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2009.12.21
 
 


未婚増加の理由を考えてみた。…

「結婚してもしなくても」回答の真意を読み取る必要があろう。
 結婚は個人の自由だから、しなくてもよいと考える人が7割台という話が、マスコミで広く取り上げられた。(1)一時下がった数字がまた上がったというのである。
 2009年12月に発表された、政府による世論調査の結果だが、軽々に判断を下さない方がよいのでは。

「結婚は個人の自由であるから,
結婚してもしなくてもどちらでもよい」
という考え方について
[対象: 20〜29歳](2)
賛成 62.4%
どちらかといえば賛成 25.4%
どちらかといえば反対 10.0%
反対 2.2%
 先ず、右表の数字を見て欲しい。
 「結婚しなくてもよい」という若者がほとんどという調査結果だ。
 9割近い人がそう考えているのだから、衝撃的に感じる人も少なくないと思う。
 しかし、冷静に考えることをお勧めしたい。

 と言うのは、この質問は、個人生活に関して、価値観を一律に押し付けるべきかと聞かれたととった可能性が高いからだ。
 アンケート調査では、この質問だけではない。男女共同参画社会についての意見を求められるのだ。
 従って、こうした手の質問にどういう態度で答えそうか考えれば、結果は想像がつくのでは。
 それを踏まえてこの結果の意味を考えた方がよかろう。

 どうして、そんなことを言うかといえば、18 歳から24 歳までの青少年の国際比較を見ると、結婚に肯定的な考え方の比率では、日本(77.3%)が、米(59.7%)、英、仏、韓より大きいからだ。(3)
 又、サンプルは偏っており、数も少ないが、東京の街頭とWebアンケートでも、20代を中心とした若者に“結婚 したいかどうか?子どもが欲しいかどうか?について尋ねると、未婚者の91.4%が「したい」(63.3%)また は「どちらかと言えばしたい」(28.1%)と回答”している。(4)小生は、この辺りを本音と見た方がよいと思う。
 つまり、自分は結婚したいし、すべきと考えてはいる訳。ただ、そういった価値観を他人に押し付けるべきではないということ。それが、“衝撃的”に見える調査結果となっただけでは。

処世術に長けた若者が増えているということでは。
 だからと言って、そんな態度がまともと言えるかは別問題である。社会の基本単位である家族関係など、どうなろうと知らんということでもあるからだ。
 それに、結婚したいし、するべきと言っているからといって、実際は未婚のまま過ごすのであり、言行不一致そのもの。実態は、明らかに「結婚しなくても」なのだ。

 このことは、「個人の価値観を大切にする」というが、その意味はかなり違うということ。つまり、「何をしようと個人の勝手。他人は口を出すな。」なのだ。当たり前だが、これでは人々はバラバラになってしまい社会は成り立たない。
 今の若者は、その方向に一気に進んでいる可能性はかなり高い。

 実は、そんな感覚に襲われるのは、日本のティーンズが国際的に特異な精神状態に置かれているからである。(5)
 “I feel lonely”と答えた子供(15歳)がなんと29.8%も存在する。どの国も7%前後であり、二桁など日本のみ。“I feel awkward and out of place”も18.1%と高率。もちろん世界一。
 学校内で、これだけ大勢の生徒が孤独感に浸っている状況を考えてみて欲しい。かなり異常と言わざるを得まい。しかし、実際にそれほどの人数の生徒が、友達との交流無しにいるとは思えまい。
 何を意味しているかといえば、それぞれが好きに生き、他人には干渉しない生活に陥ってしまったということだろう。これを、「個人の価値観を大切にする」ことと勘違いしているのだ。

 もっと驚かされるのは、“aspiring to low skilled work”の割合。なんと、50.3%。もちろん世界一。日本ではいくら頑張ったところでたいしたことはできないから、気楽に生きていきたいということでは。他人に干渉しないし、他人のために働く気も無いのである。
 ご想像がつくと思うが、一番低いのは米国。(14.4%)
 この国では、頑張って力をつけ、もっと良い生活をしたい人が集まっているのだろう。そして、社会の役に立てるような仕事をしたいのだ。これが健全な社会ではないか。
 彼我の違いは余りに大きい。

 ただ、これを日本の生徒は人生に悩んでいると見ると間違い。元気溌剌スポーツに励んだり、真面目に勉強していたりする人が大半だと思う。
 と言うのは、面倒な仕事をせずに食べていきたいと考えているなら、高等教育に興味なさそうだが、そういうことではないからだ。
 希望する進学進路は、「中・高校まで」は25.5%と少数派で、その数字は低下一途。今や、「大学・大学院まで」が急上昇で、過半を越えた。(6)

 これらの数字を眺めると、何を考えていそうか、想像がつく。
 要するに、処世術として、高学歴は必要ということ。中・高校卒は損だぜというだけ。
 表面的に眺めていると、学歴社会の米国と同じようになってきたと考えがちだが、先の調査結果を踏まえると全く違う姿が浮かんでくる。おそらく、日本では、気楽に生活するための学歴なのである。
 パールバックの「大地」を読んで、社会とはどういうものか知った世代の感覚とは全く違う。処世術をわきまえているのだ。

 ともあれ、自分は気楽に生きていきたいのだから、どうこう言われる筋合いではないということ。それが自分の価値観と言う訳だ。そして、“主体的”に進路を選んでいるから、余計なことを言われる筋合いは無いとなる。
 実に歪んだ思考だと思うが、ご本人はそう思うどころか、批判する人の頭がおかしいと考えることになる。
 日本の若者は、ついにここまで変わってしまったのである。

