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2003.7.3 
 
 


食品成分データベースの不思議感…

 「食品成分データベース」という立派なシステムがある。食品を選択すると、栄養成分が検索できる。(http://food.tokyo.jst.go.jp/selectFood/sel_top.pl)

 例えば、種なら、「ピスタチオ」は100gで615kcalある。マグネシウムは120mg、ビタミンEは4mg含まれている。「けし」なら567kcalで、カルシウムが1700mg含まれていることもわかる。
 恐ろしいほど網羅的なデータベースである。

 一体、何のために作られたデータベースなのだろう。

 常識で考えれば、けしの実を食べると言えば、あんぱんの上にのっている粒位だろう。御菓子作りが好きな人なら、それなりの量を食べるかもしれないが、一生かけても、100g食べる人など稀だ。それとも、我々が気付かない加工食品に「けし」が大量に含まれているのだろうか。
 生活者にとっては、このような食品データを揃えて、何の意味があるのか、と思ってしまう。

 役に立つ情報とは、ピスタチオのカロリー量ではなく、ピスタチオに付くカビ毒の警告である。安全や健康に関する情報が欲しいのであって、鳥目や脚気が存在していた時代に欲しかった情報とは全く違う。
 どう考えても、海苔や茸のカロリー量に意味があるとは思えない。生活者が欲しいのは、水銀やカドミウムといった、重金属量の方だ。

 このデータベースには、気になる情報は皆無なのである。

 どうしてこのようになるかと言えば、調査の目的が違うからである。

 食品成分表という名称は比較的知られているが、この担当省庁まで気にかける人はいまい。多くの人は、健康栄養の話しだから、厚生労働省の管轄と考えている。ところが違うのである。
 文部科学省だ、と話すと驚く人が多い。官庁の世界は、世間一般の常識は通用しないのである。

 なる程! だから博物学的、サイエンス志向なデータになるのだ、と膝を打つと、これ又、間違いである。繰り返すが、常識で考えてはいけない。

 この表は、サイエンスというより、「実用」1本槍に近い。と言うと、「けし」のデータを考えると驚くかもしれないが、利用者を考えて作られたものなのである。利用者に対応する省庁関係が複雑なため、もともとは旧科学技術庁が所管になっていたのである。
 利用者とは、もちろん給食関係者である。こまかな定めに従い、このデータを元に食を提供することになる。制度上強制された「実用」なのである。

 このような状況におかれると、技術屋の真価が発揮されることになる。
 真面目に、徹底的に、最善のアウトプットを追求するのだ。そして、おそらく、関係者一同、完成すると達成感に酔いしれる。
 実際、「食品成分データベース」を見ればわかるが、素晴らしい出来映えである。これだけ見れば、感嘆する人も多かろう。

 しかし、どう見ても、肝心なことには手をつけていない。抹消的なところばかりに注力しているとしか思えないのだ。
 患者給食担当者にしてみれば、けしの実のカロリーが分からなければ不安かもしれないが、推定値を使ったところで問題になる筈がない。ましてや、けしの実のビタミン量など使い道などなかろう。

 ここには、目的に応じて知恵を絞るという発想が全く感じられない。
 というより、実は、知恵をだそうとすると、排除される社会なのである。
 技術屋は、黙々と、細部を詰めることしか許されないのだ。

 ・・・これが、日本の現実である。


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