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2003.8.1 
 
 


パートタイマーの賃金…

 企業退職技術者が多数参加しているネットワークに求人情報が流れた。

 期間5年のプロジェクトでの、特殊材料の作成評価実験担当者募集だ。実験支援業務ではあるが、化学合成ができなければならない上、高度なスキルが必要だ。
 勤務地は都内で、仕事量は、月のうち約半分だという。

 この業務の賃金は時給1,000円である。雇用者は私企業だが、国の基準に準拠したものと思われる。

 この金額をどう見るか。

 東京都の最低賃金は708円である。(2002年10月改訂値)
 日本マクドナルドの青山店でのパート・アルバイトは890円だ。
 (http://www.mcdonalds.co.jp/cgi-bin/company/arbeit/arbt_disp.cgi?store=13153&bidx=215)

 これは、規格化された労働であり、スキルを要求される特定の支援業務とは言い難い。しかし、専門家の賃金は差が大きいので比較が難しい。比較的わかり易いのが、家政婦の賃金だ。
 共働きで小中学生の子供3人がいる家庭が、家政婦さんに仕事を頼もうとしているので、実態を聞いてみた。業務内容は、掃除/洗濯とご飯の支度だけ。毎日4時間程度の労働である。
 労働時間で見れば、実験担当者と仕事量はほぼ同じといえる。
 この場合、時給1,300円ではすぐには集まらないので、状況に応じてこの金額に上積みするらしい。

 高度な知識を持つ専門家でありながら、技術専門家は、家政婦さんの時給より3割低いことになる。

 これを知って、怒る人もいるようだが、勘違い、といえよう。
 資本主義社会なら、労働力の世界でも、需要と供給の経済原則を認めるしかない。求職が多くて、求人が少ないなら、合理的に考えれば、低賃金は致し方ないのである。
 NASAがダウンサイズした時に、米国を訪問した人は、その経済原則を実感した筈だ。至るところで、博士のタクシードライバーに出くわした。職業が無ければ、高度な技術スキルがあっても、お金は稼げない。冷徹な原則である。

 専門技術の領域では、日本でも、経済原則が成り立っている訳だ。

 ところが、非技術分野では、この流れに逆行する動きが目立つ。

 典型は、客室乗務員だ。(昔の言葉ではスチワーデス)
 客室乗務員を経験したからといって、特別な資格やスキルが身につく訳はないのに、日本では、未だに大人気である。しかも、教育水準が高い女性が多数応募するという。
 (もっとも、日本では、特殊なスキル教育がなされているのかも知れない。翼から発火しているのに、キャプテンからの指示があるまで、そのまま座席にお座り下さい、と平然と乗客に語って、有名になった。)
 処遇が驚くほど魅力的だから、競争激甚なのだ。お蔭で、客室乗務員に採用されるための予備校は大繁盛のようだ。
 (http://www.root1.ac.jp/air/course/course_taf.html)

 求職者が多ければ、普通は賃金は下がるのだが、この分野はそうはならない。規制業種なので、賃金が高くても、顧客にその分を転嫁すればよいからだ。様々な理由をつけて、見せかけだけの合理化でお茶を濁し、優遇状況を守り通す。どうせ雇うなら質の高い従業員を採用したいし、社員の処遇低下をできる限り押し留めたいのである。

 社会的に見れば、極めて無駄な仕組みだ。他の職業に就けば、才能を活かして成果をあげることができる有能な人達を、客室乗務員に呼び込むのである。

 日本以外の先進国では、とうの昔に、客室乗務員は重労働の割に給与が低い職業と見なされている。米国では、高校を卒業すれば就職できるし、初任給も低い。($14,847 http://www.bls.gov/oco/ocos171.htm)
 魅力ある職業とはとても言い難い。当然ながら、予備校に通うことなど考えられない。
 短期間アルバイトをして貯金すれば、海外旅行ができる時代に、飛行機に乗れることが魅力とは言えないから、当然だろう。
 もっとも、発展途上国では憧れの職業だ。日本は発展途上国の仕組みを温存していると言えるのかもしれない。

 日本の「技術立国」政策とは、研究者・エンジニアを低賃金で一生懸命働かせる仕組みに他ならない。
 知的水準の高い人の活用の場を増やす気など全くないのである。一方、本来、たいした知識もいらない職業に人を集め、徹底したレベル向上を図る。要するに、知恵が湧かないから、意味がなくても、できることを行うのである。
 
 これからも、技術屋にぶる下がるつもりなのだ。こんなことを何時まで続けるつもりなのだろう。


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