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2004.6.14 



肥満防止戦争開戦の兆し…

 米国における喫煙抑制策は効果があったことは間違いないようだ。
 次ぎの抑制ターゲットは、「肥満症の流行(obesity epidemic)」である。

 肥満は米国だけの問題ではないから、WHOでも集中的な議論が行われたが、米国は果たしてどのようにして肥満を抑制するつもりなのだろうか。

 ABC News を見ると、日本との違いが目立つ。日本の常識から見れば極端な方策も結構支持されているようで、どう流れていくのか予想は難しい。(1)

 例えば、もともと、外科手術がやたら多い国だが、「Stomach Surgery」が議論されている。日本人から見れば、食べ過ぎを止めたらよさそうなもの、と単純に考えてしまいがちだが、そうはいかないようだ。
 一方、なんらかの方法で体重を減らせばよい、と一直線に考える人も多いようだ。肥満者の罹病率が高いのは事実だが、無理な体重減らしが疾病防止になるとは思えないのだが。
 しかし、ニーズに応えるべく、様々な取り組みが次々と現れる。このため、ダイエット療法産業やサプリメント市場は伸びる一方のようだし、医薬品も含めて、治療技術の開発も盛んだ。ピンからキリまで、様々な方法が提供されている。自由な競争を好む、米国らしい動きである。

 とはいえ、今もって、肥満治療方針ははっきりしていないのが実情である。

 このため、極端な食事療法が流行ったりする。本当に、そのような療法が体に良いのかは、よくわからなくても、とびつく人は多い。いろいろな試行が競争して、最後に良い療法が残るという考えなのだろうが、危険性を感じる。

 米国の問題がやっかいなのは、これだけではない。
 低所得層の肥満への対応が難しいのである。この層は安価な外食が多いが、これを少なくするのは簡単ではない。しかも、この層は、必ずしも食べ過ぎが問題とも言い切れない。野菜や果物のような比較的高額な食品の摂取量が小さいため、食のバランスがもともと良くないのである。

 そのため、ジャンク・フードのラルフネーダとよばれるJohn Banzhaf 教授のような運動家が現れる。ファースト・フードをタバコと同じように扱うべき、との主張には一理あるのである。(2)

 しかしながら、問題の根源は、どう見ても、余り動かずに高カロリー食品を摂取する米国型生活スタイルだ。
 もっとも、食生活は個人の自由に係わるから、政府が直接手をつける訳にはいくまい。といって、肥満を個人の責任にしておくと、解決しそうにない。
 そうなると結局は、生活改善を社会が支援するか、法規制で食生活を変えさせることになろう。前者は時間がかかるから、結局のところ、後者になるのではないだろうか。

 すでに、American Psychological Association は、子供はテレビ広告をそのまま信じるので、不健康な食事になるとの報告書を出している。(3)食品の広告規制が始まる下地はできている。
 さらには、タバコのように、不健康食に注意書きがつくかもしれない。高カロリー食品への課税の可能性も否定できない。

 米国流に考えれば、非肥満者が、肥満者がもたらす社会費用の負担を背負うのは許せないから、肥満をもたらす元凶は絶て、という主張は米国では殺し文句でもある。
 しかも、諷刺映画「Super Size Me」(4)もヒットしているようだし、社会的に高カロリーファーストフード忌避のうねりが始まっていると言えそうだ。

 2004年5月のWHO での米国の態度や、肥満原因をフード業者にあるとの訴訟を禁止する法案が下院で成立した様子を見ていると、いかにも肥満対策に消極的な国に映るが、タバコ規制が始まった時を思い起こせば、この先、かなりドラスティクな動きが発生する可能性が高いのではないだろうか。

 --- 参照 ---
(1) http://abcnews.go.com/sections/living/US/obesity_subindex.html
(2) http://banzhaf.net/
(3) http://www.apa.org/releases/childrenads.html
(4) http://www.supersizeme.com/

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