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2004.6.1
Winny開発者逮捕の波紋…
インターネット上のファイル共有ソフト「Winny」に関する論議が盛んである。Winnyに肯定的な論評も結構目立つ。(1)
先端を歩む技術だから、肯定的な評価もわからぬではないが、現実の利用方法を見れば、賞賛する訳にはいくまい。
Winnyを適法で使ってる人の姿など、想像がつかないからだ。
元著作物の改訂版作品が流通し始めたとの意見もあるようだが、特殊例だと思う。現実には、なんでもフリーコピーとの仕組みが動いているとしか思えない。
日本の著作権の仕組みに問題があるのは、誰でも認めるだろうが、Winnyが著作権の仕組み変革の旗手の役割を果たしているとの主張も、納得しがたい。
米国では、違法行為の音楽コピーか、少額支払いのダウンロードのどちらを、個人が選択する流れができあがりつつあり、いまさらの感があるからだ。
著作権問題なら、先ず取り組むべきことは、NHK の膨大なコンテンツを自由に活用できる仕組み作りではないだろうか。そして、放送と通信の壁を取り払うべきだと思う。
又、国内版ディスクの海外との大きな価格差をなくすことも不可欠だろう。
Winnyは、こうした改革の第一歩を後押しする効果は小さいと思うのだが。
音楽やゲームのヘビーユーザは若者であり、一般に、この層の可処分所得は小さい。しかも、日本では、若者の人口が減る傾向にあるから、市場拡大はなかなか難しい。ケータイ着メロのような例はあるが、単純に、安くて便利というだけでは、新しい仕組みの導入インセンティブが働くとは言い難い状況にある。こんな状況下で、Winnyが変革圧力になるとは思えない。
科学の世界では、著作物をフリーに利用させるのだから、Winnyの利用は自由勝手だ、との主張もよく目にする。これも、理想論すぎるのではないだろうか。
論理は、わからなくはないが、一般にフリー提供で社会的意義が生まれるのは、利用するコミュニティができあがっており、利用方法についての不文律が共有されているからではないだろうか。
大学内にいると気付かないだろうが、外部の人にとっては、興味ある論文ひとつを入手するだけでも、恐ろしく面倒である。というより、知り合いがいるか、お金持ちでなければ、簡単な入手は無理である。これが現実の社会である。
知的コミュニティは、インフラのコスト負担をしない外部者には冷たいのである。そうしなければ、インフラ維持ができなくなりかねないから当然だと思う。そして、こうした閉鎖性にはそれなりの意味もある。目的が異なる使い方や、危険を知らずに利用されて発生するリスクを抑えることができるからである。
(もっとも、度を越せば閉鎖的になり、科学技術の進歩の障害になりかねないから、運営は難しいのだが。)
要するに、Winnyも仲間内で試験的に行うだけなら、大きな問題とはいえないのである。ところが、大々的に宣伝し一般利用が広がれば、放置することができなくなるのは致し方あるまい。
金銭などの報酬もなく自発的に開発する、というのは一見美しく聞こえるが、誰かがインフラコストやリスクを負担することになるともいえる。合理的な仕組みかどうかは、よくわからないのである。
例えば、Winnyが急普及すれば現時点のネットワーク技術では不安定化は避けられまい。インターネットインフラを支える産業が、この対処コストを負担するしかない。それは、一般利用者のコストにはね返る。
どう見ても登場が早すぎた技術なのである。しかし、このような技術は、これからも発生する可能性は高い。先端技術を試したい人達が集まれば、画期的なものが完成することが、わかってしまったからだ。
ビジネスマンなら、P2Pに対応し易いネットワーク技術開発や、著作権保護の新技術、といった挑戦から始めて欲しいと思うだろうが、ソフト開発者の興味と一致するとは限らないからである。
・・・と考えていくと、思った以上に重い課題が存在していることに気付く。
なかでも、ドキッとさせられたのは、日経コンピュータ中村建助氏の一言である。
「果たして現在の日本は,プログラマにとって働きやすい社会なのだろうか。記者の周辺では,プログラマの海外流出という事態を恐れる声もある。記者の疑問は尽きない。」(2)
Winny問題程度で開発者の逮捕に至るようでは、嫌気がさすのかもしれない。
又、安易な利用者や杜撰な管理体制の組織にも呆れ返っただろう。新技術が入ったとたんに、問題が発生する上、新技術が悪者にされかねないことがわかったからだ。新技術を使う気がない社会と考えるかもしれない。
先端を走るソフト開発者はどう考えているのだろうか。
--- 参照 ---
(1) http://it.nikkei.co.jp/it/sp/digicore.cfm?i=20040511vs000vs
(2) http://itpro.nikkeibp.co.jp/free/ITPro/OPINION/20040517/144242/
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