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2003.7.13 
 
 


造船技術力の衰微…

 日本の造船業は、国内生産比率100%を維持している。その上、グローバルシェアで1位だという。最近では稀有な産業である。

 後発国は高効率の最新大型設備で競争をしかけているが、1品モノだから、規模の経済は思ったほど影響を与えないのだろう。しかも、ほとんどの工程が熟練工の技量に依存しているため、すぐに安価な労働力には代替できない。このため、生産移転が進んでいないといえよう。
 その上、鉄鋼を始め国内の船舶建造用資材供給産業が全面支援を続けた。
 というより、支援しなければ、国内造船業は弱体化し、市場を縮小させることになってしまう。もしも、産業規模が大きく縮小すれば、産業コンプレックスは一気に崩壊しかねず、日本の造船業は危機にひんする。従って、他に道がないのである。
 日本の錯綜した産業構造は変身がしにくい。このため衰退を招くことが多いのだが、この産業は、逆に、この構造のお蔭で生き延びていると言えそうだ。

 しかし、だからといって、この先も、この状態が維持できるとは思えない。
 熟練工の高齢化は顕著だ。その一方、今もって質の問題はあるものの、国外では熟練工の数は時間とともに増加している。早晩、力関係は入れ替わる。
 従って、競争力喪失はすぐ先に見えている、といえそうだ。

 こうした背景のもと、2003年6月、造船産業競争戦略会議が「我が国造船産業のビジョンと戦略〜21世紀における新たなるチャレンジ〜」を発表した。(http://www.mlit.go.jp/kisha/kisha03/10/100625/0625-1.pdf)

 この提言には、グローバル競争状況がコンパクトに記載されている。現状認識は、2点に尽きる。
  ・2010年に向けて、需要と供給バランスはさらに悪化する。
  ・日本の造船業はコスト、付加価値、時間の3つの競争の観点で見て、弱体化必至である。
 その上で、大きな問題を抱えていることがわかる。
  ・小規模造船業が多く、競争が激化すれば、今のままでは生産体制維持は難しいのではないか。
  ・国内生産規模が維持できなくなると、産業全体の弱体化スピードは加速する。
  ・しかし、研究開発投入量が、ヒト、カネともども激減しており、勝つための技術開発に踏み込める状態ではない。

 こうなったのは、技術政策に問題があったと言わざるを得まい。

 日本の造船技術開発全体の方向は、明かに、生産規模維持とは全く違う方向に進んでいたからである。
 生産規模を維持することが大前提であるにもかかわらず、それに必要な技術開発を最優先しなかったのだ。この報告書には、こうした反省はひとつもない。それどころか、日本は付加価値の点ではまだ先を行くと評価している位だ。

 ・・・との批判もできるが、実態は違うと思う。技術屋は、日本の造船業が生産量を維持できるとは考えていなかったのだろう。
 そう考えれば、付加価値をかせげる要素技術の追求と、先端構造部物の安全設計・製造技術に力を入れるのは自然の流れだ。要するに、優位な「熟練工の力」を活用できそうな技術開発に注力したのである。そして、高度な装備や船舶運営システム開発に傾注したといえよう。
 その結果、大型船の改良では世界に冠たるレベルに達したし、工程管理も極限まで高まった。

 しかし、繰り返すが、これは、産業全体での生産規模維持の路線とは相いれない方針である。

 本来なら、太宗を占める船舶に関して、開発プロセスを合理化したり、船造りのやり方を抜本的に変える技術開発に進むべきなのである。ところが、この分野には、ほとんど手をつけていない。
 実際、ITを活用した、開発プロセス合理化に関しても先を走っているとは言い難い。本来なら、現時点で、すでに乾いた雑巾を絞る状態にある筈なのだが、まだ濡れた状態のままといえる。この分野の投資を控えてきたからだ。
 後者については、全く出番が無かったといえる。ブロック建造という誰でも気付くコンセプトにも挑戦しなかたし、驚くことにLNG船でさえ日本発祥ではない。

 どうしてこのようになったのかの反省なくして、2010年向けの新船舶コンセプトを提起したところで、問題は何も解決しない。
 過去も見れば、なにが問題だったかは、歴然としている。

 最重要なのは、顧客との関係である。高級セグメントが強いのは、注文船主のニーズを読めるだけの関係を作っていたからだ。しかし、安価品やLNGでは全くニーズがわからなかったのである。

 現在、造船業界が直面している緊急課題とは、海運業界とニーズを確認しながら進める体制作りである。
 どのようにしたら、船舶の生涯価値が上がるのか、ユーザーと一緒に検討しないで、勝手にビジョンを作ったところでなんの意味もなかろう。誰がリードユーザーなのかが分からないまま、新コンセプト船を各社バラバラに開発したところで、商業化で先鞭をつけることができるとは思えない。


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