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2006.2.20
 
 


Barrett会長が鳴らす警鐘…

 IntelのCraig Barrett会長は移民出身だそうである。そんな方が、米国は、今、“profound immigration crisis”の危機に直面していると語った。(1)

 膨大な数に達している非合法移民で大騒ぎしている政治家への皮肉という訳ではなく、移民の意義を忘れかけている状況に警鐘を鳴らしているのである。

 米国には、世界中から“best and brightest”が集まってくる。素晴らしい教育が用意されている上、自己実現の場が開かれているからである。これを別な視点から見れば、“foreign-born knowledge workers”が米国の技術競争力を支えているということになる。
 (脱線するが、これは技術分野以外の領域でも言えそうだ。2006年のWorld Economic Forum(2)の華は、Harvard大学学長のLawrence Summersという印象が強い。個人的な発言内容の話ではない。対立関係の国や、発展途上国のリーダー達が、米国流議論の輪のなかにいるのである。これこそが、米国流グローバリズムそのものといった感じを受ける。移民の国の強さが発揮されている訳だが、優れた教育を世界に提供し続けてきた点を忘れるべきではなかろう。)

 Barrett会長を見てもわかるように、米国では、エンジニア・研究者の海外生まれの割合は極めて高い。ポスドクでは、間違いなく過半を占めるだろう。PhD.も3分の1を下ることはあるまい。おそらく、修士も同レベルに達しつつある。この力が、米国の強みなのだ。

 いよいよ知識産業化が進み、グローバルで知恵の戦いが始まっている時、米国は逆に舵を切った訳である。移民国家にもかかわらず、permanent visa の取得さえ、益々面倒になっている。流入を増やす方向にはないのである。
 つまり、海外から優秀な人材を移入するより、地元民教育を強化するための改革に熱が入っている訳だ。
 と言うより、9.11以後の反移民の動きが、移入を妨げる結果を招いているのだろう。

 Barrett会長の時代認識は的確だと思う。
 1950年代、ソ連の人工衛星スプートニクの打ち上げで目が覚めて、科学振興を国家政策に掲げたが、同じことが、今、発生しているという訳だ。

 中国やインドといった新興勢力が、毎年毎年生み出すエンジニア・科学者の数は膨大である。特に後者は、知的所有権尊重の仕組みが現場に浸透しているようだし、科学の重要性を理解している。とてつもない数になれば、必ず、質も変わる。そこまでに、そう時間はかからないだろう。
 従って、新興国から、“best and brightest”を誘引できる魅力を失えば、米国は競争から脱落するのは間違いあるまい。

 技術で戦おうと考える経営者は、自社の組織革新については自信を持っている。と言うより、変革する気概が 満ち溢れていると言った方が正確だ。
 政治に対しても、その感覚で発言する。国家レベルでの危機を感じれば、言わずにいられないといったところだろう。しかし、今までとは違って、今度は、政治は簡単に動けない。戦争中なのだ。

 もっとも、日本はと言えば、お寒い限りである。
 当たり前のことを述べるだけで、さっぱり変革の気概を感じさせない経営者が多いからだ。外部から見て批判している訳ではない、当の企業の従業員が外部に対してそう語るのだ。そんな人が、日本は危機だと言ったところで、信じる人などいまい。
 時代感覚を欠く発言も多い。競争力の議論に、曖昧な日本文化論を持ち出したりする。都合のよい逸話を持ち出し、情緒に訴えたいのだろう。
 残念ながら、そんな人につき従う人が多いようだ。情緒的な話に対して、論理的な批判をしたりすれば、ポジションを失うから致し方ないのかも知れぬ。

 Barrett会長の論理は単純明快である。素直に読めば、こうなる。

 米国は、スプートニク・ショックで、宇宙と軍事研究に“best and brightest”を投入した。一方、その時、膨大なエンジニアを、毎年毎年生み出していた国があった。しかし、当時、それは無視してしまった。
 その結果、産業技術では、米国は零落しかねない状態にまで落ち込んでしまった。

 しかし、対ソ連の戦いは終了した。競争力回復に向け、米国は動いた。
 技術が鍵を握る新しい産業に“best and brightest”が集まる仕組みを作ると同時に、知恵で食べる産業を政治が強力に後押ししたのである。

 そして、今、新しい競争相手に対する戦いが始まったのである。
 産業の米である半導体産業を率いるリーダーが警鐘を鳴らしたのだ。これに対して、米国政治は どう動くだろうか。

 --- 参照 ---
(1) Craig Barrett 「America should open its doors wide to foreign talent」 [2006-1-30]
  http://news.ft.com/cms/s/3fd1a37a-91c2-11da-bab9-0000779e2340.html#
  Barrett氏は, 米国議会から指名される, National Academies Committeeのメンバーでもある.
(2) http://www.weforum.org/site/homepublic.nsf/Content/Annual+Meeting+2006l


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