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2009.11.16
 
 


“Finlandization”の時代か…

国家の繁栄をどう見るのか。
 “Prosperity”とは何かは、なかなか難しい。順位や点数そのものを見るよりは、なにが重要かという視点が重要だろう。

〜The 2009 Legatum Prosperity Indexから(1)
-評価項目- 日本の
順位
1位の国
Overall 16 フィンランド
Economic Fundamentals 8 香港
Entrepreneurship and Innovation 7
Democratic Institutions 20 スイス
Education 20 ノルウエー
Health 9
Safety and Security 12 ノルウエー
Governance 20 デンマーク
Personal Freedom 22 ノルウエー
Social Capital 40 ニュージーランド
 2009年の「Legatum Prosperity Index」によれば、日本は16位だそうである。(1)
 1位はフィンランド。項目別1位の国を見ると、ノルウエーやデンマークが目立つ。イノベーションでは米国、経済では都市国家としての香港というところだけは、少し違うが、なんとなく欧州的な価値観が優位という感じだ。
 上位国を見ると、欧州、北米、太洋州、イスラエルという西欧国家群中心。それに、日本、韓国、台湾、香港、シンガポールを加えたようなもの。104ヶ国の最下位は、予想通り、ジンバブエ。戦乱中の国は評価が低くて当然だが、独裁体制の国家もおしなべて下位だ。要するに、北欧とアングロサクソン系が上位独占の構図。
 なんといっても特徴的なのは、BRICsが下位であること。(B=41,R=69,I=45,C=75)
 2007年のランクより下がっているようだが、これで本当に国家の繁栄の見方として自然なのだろうか。(B=34,R=44,I=46,C=42)

 まあ、それが、“GDP(PPP) per capita”の比較ならわかるが。
 この場合は、順位でなく、絶対値でクラスに分けるのが妥当だろう。当然ならが、ノルウエーと日本はクラスが違う。CIAのデータ[2008 est.](2)でみると、ノルウエーは$59,300で日本は$34,000なのだから、とても勝負にならない。しかし、先進国とはだいたいがこのレベルである。ちなみに、シンガポールは$51,500、香港が$43,700で、物質的には相当裕福な生活をしていることがわかる。韓国は急伸しており$27,600まできた。ソウルを中心とした地域は都市国家的であるから、そこはシンガポール並みに達しておかしくない。問題は、残りがどうにもならない点。この部分を救う必要があるから世界経済低迷で、不調に陥るかと思ったが、自由貿易体制と中国経済の活用でいち早く成長軌道に乗せることに成功したようだ。
 日本は反面教師の役割を担ったというか。形だけは早くから民主国だが、実際にやっていることは、屁理屈をつけた、得体の知れぬ税金バラマキ。競争力低下のために投資をし続けているようなもの。例えば、空港・港湾の高コスト・非効率性でランクをつけたら世界一ではないか。税金にぶる下がって食べる層が大多数だから、解決はできない。
 ・・・こんなつまらぬ見方を避けるのが、このIndexの特徴かも。

主張を捉え返すことが重要だと思う。
【国】 【PI順位】 Happiness Income
フィンランド 1 2 15
9 11 5
12 17 18
14 29 19
16 32 20
17 16 22
21 23 24
 このランク付けでの、一番の主張は、民主的で企業家精神に溢れている国家、特に米・英は衰退する訳がないという思想を強調している点にある。こうした国家はすべての面でバランスがとれており、イノベーティブであるから手本にすべきとでも言いたげ。
 逆に、新興国は、経済的に急成長しているが底は浅いと見なすのである。新興国の成長で世界経済が支えられ始めたが、どうせ国内の政治的不安定さで躓くぜと囁いているようなもの。確かに、バランスは悪い体制であり、その可能性は否定できない。
 そして、もう一つ言いたいことがありそうだ。それは、日本のように、社会貢献・芸術活動が低調な社会は、たとえ経済指標が好調でも、見せ掛けの繁栄に違いないと考える立場なのだ。そんな胡散臭い社会で、個人的信頼関係が生まれる訳がなかろうとの信念でもあろう。
 どれもが、一方的な主張ではあるが、一理ある。
 右表にような、Gallopの“Happiness”調査結果が引用されているが、北欧とアングロサクソン系は高い評価なのだから。
 おわかりになるだろうか。このようにIndexで議論すると、色々な見方がでてくる。そのことで社会の価値観の調整ができるのだ。それが世界の流れを決めていうかも知れないのである。

帝国による安定性なき社会があり得るのだろうか。
 こうした気持ちはわかるが、こうあるべしとの理想論に近いのではないか。アジアの歴史を見ていると、現実性に欠ける視点で眺めているような気がするのだが。

 巨大な人口を擁す東アジアは、有史、巨大な中華帝国が君臨するのが常態。この体制が崩れれば大乱という繰り返しだ。これは、今でも通用するのではないか。
 資源・土地の取り合いはゼロサムゲームだから、発生すると収まりがつかない。これを避けるには、軍事的に平定し、統治者の意思決定にまかせる仕組みにするしかない。民主的な解決策が可能なほど社会は成熟していない。もし、ここで帝国の為政者が君臨意識ばかりで、民の「繁栄」に興味を失ってしまうと、統治が機能不全に陥り、帝国は崩壊するだけのこと。

 はっきり言えば、始皇帝のコンセプトは今も通用しているように見えるということ。
 反抗的な国家は殲滅するとの軍事圧力で、税金を徴収して帝国繁栄を図った、フビライ・ハーン型統治の仕組みと、今の世界が違うかと言えばなんとも言いがたい。元朝の政策とは、どこにでも迅速に軍事力を派遣でき、反抗勢力を完膚無きまでに叩き、別途、統治政権を指導する部隊が入り、税金を徴収するというだけの仕組み。経済交流が活発化するから、帝国も周辺国も栄えることになる。
 ドルベースのグローバル経済圏が成り立ちも、本質的にはたいした変わりはない。軍事的に安定性を保障されないで貿易などできる訳がないからだ。逆に、そんな力を持たない国の通貨を信用することなどあり得ない。そもそも、「ゴールド」に通貨的な価値を見出そうとするのだから、未だに世界は紀元前の思想に縛られているということ。「貝」や「チューリップ」と同じで、覇権国が「ゴールド」への意味付けを止めれば、価格は暴落し、捨てられるだけの話。
 中央銀行の「ゴールド」とか、米国債保有量は、国の「繁栄」とは無縁かも、気になるところだ。

 つまらぬことを、ウダウダ書いてもしかたがない。一言でまとめるとどうなるだろうか。
 ・・・世界は今、“Finlandization”で動いているというところかな。(3)

 --- 参照 ---
(1) Legatum Prosperity Index レポート 2009/2007
  http://prosperity.com/downloads/2009LegatumProsperityIndexReport.pdf
  http://prosperity.com/downloads/2007LegatumProsperityIndex.pdf
(2) “The World Fact Book” CIA
  https://www.cia.gov/library/publications/the-world-factbook/docs/notesanddefs.html
(3) Will Inboden: “Measuring the difference between Finland and Zimbabwe” Foreign Policy [10/26/2009]
  http://shadow.foreignpolicy.com/posts/2009/10/26/measuring_the_difference_between_finland_and_zimbabwe


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