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2007.5.9
 
 


仏の美術館の海外展開…

 P.Kotlerと弟との共著、「MUSEUM STRATEGY AND MARKETING」(1)が出版されたのが、1998年のこと。
 その書き出しは、・・・“The Art Institute of Chicago's blockbuster exhibition of the works of Claude Monet drew 960,000 visitors during a nineteen-week period in 1995.”
 この経済効果は3億ドル。
 続いて、・・・“The 1996 Cezanne exhibition at the Philaelphia Museum of Art drew 550,000 visitors a thirteen-week period,”
 こちらは、8,650万ドル。

 こんな昔の話を思わず思い出したのは、国立新美術館で「大回顧展 モネ印象派の巨匠、その遺産 」[4月7日〜7月2日](2)を見たから。
 世界の美術館から、名作集結とのふれ込みで、新聞社との共催。数多くの日本企業の協賛もあおいでいる。
 宣伝が効いたのか、連休前の平日の昼にもかかわらず大混雑。休日はさぞかし盛況のことだろう。

 様々なところから絵画を集めたというものの、100枚ほどの絵画のうち、約2割はオルセー美術館の所蔵品。
 そういえば、直前に、東京都美術館で「オルセー美術館展 19世紀 芸術家たちの楽園」[1月27日〜4月8日](3)も見たのだった。1996年、1999年に引き続き3回目の展覧会。

 驚くほど沢山の作品がフランスから来日したことになる。

 しかし、この程度で驚いてはいけない。

 国際観光地化を狙う、米国アトランタでは、The High Museum of Artが開館し、3年間の“Louvre Atlanta”企画展が始まった。レンブラントの絵画を始めとして、100点を越える有名な作品が米国に移送されるようだ。(4)

 そして、なんと言っても圧巻は、アブダビのルーブル美術館別館設立話。
 石油後に備え、観光業振興を図っているアラブ首長国連邦が誘致したのである。ゴルフやマリンスポーツの施設と、4つの美術館が並ぶ複合文化施設なのだという。ルーブルからの作品に加え、独自に美術品を購入して、魅力的なものにするそうだ。
 名称使用だけで、最初に1.5億ユーロを支払うらしい。その総額は4億ユーロにのぼるという。(5)

 ルーブル美術館で展示している美術品は、所蔵品のほんの一部だから、貸与したところでたいしたことはないということらしいが。
 それに、どこの美術館も収蔵品を増やしているが、展示スペースが追いつかない。このため、分館構想は極く自然な流れのようだ。

 こんな話を聞くと、彼我の違いを感じる。

 名古屋ボストン美術館の話を思い出すからである。
 名称は、美術館だが、ホテルが入居する駅前ビル内に立地する、絵画ギャラリー的施設だ。にもかかわらず、1999年の設立以来130億円を投入したという。しかし、目論見が外れ、入場者数は低迷一途で、財源が底をつきそうなった。
 そこで、10年分の寄付金を37億円から、17億に減額したもらい、どうやら存続という状況のようだ。(6)

 名古屋ボストン美術館は上手くいかなかったが、世界を眺めると、美術館は都市の人集めの目玉。競争の焦点でもある。

 2010年万博を準備中の上海も、2007年中にポンピドー・センターの分館をオープンするそうだ。こちらは、コンテンポラリー・アートで勝負する訳だ。(7)

 フランスの美術館側にしてみれば、こんな流れに乗って所蔵品を貸与し、収入を得る一大チャンス到来という訳だ。
 「誤解を恐れずに言えば、新たな収入源を確保するために文化遺産を商品化する」(8)動きだそうである。

 ビジネスマンなら、思わず、美術館フランチャイズ・ビジネスを始またらどうか、と提案したくなる。
 などと言うと不快感を示す人が多いが、そんな感覚で美術館が成り立つ時代ではなかろう。
 例えば、MoMAなど、日本でオンラインストア(9)を開設しているのだ。もっとも、運営企業は日本企業(三洋電機)だが。
 ニューヨークには、MoMA始め多くの美術館があるし、文化ビジネスの拠点であるホール/シアター/ギャラリーの数も半端ではない。このことは、これらに関連する産業が巨大であるということ。その産業規模は、建築業を越えているのではないか。
 そして、この産業の臍に当たるのが、MoMAのような美術館である。地域イメージの看板でもある。もし、美術館がビジネスセンスを失ってしまったら、産業全体が萎えかねない。
 米国で、こんな議論が行なわれたのは90年代。そんな風潮を示すのが、冒頭で引用した本。

 そして、フランスも、ついに美術館をビジネスの核として考え始めるようになってきたようだ。

 --- 参照 ---
(1) N.Kotler, P.Kotler: “MUSEUM STRATEGY AND MARKETING:
  DESIGNING MISSIONS, BUILDING AUDIENCES, GENERATING REVENUE AND RESOURCES” Jossey-Bass 1998 [邦訳あり]
(2) http://monet2007.jp/
(3) http://www.tobikan.jp/museum/end_2006.html
  http://www.orsay3.com/ (4) http://www.louvreatlanta.org/en/home/
(5) http://news.bbc.co.uk/2/hi/europe/6421205.stm
(6) http://mytown.asahi.com/aichi/news.php?k_id=24000340606120001
(7) http://www.theartnewspaper.com/article01.asp?id=490
(8) Philippe Pataud Celerier:「フランス美術館、あの手この手の資金集め」 ル・モンド・ディプロマティーク日本語・電子版2007年2月号
  http://www.diplo.jp/articles07/0702-3.html
(9) http://www.momaonlinestore.jp/


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