↑ トップ頁へ

2008.8.7
 
 


ワーク・ライフ・バランス政策の問題点…

 企業は、ワーク・ライフ・バランス対策に忙しい。もっとも、そんな企業は、全体から見ればほんの一部だが。
 2008年7月に発表された内閣府の世論調査によれは名前も内容も知らない人が6割で、名前は聞いたことがあるというのが4分の1。(1)
 宣伝不足といった問題ではなく、予想通りの結果である。普通の人なら、そんなことを制度で担保できる訳がないと考えているからだ。
 おそらく、この手の施策に関心を払うのは、終身雇用は当然と考えるような、一部の余裕ある生活者だけではないか。

 それにしても、こんなことをするより、もっと重要なことがあると思うが。
 大局観もさっぱり感じられないし、日本の政治家は時代感覚がずれていそうだ。

 そもそも、少子化対策関連の施策は筋が悪すぎる。係わっている人は気付かないようだが、予算バラマキの新しいタネに映るからだ。外国はもっとお金を使っているから、日本も使えという、昔からの手法を使ったのが最悪だった。
 これで、多くの人は、直観的に又やっていると見たのである。

 将来不安が問題となっていると言いながら、一番に、家族政策の予算増額を掲げたのだから、最悪のイメージを植えつけてしまったと言ってよいだろう。
 つまり、予算を投入すれば、その代わりに他の福祉予算を削るつもりなのだと直感させたということ。もともと、こうした予算配分の議論ができない状態だから、国も地方も財政が破綻したのである。
 破綻している年金や健康保険と同じような制度をさらに作ろうとしている動きと見られれば、関心を呼ぶ筈がなかろう。
 なにせ、冗談かと思うようなITサービスを多額の費用を投じて始める政府だから、誰もはなから信用していないのである。
 そんな政府についていくのは、利害がからんでいる一部の人達と、逆らうと生きていくのが難しい人達だけになりつつあることを理解していないようだ。

 それにしても、ビジネスマンも良く黙っているものである。今になって、サービス基盤の強化を言い出したりするからだ。
 もともと、大きなビジネスチャンスがある分野なのに、規制撤廃を避けた分野である。はてさて、これからどうするつもりなのか。

 そして、なんと言っても、一番の目玉は、企業に雇用保証を求める方針。補助を出して、昔のような長期雇用化に戻そうとしているとしか思えない施策。
 誰が考えても、そんな時代ではないと思うが。
 今、企業に求められているのは、事業のスクラップ・アンド・ビルドを迅速に進めることと、将来のための研究開発・事業投資ではないか。
 といっても、そんな議論が必要な企業は全体から見ればほんの一部。ほとんどの企業は、制度ができればそれを上手く利用するだけ。従って、本来の趣旨の方向に進むとは限らない。
 日本の社会とは、こういうものである。

 どうしてこうなるかと言えば、全体を高い視点から眺めることをせず、狭い視野でものごとを議論するからだ。

 ただ、リアリズムに立つのはそう簡単なことではない。言いにくいことを語らねばならなくなるからだ。
 例えば、格差是正のためには、教育強化が必要という議論でリアリズムで発言するのは難しいかも知れない。国が教育にいくら多額な費用を投じたところで、格差是正の方向に進むことはないと言わざるをえないからである。
 高度の教育を受けたからといって、それに見合った仕事が確保できる仕組みはないからだ。人材流動性はほとんど無いと言って間違いないし、コネで現状維持を図ることに熱心な勢力が支配している組織だらけなのだから。

 全体の構造を変えない限り、教育によって、貧困から脱することは無理なのだ。ただ、貧困層のなかの極く一部の優秀な人は、抜擢されて飛躍は可能だ。そこだけ見れば、貧困から抜け出すチャンスができたとは言える。だが、マクロでは、格差はさらに拡大するに違いない。

 少子化対策も同じこと。

 世の中の動きをよく見て、何ができ、何をしてはいけないか、よく考えて欲しいと思う。
 時代は大きく変わっているからだ。

 例えば、今や、欧州最大の自動車市場はロシアなのである。
 世界的視野で見れば、膨大な数の中産階級が生まれ続けており、大きく豊かな市場が出来上がりつつある。いうまでもなく、BRICsとNEXT21のことである。(2)
 このうねりのなかで、現在進めている少子化対策にどれほどの意味があるのか考えるべきだと思う。

 --- 参照 ---
(1) 「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)に関する特別世論調査」の概要 内閣府政府広報室 [2008.7]
  http://www8.cao.go.jp/survey/tokubetu/h20/h20-wlb.pdf
(2) Jim O’Neill : “Boom time for the global bourgeoisie” Financial Times [2008.7.15]
  http://www.ft.com/cms/s/0/7b7422a2-5274-11dd-9ba7-000077b07658.html
(家族のアイコン) (C) Free-Icon http://free-icon.org/


 侏儒の言葉の目次へ>>>     トップ頁へ>>>
 
    (C) 1999-2008 RandDManagement.com