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2004.8.10 



国としての安全・安心の見方…

 内閣府の「安全・安心に関する特別世論調査」(1)が、2004年7月に公開されたとたん、今の日本は安全・安心な国とは思わない人が55.9%にのぼった、ということでマスコミに大きくとりあげられた。社会問題多発、治安悪化、経済状況不透明という背景を考えれば、当然の数字に映る。
 これを機に、治安強化の施策が進むことになろう。

 議論が沈静化したようなので、あらためて報告書を眺めてみた。

 安全・安心な国と考える人は39.1%だが、その理由は、日本は秩序があり社会が安定しているということのようだ。

 面白いのは、そのうちの42.3%が、その理由として、テロ行為や国際紛争に巻き込まれることなく平和であるから、と考えている点だ。
 と言うのは、安全・安心な国と思わない人の51.4%は、国際政治状勢、テロ行為などで平和がおびやかされている、と指摘しているからだ。
 そのまま読めば、日本を取り巻く環境についての現状認識が全く異なることを意味する。

 耳にする情報に差があるとは思えないから、これほど見方が違うとは思えない。
 質問が大雑把すぎた可能性が高い。

 そもそも、「安全・安心な国」という概念が、絶対的なものか、相対的なものかによっても、回答は変わる。

犯罪率比較抜粋(2)
(Total
 Crime)
Property
Crime
Robbery Assault
日本 15.2 3.4 0.1 0.1
米国 21.1 10.0 0.6 1.2
21.4 8.7 1.1 1.4
スイス 18.2 4.5 0.7 1.0
30.1 13.9 1.2 2.4
 例えば、時系列で見れば、様々な問題が発生しているのは確かだ。
 ・ 都会を中心に犯罪が増えているし、悪質なものも目立つ。
 ・ イラクや北朝鮮がきな臭い。
 ・ 年金や雇用の不確実性は高く、生活設計が難しくなってきた。

 しかし、他国とデータで比較すれば、日本が安全な国であるのは間違いないのである。
 ・ 犯罪率は圧倒的に低い。
 ・ 国内では、オウム事件以降、目だったテロ行為は無い。
 ・ 最低生活を支える仕組みは機能している。

 グローバル化が進めば、他国の様々な文化が流入する。犯罪も同じだ。
 努力したところで、海外に開いているのだから、今のレベルの安全・安心を保つのは難しいだろう。治安を保とうと思えば、生活の自由度を減らし、管理社会にするしかないと思う。

 戦争やテロも同じことだ。
 海外に対して国家としての意志を打ち出せば、必ず紛争に巻き込まれる。これを避けたいなら、なにも主張しない国になるしかない。

 生活の問題は、さらに難しい。
 グローバル経済化が進めば、1国の政府の施策だけで国内経済をコントロールできないからだ。生活の将来保証はますます難しくなる。政府ができるのは、努力目標の設定だけである。それでは生温いというのなら、すべてに重税を課すと共に、様々な障壁を作って、現行秩序を守るしかない。
 短期的には生活は安定するが、長期的にみれば国内経済は低迷し、生活レベルは下がることになる。

 ・・・「今の日本は安全・安心な国ではない」との調査結果を利用して、管理型国家に進み始めなければよいが。

 --- 参照 ---
(1) http://www8.cao.go.jp/survey/tokubetu/h16-anzen.pdf
(2) http://hdr.undp.org/reports/global/2004/pdf/hdr04_HDI.pdf

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