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2005.3.17
 
 


加湿器を眺めて感じたこと…

 インフルエンザが大流行だ。(1)
 予防は1にうがい、2に手洗い。そして、乾燥状態を避けることだ。この点では、マスク着用も意味があるらしい。

 そんなこともあり、家庭用加湿器の販売が好調らしい。

 と言っても、データを見た訳ではない。買いたいので参考にしたいということで、お宅はどのメーカーの加湿器を使っているか、たびたび聞かれるからだ。

 正直に答えると、たいてい驚く。と言うのは、米国メーカーの製品だからである。使い始めてもう数年になるだろうか。

 メーカー名を告げると、加湿器の知識が豊富なので、特別な機能を発揮する特殊品を選んだのか、部屋の雰囲気にあわせた素敵なデザインの製品に決めたと見なされてしまう。

 実情は、正反対である。

 海外メーカーの製品を選んだのは、一番安かっただけの話である。確か1,980円だった。
 この時、日本製品の価格は1万円近いものが多かった。店員はさらなる高級品も勧めてくれたが、湿度があがればよいだけだから、一番安いものを即決購入したのである。

 こんな話をすると、超特売製品と思われるかもしれないが、出血大廉売には見えなかった。装置の構造からして、決して無理な価格とは思えなかったのである。

 驚くほど、単純極まりない構造なのである。

 本体といえば、なんの変哲もないポリプロピレン製の半透明プラスチックの水タンクだけ。100円ショップの商品にあってもおかしくない単純なプラスチック成形品だ。
 あとは、このタンクの蓋でもある、発熱ユニットがあるだけ。発熱ユニットといっても、電熱ヒーターを使った精巧なものではない。電子部品どころか、スイッチさえついていない。2本の黒鉛電極にプラスチックカバーをつけた代物と考えればよいだろう。
 そのかわり、通電のため、極く少量の塩を水に入れる必要がある。といっても面倒というほどでない。タンクを洗う気がないなら、一度塩を入れたら、後は水を継ぎ足すだけでよいからだ。
 タンクの容量は結構大きいから、水を入れるのは、起床時と就寝時だけで十分。ほとんど手はかからない。

 利用者としては、気に入っている。

 間違ってもらってはこまるが、これはベンチャー企業の製品ではない。米国のスーパーに行けば、たいていはこの企業の商品を見かける。(2)日本人が知らないだけの話である。

 想像がつくと思うが、この製品は、しばらくすると店頭から消えてしまった。余り好評ではなかったのだろう。

 そのかわり、高機能品が投入された。「Kaz ヴィックス スチーム式加湿器」と命名されており、リフレッシュ液を水に添加し、お部屋に香りを漂わす製品である。 当然、値段がかなり上がった。
 Amazonの販売リストを見ると、これが結構売れている。(3)

 このことが象徴しているように、日本で売れるのは、大概が高機能品である。お陰で、商品は必ず高価になる。
 量販店に行くと高機能化競争の激しさは一目瞭然である。自動洗浄や水量警告といった便利さを訴求したり、湿度調整装置付もある。そして、イオン発生やアロマテラピーのような様々な効能を付加したもののオンパレード。これにデザイン性が加わる。お洒落なものが多い。

 これだけの商品が、店頭の棚に所狭しと並ぶ。「Kaz」の大雑把なモデルを見慣れている人間にとっては、文字通り息を呑むような美しい情景である。

 高付加価値化こそが日本企業が追及すべき道と、皆が主張してきた結果とも言えるが、現実に、最新モデルや高機能品の方が売り易いのだから、企業としてはそれ以外の道はとりようがないだろう。
 競争に勝ちたいなら、新しい訴求ポイントを探し、次々と新モデルを投入するしかない訳だ。

 しかし、このまま続けていて大丈夫なのだろうか。

 加湿器は、自動車のように、エンタテインメント性やデザインの時代感覚を楽しむ商品とは違う。このような競争を繰り広げると、グローバルに見ても力がつくならよいのだが、そうでないなら、方向転換を考えるべきではないだろうか。

 量販店の狭い棚に並ぶモデル数は自ずと限られる。にもかかわらず、多くの企業が参入し、それぞれが多数のモデルを抱え、熾烈な競争をし続けている。無理があるように映るのだが。

 それに、消費者が今後も最新モデルを嬉しがり続けるとは限るまい。
 これこそ一番の要注意点だと思う。

 すでに、ベーシックな製品を愛するライフスタイルが生まれている。高額でも気に入った商品を購入する人が増えている。
 実際、38,640円もする気化型加湿器「BONECO」が結構売れている。こだわりを売り込む通販雑誌がこの市場を作ったと見てよいだろう。(4)

 もちろん、このような商品を購入する消費者は一部にすぎない。
 しかし、“あるべき”ライフスタイルが提起されたことを受けて、消費者が動いたという点を見逃すべきではない。マーケティング手法の成功と見るのではなく、どのようなライフスタイルを追求すべきか検討を始めた消費者に“思想”を売り込んだと見た方がよい。
 “あるべき”ライフスタイルを率先して切り拓く企業の商品と認識された点に注目すべきだと思う。

 この製品には、国産の競合品が2種あるそうだが、さっぱり目立たない。思想をウリにしないから、様々な新製品の1種として認識されてしまうのではないだろうか。

 イノベーションの時代に、迅速で効率的な製品開発ができるだけでは、生き残れるとは限らない。
 まずはどのようなライフスタイルをサポートするつもりなのか、思想を鮮明にすべきだろう。そうでないなら、製品がいくら高度なものであっても、消費者から見ればone of themでしかない。指名購入はしてもらえないと思う。
 そのような状態が続けば、結局は敗退に繋がる。

 --- 参照 ---
(1) インフルエンザ罹患過去最悪の可能性 http://www.mainichi-msn.co.jp/kagaku/medical/news/20050312k0000e040014000c.html
(2) 米国のスーパーに行くと、加湿器「Kaz」とサーキュレーター「VORNADO」が並んで置いてあることが多い。
(3) http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/tg/browse/-/4082991/ref=k_br_dp_3_lf/249-3661792-0175556
(4) 「通販生活 2005年版ピカイチ事典」カタログハウス 2004年8月
 

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