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2008.6.19 |
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スマート・ドラッグ服用時代到来か…“Smart drugs”は、標的だけを狙う抗癌剤のような、いわゆるDrug Delivery Systemでの先端開発品を指すものと思っていた。ところが、ちょっと調べていたら、頭がスマートになる薬の話がでてきた。(1) またきたかという気がした。 それこそ、グルタミン酸化合物を食べると頭がよくなるとか言われた時代があったし、この手の話題はいつも騒がしくなるからだ。現在は、頭をよくする機能ではないが、GABAという言葉が街で氾濫しているが。 それはともあれ、この記事は、もっぱら、抗アルツハイマー薬剤開発品だったAMPAKINEの話。素性から見て、確かに、記憶を高める効果が生まれる可能性はあるかも知れない。もしそうだとしたら、どうするかは、大きな問題になってこよう。 (脳の海馬の伝達物質はグルタミン酸だが、AMPAはその作用に関与しており、このレセプターを制御し、興奮効果を発揮する物質。グルタミン酸増強剤ということになる。一時期、睡眠不足でも、服用すれば頭が働くという報道がとびかったが、しばらくなりを潜めていた感じだった。(2)) 生理活性が高い物質は、いろいろな効果を生み出すから、どんな効能が生まれても驚きではない。 実際、狭心症患者での臨床試験でとんでもない効果が見つかり、一躍、大市場を形成した薬剤もある位だ。(狭心症薬の件は、薬理試験で特定の酵素阻害作用を見落したとも言えるが。)どこまで本当かはわからないが、この薬、時差ぼけ解消効果もあるとか。海外出張直後、この薬にご厄介になった人の勇んだ報告かも知れぬが。 こうした効能研究が過ぎると、スポーツ選手の筋肉増強剤や興奮剤に使われたりする訳だ。ドーピングは禁止だが、人生を賭けた勝負の世界だから、禁止されていない薬剤を色々と試しているに違いかろう。イタチゴッコに近い感じがする。 相撲のように、猛烈に食べて体重を増やさなければなかなか勝てない競技もあるし、逆に、余分な脂を徹底的にそぎ落とした体型のランナーが優位に立し易いマラソンのような競技もある。健康上ギリギリまで体を鍛えることに全力投球しているのである。薬の利用と紙一重と言えないこともない。 しかし、対象が「筋肉」ではなく、「頭」でも、ドーピングと見なすべきかは、意見がまとまっていないようだ。 薬服用で、一気に頭が冴え渡るなら、使ってもよいではないかと考える人も少なくないのである。効果は明らからしいのだが、・・・ “Provigil, for example, adds the ability to remember an extra digit or so to an individual's working memory (most people can hold seven random digits in their memory, but have difficulty with eight). It also improves people's performance in tests of their ability to plan.”(3) まあ、いわゆる、居眠り症候に対して抜群の効果が期待できるから、覚醒効果抜群なということのようだ。(Provigilの日本名は「モダフィニル」で希少疾病用医薬品(4)) Natureの読者調査によれば、5人に1人が、この手の薬剤を使用しているという。(5)(もちろん、「ドーピング規制始まる」という“April Fools' prank”の類の面白企画ではない。)この数字をどう見るかは人それぞれだが、ここまで来たかという感じがした。実態はもう少し高いかもしれない。 この結果によれば、ほとんどの場合は疾病治療ではなく、集中力を高めるためだけに、RitalinやProvigilを服用しているのだ。ただ、ほとんど米国での話しのようだが。(EngineeringとBiology分野の人が多い。---服用者が少ない分野は、のんびり研究を続けられる世界なのかも。) 確信犯としてのドーピングだが、「犯」と呼べるかは疑問である。子供ならいざしらず、科学的知識と判断力があるプロフェッショナルが服用して一体どこに問題があるのだとの声が返ってきそうだから。 もし、そんな風潮が生まれているとしたら、世界は変わるかも。Natureの読者層はいわゆるイノベーターの可能性があり、この動きを見て、流行の先端を走りたがる層が服用を始め、一気に広まる可能性はかなり高そうである。 そういえば、そんな動きは海外だけではなかった。鬱病の名目でのリタリン大量処方が問題になったばかりである。(6) (米国のキャンパスではリタリンはコーヒー同様のものらしい。---“It makes you feel smart. And I think good thoughts when I use it.”(7)) 日本で覚醒剤といえば、もっぱら闇の世界がとりしきっていて、社会に反抗的な若者や芸能界でしか通用しない商品と考えがちたったから、こんな話を無視していた。 これからはそうはいかなくなるということのようだ。 ついに、頭脳労働者がスマート・ドラッグを服用する時代が来るのだろうか。 --- 参照 --- (1) “Smart drugs”( Drugs to make you cleverer are in the test-tube. Good) Economist [2008.5.22] http://www.economist.com/displayStory.cfm?source=hptextfeature&story_id=11412603 (2) Referenceの20番---“DARPA to Sponsor Evaluation of the AMPAKINE (R) CX717 in a New Study in Shift Work.” [updated 2005 June 21; cited 2007 August 3] http://ccnmtl.columbia.edu/projects/neuroethics/module3/resources/index.html (3) “Cognitive enhancement All on the mind” Economist [2008.5.22] http://www.economist.com/displaystory.cfm?story_id=11402761 (4) 北村正樹: 「モダフィニル:過眠症治療の標準薬がついに日本へ」 日経メディカルオンライン [2007. 2. 22] (5) Brendan Maher: “Poll results: look who's doping” Nature [2008.4.9] http://www.nature.com/news/2008/080409/full/452674a.html (6) 「リタリン:10万錠以上の大量処方、全国に13施設−−昨年」 毎日新聞 [2008.6.7] (7) PAUL ZIELBAUER: “New Campus High: Illicit Prescription Drugs” NewYork Times [2000.3.24] http://query.nytimes.com/gst/fullpage.html?res=9502E0DB153DF937A15750C0A9669C8B63&scp=4&sq=PAUL+ZIELBAUER+illicit&st=nyt (お医者さんのアイコン) (C) Free-Icon http://free-icon.org/ 侏儒の言葉の目次へ>>> トップ頁へ>>> |
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