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2004.8.2
研究者の長期安定雇用の是非…
統計的な数字はでは無いから、正しいかどうかはわからないが、日本企業の研究所で活躍している管理職の多くは、まともなアウトプットを期待するなら、研究者の長期安定雇用が不可欠と考えているようだ。
腹をわって話すと、研究職の人員削減が悪い影響を与えている、と心配している人が増えている。
一見、保守的な姿勢に見えるが、実は、リアリズムに基づいている。
日本では、有能な人材は「中庸」的なマスのなかにおり、それを見つけ、磨きあげることで、競争力向上が図れた。一方、一匹狼や、打ち上げ花火的な発言をする人から、成果が得られるのは、極めて稀である。
長期雇用体制を欠くと、有能な人材の発掘・育成ができかねる、と考えるのは自然な発想といえよう。
従って、本音で話しをすると、研究者への長期雇用保証を望まない事務系の経営者に対する辛らつな批判が飛び出す。
「雇用を守れない経営者は失格」という訳だ。
こんな話しをしていると、ここで、必ず同意を求められる。
どうして、当社の事務系経営幹部は、こんな当たり前のことが分からないのだろうか、という訳だ。
この質問に対する答えは実は難しい。Yes でもあり、No でもあるからだ。
といって、鵺的な発言をすれば嫌われるから、企業によって答えを変えるしかない。
従業員の力でイノベーションを生み出せる企業では、「Yes」と言う。
人を育てる仕組みが出来上がっており、人が育てば企業が間違いなく発展することがわかっているからだ。当然、長期雇用はプラスに働く。
しかし、そのような企業は少数である。
ほとんどの企業は、「No」と言わざるを得ない。
組織的な知恵でイノベーションを生む構造ができていないからだ。イノベーション競争の時代に生き残れる土台が無いのである。従って、社内で人を育てても、企業が発展するとは限らない。こうした企業に対して、「Yes」とは言いがたい。
もちろん、どの企業でも、人を育成すれば、それなりの見返りはある。しかし、育成に要する費用を考えると、効率性は極めて悪い。
「No」型企業が、「Yes」型企業の真似を図れば、雇用コストの割にはアウトプットが貧弱だから、収益が悪化する可能性が高い。従業員が必死に働いても、成果は限定的で、全体の競争力向上には結びつかないのである。結局のところ、雇用調整に追い込まれかねない。
といって、最初からスリム化すれば、成果はさらに生まれにくくなるのも事実だ。従って、気持ちとしては、「Yes」と言いたいところだが、嘘は言えない。
要するに、長期雇用だろうが、柔軟な雇用だろうが、状況はたいして変わらないのである。もともと、研究開発からのアウトプットで飛躍するする体制になっていないからである。
このことに気付かない限り、「No」型企業では、不毛な内部批判が続くことになる。
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