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2007.9.12
 
 


老舗百貨店の強みとは何なのだろう…

 日本橋のデパートへ行くと、エレベーター嬢がハンドルを操作して扉を開閉してくれるレトロなシーンにお目にかかれる。その一つが、三越本店である。いかにも、1673年創業の老舗の雰囲気だ。
 もっとも、越後屋の名称を感じさせるのは、屋上の「漱石の越後屋の碑」(1)
位のものだが。

 しかし、三井財閥発展の波にのって、順調に発展してきた訳ではない。大財閥になれば、当然ながら、呉服ビジネスなどマイナーな位置付けになってしまう。そこで、バンカーが経営てこ入れに乗り出し、百貨店への大変身を図った。その結果、隆盛を誇るようになったのである。(2)
 小生も、小学生の頃はよく連れられて行った覚えがある。

 日本社会の大衆文化をつくりあげてきた百貨店だが、最近は存在意義が問われるようになってしまった。市場の縮小が続いているからである。
 老舗は新しい文化を生み出すべく大胆な変身を図るのだろうか、それとも確実に百貨店として生き残り、“残り物は福”を目指すのだろうか。

 などと考えていて、思わず、昔、銀座の老舗の社長と面談した時に聞かされた話を思い出してしまった。
 ・・・GHQに、百貨店業界の状況を聞かせろと言われたので、銀座のデパートの社長が代表として、状況を説明しに行ったという。そこで、その社長は、“自分の会社は、創業○年”と歴史を誇らしく語ったらしい。
 その反応は、予想がつくと思うが、“○年も頑張って、まだそんな規模か”というものだったというのである。
 何故、老舗の社長が、外部の人間にこんな話をしたか、おわかりだろうか。老舗意識など役には立たないと言いたかったのである。

 話はとんでしまったが、超老舗の三越が、やはり老舗である伊勢丹と経営統合することになった。(3)

 教科書的にいえば、衰退産業では規模の経済が効くから、統合に踏み切ったということになる。しかし、それはあくまでも一般論。統合したところで、改革が進まなければ、効果がでるとは限らない。三越の場合、どう見ても改革余地は大きいが、それが見えるということは、本格的改革がなかなかできない事情があるということだろう。
 統合発表直後、格付投資情報センターから、伊勢丹を格下げ方向で見直すとのクレジット・コメントが流されている位だから、時間がかかる、相当な難題なのだろう。(4)
 それに、“「各地の富裕層を中心とした約350万口座におよぶ顧客基盤」を背景に高付加価値な品揃えとサービスを提供”できると言っても、統合すれば自動的に顧客基盤が強化されるものでもなかろう。抱えている優良顧客が同じタイプとも思えないし、外商営業の風土も相当違いそうだ。サービス統合で、優良顧客が離れたりすれば元も子もなくなる。
 統合で理屈通りの成果を出すのは、そう簡単ではなさそうである。

 余計なことだが、素人からすれば、そんなことより、新宿を拠点とする伊勢丹と渋谷を拠点とする東急の統合の方が、首都圏で圧倒的な力を発揮できそうに思うのだが。
 ともかく、今は、規模の確保が緊要な課題なのだろう。

 この企業統合で、是非とも、産業の活性化を実現して欲しいものである。

 しかし、現実を眺めると、上手くいくのか心配である。
〜 海外展開状況 〜
伊勢丹 三越
撤退
店舗
香港
バルセロナ
ロンドン
ウイーン
n.a.
運営
店舗
中国5店舗
高雄
シンガポール
クアラルンプール
バンコク
ロンドン
パリ
ローマ
独3店
マドリッド
オークランド
上海
台湾13店舗
駐在所 北京
香港
パリ
ミラノ
n.a.

 例えば、海外展開にしても、両者の考え方には相当な開きがありそうだ。

 伊勢丹の動きは理解し易い。収益性や成長性を考え、競争力が発揮できる根拠が薄い先進国市場を捨てて、富める層が急増しているアジア市場に狙いを定めているように映るからだ。
 一方の三越は、逆に動いているように見える。海外でも三越店舗で購入したいという上得意のために必要なビジネスなのだろうか。それとも、競争力があり、将来も収益が期待できるということか。情報が無いので皆目わからない。
 もっとも、トイレが不安な旅行客にとっては嬉しい店であり、繁盛店なのかも知れないが。

 それに、スピードの違いも感じる。

〜 最近三越が閉鎖した地方店/売店 〜
2003年 花見川,習志野台,上大岡
神戸本町,明石
2004年 丸の内,高松YOU三越
成田空港第一ビル売店,お台場,長野
2005年 函館,羽田空港,洗足
三田,小豆島,枕崎
2006年 吉祥寺
2007年 長野,泰野,栃木
昭島,飯能,狭山
 西武が地方店の閉鎖に踏み切ったのは、確か、1997年のこと。伊勢丹もかなり前に動いたと思う。しかし、三越の動きは最近のこと。
 素人が考えても、地方の古い市街地にある小さなデパートや売店が繁盛するとは思えない。休みの日、わざわざ混雑必至の場所に車でいく気になるものだろうか。しかも、施設といっても、ほとんどが売り場で、あとは貧弱そのもの。
 郊外の大型店やコンプレックス施設が流行るのは必然ではないかと思うが。
 それに、小規模売り場が、外商拠点にならないこともわかりきった話ではなかろうか。優良顧客維持に役にも立たないのなら、閉鎖するしかなかろう。どうして長いこと温存してきたのだろう。

 新宿のデパート戦争の結果を知っていれば、さらに理解しがたい動きもある。
 伊勢丹、三越、高島屋、京王、小田急と乱立のなかで、大型店化した三越新館には、さっぱり人が集まらず、結局家具店に貸し出すことになったのは余りに有名だ。さらに、新宿三越も名前が変わり、今やデパートと見ている人は少なかろう。
 ところが、今度は、大阪に出店するという。
 大阪で勝てる根拠とは何なのだろう。素人にはわからぬ。(財務指標からいえば、有形固定資産回転率が悪いということ.)

 最近は長寿企業を賞賛する企業が多いが、はたして、老舗企業が優れていると言えるのだろうか。

 --- 参照 ---
(1) “平成18年12月6日「漱石の越後屋の碑」除幕式が行なわれました” 中央区 まちの話題
  http://www.city.chuo.lg.jp/press/puresuheisei18/puresu1206/index.html
(2) 三井広報委員会「三越の歴史」  http://www.mitsuipr.com/history/mitsukoshi.html
(3) http://www.mitsukoshi.co.jp/pc/corp/pdf/0070823.pdf
(4) 「伊勢丹をレーティング・モニター(格下げ方向)に指定」格付投資情報センター [2007.8.23]
  http://www.r-i.co.jp/jpn/news_topics/nr_rating/rating.html
(伊勢丹オフィシャルサイト) http://www.isetan.co.jp/
  http://www.isetan.com/icm2/html/com/jp/index.html
(三越オフィシャルサイト) http://www.mitsukoshi.co.jp/index.jsp
(伊勢丹/三越wikipedia]
  http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BC%8A%E5%8B%A2%E4%B8%B9
  http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%89%E8%B6%8A
(日本橋三越の写真) (C) Akira O. 東京発フリー写真素材集 http://www.shihei.com/tokyo_001.html


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