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2005.12.6 |
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科学技術立国構想の欠陥…日本の科学技術活動の特徴は、発展途上国の人々を呼び寄せる気が全くないという点である。高度技術者の移住は欧米ではごく当たり前。米国は780万人強、EUは470万人、カナダは200万人、オーストラリアは140万人にのぼっている。(1) 科学技術で国富を増そうと考えるなら、高度技術者の数がクリティカルに影響を与えると思うが、日本では海外の頭脳を引いてまで国力を高めようと考える人は少ない。 まだまだ日本強しと思っているのだ。 確かに、先進国における特許取得数で見れば、競争しているのは、米、日、英、独、仏だ。そのなかで、日本は健闘していると言える。弱体化の兆しを感じる人などいないかもしれない。 しかし、時代は大きく変わっている。 例えば、研究者の数。 米国130万人、中国86.2万人、日本67.5万人、ロシア48.7万人である。 調査年は統一されていないし、日本以外は軍事研究分野への投入も多いから、この数字をそのまま受け取るべきではないが、大局観を得るには十分なデータだ。 研究者の質と、マネジメントの巧拙を問わなければ、長期的には、この数字が長期的な競争力に繋がる。 つまり、この数字で見る限り、日本は先頭グループに属することはできても、米国を越える力を発揮することは難しい。そして、長期的には中国に抜かれる。 従って、日本が本当に科学技術立国を目指すつもりなら、量では及ばなくとも、質で凌駕できる仕組みを作るとか、量で超える分野に絞り込む必要がある。これができなければ、次第に弱体化することになろう。 この流れは思った以上に速いかもしれない。 その理由は2つある。 1つ目は、すでに述べた、移民が少ない点だ。これは、高度な人材の絶対数を増やすという効果だけでなく、発展途上国への人材「還流」の仕組みを支える基盤でもある。「還流」人材が増えると、発展途上国と先進国が役割分担し、両者ともに発展できる好循環が生まれる。 残念ながら、日本にはこの仕組みはない。 2つ目は、誰を科学技術労働者と見なすかという観点でみると、日本の視野が狭すぎる点である。 科学技術労働者が雇用全体に占める割合の調査結果を見ると、日本の数字がやたら低い。 日本は20%を切っているが、米国が57%、EU15平均は48%。(2) 当然ながら、日本の数値は“underestimate”だが、これは労働者のカテゴリー分けが違うからである。 言うまでもなく、数字を大きくする仕分けに変えたところで、たいした意味はない。注目すべきは、国富を増す科学技術労働の見方が日本だけは違うという点である。 日本は、いわゆる研究者・エンジニアと言われる人だけを「科学技術労働者」と考える。個別専門領域で科学技術に直接携わっている人だけで科学技術の発展を図ろうと考えるから、こうなる。 こんな考え方では、飛躍のチャンスを失いかねない。 科学技術に関係するスキルには様々なものがあるからだ。今や、こうしたスキルの総力を上手く生かしてアウトプット増加を図る時代に入っているという感覚を欠いていると思われる。 「科学技術労働者」は広く設定すべきである。 狭く設定すると、大量生産の工業製品を生み出すために働いている人達を「科学技術労働者」と見なすことになる。 こんな考え方を続けていたのでは、発展は限定的だ。 と言うのは、成熟社会では、製品ビジネスは必ずサービスビジネスと融合してくるからである。又、科学技術の対象外と思われた分野に、技術を持ち込むことで新産業が勃興してくることも多い。 例えば、日本が誇るアニメ産業を支えているのは描画する人達だが、この人達をIT技術を活用して「科学技術労働者」に変えることができれば、産業競争力は飛躍的に強化される筈である。 金融業にしても、ここに「科学技術労働者」が生れなければ、競争力はさらに低下すると思う。 日本の雇用を支えている建築・土木産業でも、スキルが低い単純労働者の働き方を変えれば、産業が一変するかもしれない。 このような挑戦の第一歩は、技能者を「科学技術労働者」としてとらえかえすことだろう。 要するに、科学技術で国富を増やそうと思うなら、様々な産業で単純労働者を減らし「科学技術労働者」を生み出す動きを促進させるべきなのである。 ところが、日本の目指す科学技術立国構想は、そんな流れを作ろうという訳ではなさそうだ。 従来型「科学技術労働者」が頑張ることで、世界のリーダーを目指そうという発想に近い。 それぞれの個別要素技術毎に、ガチンコ勝負するつもりのようだ。こんな勝負では、体力が優る方が勝つに決まっている。数で凌駕できない国は、そんな戦いは避けるべきと思うのだが。 --- 参照 --- (1) 「OECD Science, Technology and Industry Scoreboard 2005 - Towards a knowledge-based economy」 http://oberon.sourceoecd.org/vl=9201258/cl=13/nw=1/rpsv/scoreboard/ (2) http://oberon.sourceoecd.org/vl=9330686/cl=35/nw=1/rpsv/scoreboard/gb05a.htm 侏儒の言葉の目次へ>>> トップ頁へ>>> |
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