か、15%の導入なのだ。(ブルームバーグのインタビュー)
 従来発想の枠内で考える政策専門家と、基本思想に基づいて解決策を考える経営者の違いが如実に現われている。

 しかし、先生であるトヨタの姿勢にも疑問点がある。

 1つは、雇用確保だ。
 長年鍛えられた組織力を活用できるし、人員削減に伴う莫大な費用も避けることができるから、雇用確保が可能ならベストであることは間違いない。しかし、技術も市場も変化が激しい時代だ。チャンスに合わせて新しいスキルが必要な時に、社内で新しいスキルを育てて、はたして間に合うだろうか。しかも、古いスキルは合わなくなった時に、雇用確保が可能といえるだろうか。
 80年代後半、エレクトロニクス産業は、そのような事態に直面した。アナログ技術からデジタル技術に変化した時、必要なスキルが大転換したのである。自動車産業はそのようなことは考えられないのであろうか。

 もう1つは、系列体制の維持である。
 系列企業による開発体制は、高いコミュニケーション力が活用できる。従って、競争力の観点からプラス効果が期待できる面がある。しかし、革新技術の登場や、製品の作り方で大きな変更があると、柔軟性を欠くから、マイナスに働く。
 垂直統合型をやめ、柔軟に外部の力を利用することがイノベーションに繋がる、と最初に見抜いたのは、おそらくIBMのパソコン部隊だ。1985年頃である。その後の、パソコン業界地図を見れば、誰が覇者になったか明らかだ。このような変化が自動車業界にも発生すると見るのは、極く自然といえる。
 そう考えれば、系列にこだわれば、1980年代末のIBMのように、突然の経営不振に陥る可能性があるといえよう。
 にもかかわらず、トヨタが自信を持っているのは、1990年頃に、系列体制のままで、パソコン産業のモジュール型に近い運営に移行できたからだろう。パソコン産業程度の変化なら、系列でも十分対応可能と判断したのだと思われる。
 本当にそう考えてよいだろうか。
 自動車産業も、燃料電池時代が始めれば、パソコン以上の産業構造変化が発生するかもしれない。戦いは同業者でなく、異業種かもしれないのだ。デバイスやコンピュータ/通信システムが標準化し、その流れに乗れなかったら、垂直統合型の系列体制を維持していると、とてつもないハンディキャップを背負う。ウインドウズ対アップル以上の格差が生まれかねない。
 21世紀は、系列型からオープン型へ変わると思われるのだが、トヨタの動きは逆だ。

 トヨタの歩んできた道を見ると、この2つの問題に関しても、おそらく徹底的な分析がなされたと思われる。その結果、時代の流れとは合わない、「雇用維持」と「系列維持」方針が打ち出された可能性が高い。
 もし、そうなら、同社独特の「勝てる根拠」がある筈だ。
 これが読めないなら、トヨタを先生と見なして、同様な方針を採用すべきでない。トヨタは生き残るかもしれないが、先生を見習った生徒の方は、没落確率が高まるだけだ。


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