社会のために生きるとの感覚を喪失している若者が増えていそうだ。
 こんな風に眺めると、本質的な問題が見えてくる。
 全くの仮説だが、未婚問題をご説明してみようか。

 それは実は簡単で、上述した、「今どきの若者」の多数派の特徴をまとめればよいのである。
  ・できるだけ面倒なことに係わらず、気楽に生きていきたい。
     -他人に迷惑をかけず、好き勝手に生きていきたい。
     -社会からの干渉はできる限り受けたくない。
  ・現実を直視すれば、自分一人では簡単に生きていけないことは確かだ。
     -食べていくためには、処世術に長けていた方がよい。
     -親から得られそうな支援はできるだけ活用する。
  ・無理そうな挑戦をしても、結局は大損するから避ける。
     -やりたいことがあっても、障害が大きそうなら、動かない。
     -大きな組織から睨まれて得なことはない。
  ・組織や社会の目指す方向と自分の考えを一致させる必要は無い。
     -組織に入る意義は特にないが、入った方が得ならそうするだけのこと。
     -処世術上、組織で働く意義を語る技術は持っている。
  ・面白くない輩とは関係をきる。
     -不愉快な人間が視線に入ってきたら、罵詈雑言を浴びせてかまわない。
     -違う世界の人々には全く興味が無い。
 この見方、どうかな。オタクと似ているが、外部を上手く利用してやろうという姿勢と、排他主義的なところが違う。外部をさっぱり利用できないことがわかると、俗に言う“切れる”状況になるか、殻に閉じこもることになる。

 大企業内では、この手の従業員は少なくない。首にならないことを知っているから、「他にすることもないからここで働いている」と平然と語る人がいたりするのが現実。それなら、「自己実現のために働いている」とか語る従業員が、本気で仕事をしているかといえば、全く逆だったりする。
 採用担当が、若者の変化に気付いていないから、こういうことになるのだと思う。

 昔と違って、今の若者は、自分の住んでいる社会をよく見ている。そして、その範囲内で気楽に生きるにはどうしたらよいか考えるのである。その枠を乗り越えようと考える人は少数派。
 従って、親の生活が満足できるものなら、できる限りその真似をすることになろう。自営業でなくても、家業化が進んでいるということ。もっとも、子供に「夢」が無かったわけではない。スポーツ選手は憧れだし、ご近所で裕福そうに見える専門職業は羨望の対象だった筈。まあ、その程度である。
 ともかく、現代の若者の特徴は社会性の視点を欠くこと。それが正しいと考えているから、この風潮は変わることはないと思われる。

未婚と既婚の違いは紙一重。
 「今時の若者」の典型像を勝手に作ってみたが、このように考えると、どう動くかは想定の範囲。未婚が増えて当たり前ではないか。
 要するに、未婚というのは、冷静に状況を判断しているだけのこと。
 もしそうなら、どのような未婚率低下策を採用すべきかよく考えた方がよいのでは。

 そう考えるのは、上記の発想だからといって、未婚の道を選ぶとは限らないからである。親の脛齧りと見られようが、現実的に一番楽な生活ができそうなら、親のまるがかえ結婚の道を歩む可能性は極めて高いということ。パラサイトシングルより、そんな家庭を作った方がよいとは言い難いのでは。
 逆に言えば、自炊生活をしているからといって、自立心旺盛とも見なせないということ。自分の条件を考え、干渉されずに一番気楽に生活すできる道を選んでいるだけかも知れないのだ。

 こうしたタイプの人が増えてくれば、早晩、国家は成り立たなくなる。未婚対応策は十分考えないと、こうしたお気楽人生派を支援することになる。

 結婚して欲しいのは、社会に貢献すべく、自立心旺盛で頑張っている若者。
 この層は、おそらく、多忙で、交流範囲も狭い。地域コミュニティとは縁遠く、職域の人間模様も複雑だから、出会いのチャンスは少ないのは間違いない。本来は、こうした次世代を担う若者に対して、周囲が干渉ではなく、支援すべきだと思う。それが健全な社会の姿ではないか。

 そして、そんな若者達に、日本社会の柱となって活躍できる場を早く与えることこそが、この問題の解決の一番の道だと思う。

 --- 参照 ---
(1) “4割が「子ども必要ない」20〜30歳代は6割−内閣府調査” 産経新聞 [2009.12.5]
  http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/091205/plc0912051723011-n1.htm
(2) 男女共同参画社会に関する世論調査 図14 [平成21年10月調査]
   http://www8.cao.go.jp/survey/h21/h21-danjo/images/z14.gif
(3) “「第8回世界青年意識調査」の結果について” 内閣府 [2009年]
   http://www8.cao.go.jp/youth/kenkyu/worldyouth8/pdf/gaiyou.pdf
(4)“若者の「結婚」に関する意識調査” (株) パソナグループ [2008年10月]
  http://www.fgn.jp/mpac/sample/_data/impacter/pdf/200902_21.pdf
(5)“An overview of child well-being in rich countries” UNICEF [2007] Innocenti Research Centre
   http://www.unicef-irc.org/publications/pdf/rc7_eng.pdf
(6) “低年齢少年の生活と意識に関する調査” 内閣府 [2007]
   http://www8.cao.go.jp/youth/kenkyu/teinenrei2/zenbun/index.html
(他) こんな話を書く気になったのは、たまたま、以下の主張を読んだから。
  大前研一「ニュースの視点」 KON290 日本崩壊の危機?〜「結婚してもしなくてもいい70%」の意味を問え![2009/12/11]
  http://www.ohmae.biz/koblog/viewpoint/1446.php


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