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2004.4.9 



常識外れの企業…

 2004年4月7日の、大型車の車軸周辺部品「ハブ」の欠陥問題の報道には、流石に驚いた。(1)
 この会社の職場は、倫理観ゼロだ。

 2003年1月に分離するまで一体だった自動車会社自体、30年間もクレーム隠しを続けてきたのだ。至る所に膿が溜まっているのは間違いない。しかし、これほどまで非常識な集団とは思わなかった。

 今までの報道のトーンは単純だった。

 自主回収したハブの29%に微小な亀裂が見つかった、という解析データを自社検査で把握していたにもかかわらず、担当幹部が「最終結果が出ていない」と虚偽の説明をした、というものである。
 もともと、素人が考えても、整備不良でハブ破断が発生する訳が無い。このような理屈を通せる政治力を持つ企業だっただけの話しである。20年前なら、ありそうな話だが、これを現在も続けている所が、すごい。

 しかし、不正はこれに留まらなかった。

 1988年以来、実際には、強度試験をほとんど行っていなかったというのだ。
 設計ミスを隠蔽するのとは全く違う。
 安全性試験を行わないで、平然と、安全と豪語するエンジニア・研究者が揃っていた訳である。この企業の技術者は、安全性などどうでもよいのである。

 さらに圧巻は、技術者らが「こうした試験でハブの強度を調べている」と、試験装置を動かしたりして、訪れた検査官に説明したという。報道によれば、会社分離前の、2002年8月のことである。

 これは組織や、プロセスを整備するだけでは解決できない。ヒトが根本的に腐りきっているからだ。

 安全性が重要視される産業では、エンジニア・研究者の、個人個人に倫理観が要求される。これは働く上での必須条件である。
 例えば、グローバルな医薬品企業では、データを記載している研究ノートに一部でも改竄が発見されたり、資料を隠蔽した場合は、即刻解雇処分である。データ捏造なら、損害賠償ものである。
 (労働契約時に念書か誓約書を書かされることが多い。)
 この自動車企業のエンジニア・研究者には、このような常識は全く通用しない。

 考えてみれば、もともと、この企業の文化は異様である。
 22年間モデルチェンジしない、「走るシーラカンス」と言われた製品を作っていたことで有名だった。
 (角張ったデザインが可能なのは、プレスの歪みが小さいことを意味するから、それなりの技術力を見せた商品ではあった。もっとも、全体構成は、素人が見てもバラバラに映る。)
 何故こんな儲からないことができたかといえば、グループ企業の経営幹部専用車と自治体トップ公用車を作っていたからである。
 権力者向けの特別仕様車を奉納することが誇りの、権力志向企業なのだ。
 権力者に奉仕していれば、何をしても、守ってくれると考えている訳だ。いかに悪質なことを行おうと、巨大グループの政治力があれば安心なのである。
 かつての共産国の政権幹部とほとんど同じ発想と言えよう。この体質は末端まで染み付いていると思われる。

 この自動車企業では、2001年3月に、30年に渡るクレーム隠し事件を巡って、株主代表訴訟がおこされた。(2)
 そして、2003年12月に、和解で決着した。その結果、会社が、和解金で「コンプライアンス基金」を創設し、法令遵守の仕組みを作ることになった。極く自然な決着である。
 ・ 外部の専門家に社内の不正行為を通報する制度の創設
 ・ 法令順守体制の整備・検討のための外部コンサルタント委託
 ・ 製品の安全や環境対策のための研究・開発などの費用に活用

 これでこの企業も変わるかと思ったが、期待薄である。
 和解交渉をしている最中の、2002年8月に、研究所の技術者が、国土交通省の調査担当係官に対して、装置を動かしたりして、行ってもいない試験を説明していたというのだから。
 訴訟は、あくまでも、役員責任に対するものでしかない。会社は被告ではないのだ。

 このような企業には、手の打ちようがない。

 --- 参照 ---
(1) http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20040407it01.htm
(2) 株主代表訴訟訴状 http://www1.neweb.ne.jp/wa/kabuombu/010417-3.htm
  http://www.nikkei.co.jp/news/shakai/20031202AT1G0200B02122003.html

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