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2005.10.13
 
 


雑草の話…

 最近、ペンペン草をさっぱりみかけなくなったが、どうしたのだろうか。
 と書いていて、雑草が好かれていることに気付いた。

 もっとも、雑草を“ペンペン草”とか“赤まんま”と幼児用の言葉で呼んだのでは風情を欠く。ビジネスマンに対して「ペンペン草を生やしてやる」とのバンカー発言を思い出してしまうせいもあるが、やはり、三味線草の方が、情緒があって、よかろう。

 妹が垣根 三味線草の 花咲きぬ 蕪村
 ひとり旅 三味線草を 鳴らしゆく 青柳志解樹

 ペンペン草より馴染みがある、“猫じゃらし”の方は、都会でも結構見かける。
 こちらの、正式名はエノコログサ(狗尾草)だ。
 猫と遊ぶ草ということになっているが、正式名は“犬っころの尾っぽ”という意味なのである。

 そういえば、雑草には、イヌがつくの名前が多い。
 オオイヌノフグリは実の形からついたものだが、とんでもない名称だ。もっとも、これはこれで愉快だが。ところが、名前に似ず、お花の方は結構素敵なので、お花屋さんに登場するようになった。雑草の地位から抜け出た可能性もありそうだ。
 作物名が入っているものもある。稗がイヌビエ、蓼はイヌタデ、麦はイヌムギといった具合だ。
 この他、イヌガラシ、イヌホオヅキもある。
 役に立たないということでイヌがついているようだが、こんな解説をつけたりすると、犬好きの方が烈火のように怒るかもしれない。

 こんな話を書いていると、庭いじりでもしていて、雑草に興味を持っている人間と誤解されてしまいかねないが、筆者はマンション住人であり、ガーデニングにも無縁な生活をしている。
 ただ、そんなコンクリート内生活にも、雑草は勝手に入り込んでくる。地面が露出している場所に、猫じゃらしが生えているのだ。この生命力には恐れ入る。
 見かけたついでに穂を2〜3本頂戴して持ち帰り、備前焼のミニチュア壷に挿してテーブルに飾ることもある。
 雑草への関心といえばこの程度である。

 その程度にもかかわらず、雑草の話をしているのは、たまたま、雑草の随想本(1)を読んだからだ。

 ホホ〜、と感じた点をまとめてみよう。

 雑草の種は落ちてからすぐに芽をだすようなことはないそうである。発芽のタイミングを見計らっているのだ。

 それではどうやってタイミングを計るのかというと、地上への光の差仕込み具合らしい。
 光が地面に届かないということは、すでに力強い植物が繁茂していることになる。しかし、土中にまで燦々と太陽光が差し込んでくるなら、地上で一大事が発生し、強い植物が駆逐されて地面が空状態であることを示している。従って、光が差し込んだら、雑草にとっては一大チャンス到来である。ここを逃す訳にはいかない。

 雑草はこの時までじっと何年でも待ち続けるのである。百年でも待つ種があるらしい。

 お陰で、田圃を耕す側にとっては、雑草は宿敵である。折角、生えていた植物を根こそぎ排除して、徹底して耕してから、稲を育てようと考えている時に限って、突然雑草が登場してくるからだ。
 農薬の宣伝を知っていると、イヌビエ、イヌホタルイ、コナギが厄介ものであることがよくわかる。農家にとって、農薬は、本当によかったというのが実感なのである。
  → イヌビエ
  → イヌホタルイ
  → コナギ       全農の雑草図鑑サイト

 ヒトから見ればいかにも邪魔なヤツだが、ヒトが農地を耕すという突然の環境変化によって、今まで謳歌していた植物が駆逐されたから、それを見計らって登場してきたに過ぎない。
 こんな時に雑草が特に目立つのは、成長スピードが凄まじいからである。
 ここぞという時に一気に成長する。どんな困難があろうと、ただただ、先に進もうとする。障害物にぶつかったら、その時はその時といった所だ。問題が発生したら、方向転換するだけのことである。

 このため、一見すると、いい加減そうに見えるが、驚くほどシブトイ。他の植物なら簡単に引き抜くことができるが、雑草はそうはいかない。根が深いのである。

 知らなかったが、もうひとつ特徴があるらしい。繁栄している雑草は、他家受粉の種の場合は、昆虫に対して選り好みしないという。パートナーの選定に関しては、いたってオープンなのである。

 そして、言うまでもないが、それぞれの雑草は独自のスタイルで他の種を凌駕するための技を持っているそうだ。

 間違えてならないが、雑草は環境が大きく変化した時に、それぞれが勝手に成長を図る。その繁栄は短い。環境が安定してくると、すぐに強い植物に地位を奪われるからである。
 疎まれがちな雑草だが、実は新しい地平を切り拓く役割を果たしている。雑草の活躍なしでは、強い植物も登場できないのである。

 ・・・というお話を書き下ろした方は、「雑草たちのように生きてみよう」と考えた雑草生態学の専門家である。(2)
 本の発刊は2002年だが、タイミングは合っていたのだろうか、などとつい思いを巡らしてしまった。

 --- 参照 ---
(1) 稲垣栄洋「雑草の成功戦略 逆境を生き抜く知恵」NTT出版2002年
(2) 国家公務員をやめてUターンし、故郷の農事試験場勤務、と記載されている。


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