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2007.5.24 |
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調査データの様々な読み方…時事通信社が2007年5月10〜13日に実施した世論調査によると、安倍内閣の不支持率は二ヶ月連続で低下し、すべての世代で支持が不支持を上回った。(1)4月末の日経新聞の調査結果では、内閣支持率が5割を越えている。(2) これに伴い、マスコミの論調が急速に変わってきた。 ほんの少し前まで、安倍内閣は筋が悪く、いつ崩壊してもおかしくない、といった調子の論説が蔓延していたのだが。 確かに、安倍内閣の支持率は発足時と比べれば急落。しかし、どう見たところで政権基盤が動揺しているようには見えないのだが、マスコミの報道は逆。 なかには、どこまで本当かわからぬ週刊誌情報を根拠とする、健康不安説まで登場。 しかも、普通の半日健康診断ドックとしか思えぬものを、理由も示さずに何かおかしいと断定的に記述。(3) 恐ろしく恣意的な記事である。 日本のマスコミの体質をよくわかっている代表的なジャーナリストだから、空気を読んで、今が書き時と考えたのだとしか思えない。
日本のマスコミは、流れに乗り、大騒ぎすることを重視するから、どうしてもこうなる。 そのため、決断力とリーダーシップ発揮を褒めていても、突然にして、独断・独裁者との評価に変わったりする。意見をよく聞く人と言われていても、流れが変わり始めたら、一斉に優柔不断との非難が始まる。 この手の意見に慣れすぎると、本質的な流れは読めなくなってしまう。 例えば、この内閣については、当初からそんな意見ばかり。最初は、「論功行賞内閣」とのレッテル貼り。良くも悪くも、基本方針が違う人を内閣から排除したことだと思うが。その方針とは何かをしっかりと報道することはない。 支持、不支持は、この方針に対して問うべきなのだが、そういった議論を避けているとも言える。 これが、良くも悪くも日本のマスコミの常套手段。 従って、調査結果に関するマスコミの解説も、こうした類のものと考えた方がよい。 それに、データ自体も、参考程度のものと見た方がよさそうである。個人情報保護法施行後は無作為抽出調査は難しくなってしまったからだ。母集団の特徴も新聞社によって相当隔たりがありそうだ。 その上、良く知られているように、質問の仕方で答えは変わってくる。恣意的な調査でないとの保証はない。 そんな不信感を抱かざるを得ないのは、支持率を根拠として、安倍政権は致命傷を負ったと言わんばかりの解説を見かけたからだ。 リアリズムに徹すれば、どう考えたところで、そんな筈はない。 確かに、質の悪い閣僚によるダメージは小さくはない。だが、それでも、支持率40%程度。この数字なら、小選挙区制度だから、致命傷どころか、勝利が約束される数字ではないのか。 と言うのは、2大政党化が進んでいる状況にはないから。 進んでいるのは、無党派層の膨張。つまり、現政権には不満があるが、野党は支持できない層が増えているということ。つまり、政権党が無茶なことをした時だけ、野党に一票を投じるかもしれない人が多いのだ。野党が政権を奪取できる状態からは程遠い。 こうなっているのは、当然といえば、当然。 自民党も民主党も様々な主義主張の勢力を抱えており、既得権益防衛しか考えなさそうな現状維持派も大勢存在する。そのため、どちらも、どんな政策を打ち出すのか予見ができない。方針がわからない勢力に対して、支持か、不支持かを尋ねられて、答えられる訳がない。 そこそこ真面目に活動しているなら、政権党を支持するしかなかろう、と考える層が増えているのだ。 従って、首相に健康問題でも発生しない限り、安倍内閣が倒れることは考えにくい。 余計なことだが、倒れるとしたら、公明党の離反か、自民党内で以下の動きが現れた時だろう。 ・同志と見なしている層からの非支持表明。 ・教育再生の動きが頓挫。 ・国家の基本問題への取り組みの先送り。 話が外れたが、言いたいことは一つ。 調査結果について、日本のマスコミが流している解説には十分注意を払う必要があるということ。 そんな話をしたくなったのは、滅多に見たことがない「スラッシュドット」で、マスコミの調査結果の引用を読んだからである。 「日本の科学技術は20年後に世界をリードしない? 」(4)とのタイトルなので、何が議論されているか気になって、つい見てしまったが、後悔している。“興味深い結果”というが、実につまらぬ内容。 「スラッシュドット」は、プレスリリースや新聞記事のスクープをいち早く流すことで閲覧者が多いと言われるが、適切な情報かを判断する仕組みがないから、致し方ないのだが。 何処がつまらないのか、と聞かれると、答えが難しいが、正直に言えば、得体の知れない調査ということ。 なにせ、一般の人に電話インタビューしたら、“半数の人が、将来の日本の科学技術の水準に厳しい見方をしている”(5)というのである。 エ〜。 科学技術に興味を持たない人が多いのに、こんな調査にどんな意味があるのか。日本の科学技術の将来を予測したいなら、調査対象が違うだろう。 何か違う目論見があるのだろう。 その観点では確かに“興味深い”かも知れないが。 最近のマスコミはどうもおかしい。 もう一つ例をあげておこう。 インフルエンザ治療薬の使用中止の話。 ・・・こちらは、「サイエンス・ポータル」に意見が掲載されていた。(6) 調査結果の統計処理結果について、“公の場ではほとんど議論されないように見える”がそれでよいのか、との指摘である。その通りだ。 どういうことか、簡単に説明しておこう。 患者約2,800人を対象に実施した調査結果から、統計学的に有意差は見つからないから、副作用無しとの結論が発表された。もちろん、統計専門家による分析結果だ。 しかし、どういう訳か、別な専門家がデータを再吟味することになる。 すると、この調査では、サンプリングに問題があるとされる。 ここまでは、ありそうな話。 ただ、この後が圧巻。 サンプリングに問題があるとしたデータから、今度は有意差があるとして、全く逆の結論が導かれるのである。 ホ〜。 そんなことができるものなのか。 普通なら、ここで、最初の有意差無しと判定した専門家の反論がありそうなものだが。 一体、どうなっているのだろう。 さっぱりわからぬ。 もっとも、この問題の本質は統計データの解釈にある訳ではない。 これを薬害と断じたジャーナリストの見解は正当である。(7) --- 参照 --- (1) 2007/05/17-15:20 内閣支持、微減の39%=不支持2カ月連続ダウン−時事調査 http://www.jiji.com/jc/c?g=pol_30&k=2007051700679 (2) 内閣支持率・日経世論調査 http://www.nikkei.co.jp/sp2/nt22/index20070225AS3S2500N25022007.html (3) 立花隆: 「政権の命取りになるか安倍首相の健康問題」日経BP 連載コラム [2007.2.21] http://www.nikkeibp.co.jp/style/biz/feature/tachibana/media/070221_kenkou/ (4) 2007年5月1日掲載 「日本の科学技術は20年後に世界をリードしない? 」 http://slashdot.jp/science/article.pl?sid=07/04/30/239227&from=rss (5) 「日本のリード、否定が半数 科学技術20年後 本社調べ」朝日新聞 [2007年4月30日] http://www.asahi.com/science/update/0430/TKY200704300259.html (6) 2007年3月23日 【統計処理の妥当性だれが再評価?】 http://scienceportal.jp/news/review/0703/0703231.html (7) 立花隆: 「タミフルに隠された真実 第二の薬害エイズに発展か」日経BP 連載コラム [2007.3.24] http://www.nikkeibp.co.jp/style/biz/feature/tachibana/media/070324_tamiflu/ 侏儒の言葉の目次へ>>> トップ頁へ>>> |
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