↑ トップ頁へ

2007.1.15
 
 


台灣高速鐵路開通を眺めて…

 2007年1月、紆余曲折を経て、「台灣高速鐵路」(1)がついに開通。
   → 台灣高鐵通車記紀念 限定商品 「越是珍貴、越要争先恐後!」

 700T型新幹線車両(2)が使われるので、新幹線技術の初輸出と喧伝されているが、そんなものだろうか。

 確かに、新幹線第2世代(3)は投入しているが、報道されてきた複雑な状況を考えると、そうとも言えないかも知しれぬ。政治が絡むので、実態はよくわからないが。

 とにかく、この世界、恣意的な意見が横行しているようだ。
 典型例は、「ごったまぜ」批判論。様々なものが同居する仕組みは問題が多いという主張である。
 路盤工事は韓国ゼネコン、軌道分岐システムはドイツ製、車両は日本製、列車無線はフランス製、といった具合でインターナショナルそのものだが、これでよいのか、という話だったり、車掌は台湾人、運転手は欧州人、管制官は日本人、共通言語は英語だが、これで上手くいくのかと、声高に批判する人がいるのだ。
 グローバル化の時代、こんなことを恐れる理由はない。マネジメントの仕組みがしっかりしていれば、問題が発生する筈がない。
 と言うより、文化の違いで発生する問題を避けるマネジメントの仕組みが不可欠になるだけの話。このため、マネジメントの質はかえって高くなる可能性が高い。合理的な運営が行なわれ、安全性は高まるとも言える。

 しかし、これは、あくまでも理屈の世界での話。
 もし、マネジメントの質が低ければ、逆。こうなると、大変なことになる。
 マネジメント体制に係わる情報が無いから、どちらに転ぶか、全くわからないのが現実。

 ただ、一つ、気がかりな点がある。
 新幹線のように往復分離の複線方式ではなく、欧州方式の単線2本の双単線方式方式で運行するからである。(4)
 欧州型運行規格に、新幹線方式の安全運行システムを導入すること自体に問題があるのではない。欧州の考え方を認識したマネジメント体制になっているか、不安がよぎるだけのこと。

 欧州と日本では、システム作りの思想が違う。思想が違うものは融合できない。どちらを選択したのか、はっきりさせておかないと、、どこかで齟齬が発生するものだ。
 簡単に言えば、欧州方式とは、安全を支えているのは乗務員と考える仕組み。システムは、あくまでも乗務員のサポートにすぎない。日本の技術はおそらく正反対である。システムが安全を支えており、乗務員はその仕組みを補強している。
 厄介なのは、プロジェクト開始時のコンサルタント業務が仏独連合で行なわれていたため、管理が欧州型で進んで来た可能性が高い点。下手をすると、日本型と欧州型の折衷的なマネジメントになりかねない。もし、そのような仕組みになっているとしたら、問題が発生しないことを祈るしかない。

 こんなことを心配するのは、日本の鉄道の仕組みが、海外では上手く働かない可能性があるからだ。
 日本国内で素晴らしい成果を生んだ「運行管理システム」が、日本とは異なる風土で通用するとは限らないということである。

 その理由は、「運行管理システム」を考えてみればわかる。このシステムには以下の内容が含まれる。
  ・走行パターン/運転間隔基準設定
  ・ダイヤ策定
  ・車両/乗務員配置運用計画策定
  ・列車運行管理業務プロセス設計

 どれもソフトだ。従って、一見、移転は簡単に見える。しかし、すべてがヒトに係わっていることに注目して欲しい。頭で考え、シュミレーションでは大成功でも、実際にヒトが予想通りに動けるとは限らないのだ。どれか一つでも、トラブルが発生すれば、鉄道は止まってしまうのである。これが最大の問題である。
 ヒトの能力にはバラツキがある。日本で考えたバラツキの範囲に入っていれば、何の問題もない。しかし、そうでなければ、期待した結果は得られない。海外では、日本のように訓練された従業員が揃っていないことが多いから、そうなる可能性は常に高いのだ。
 例えば、走行パターン一つをとっても、運転手のレベルで、値は相当違ってくる。
 乗務員配置計画に至っては、まさに労務計画そのもの。車両配置にしたところで、列車基地で働く人達が、計画に合わせて仕事ができるか、簡単に検討できる訳ではない。
 日本では当たり前でも、海外ではとんでもない高望みかも知れない。そんな場合、日本のレベルを要求すれば、労務費は上昇するし、人集めも大仕事だ。
 世界的に見れば、鉄道マネジメントは英国方式がよく使われているのも、植民地時代のなごりもあるが、様々なレベルの人を使える仕組みだからだと思う。

 この観点では、日本の鉄道システムはハンディキャップを負っていると思う。
→ 続く (2007年1月16日予定)

 --- 参照 ---
(1) http://www.thsrc.com.tw/tw/index.htm
(2) http://www.khi.co.jp/sharyo/topic_final/topic061002.html
(3) http://jr-central.co.jp/museum/zukan/sin_700.html
(4) http://zh.wikipedia.org/wiki/%E5%8F%B0%E7%81%A3%E9%AB%98%E9%80%9F%E9%90%B5%E8%B7%AF

 <列車のイラスト>
 「鉄道バナー素材館」
 http://hkuma.com/tbf/
 ・JR西日本700系3000番台のイラスト by SnowWing


 侏儒の言葉の目次へ>>>     トップ頁へ>>>
 
    (C) 1999-2007 RandDManagement.com