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2010.2.2
 
 


雇用に関するアンケート調査結果を見て…

若者にお勧めの会社は、まあ妥当なところ。
 2010年1月に行われたビジネスパーソンのアンケート調査結果(1)が様々なコメントつきで報道されている。

 アンケート対象者は平均年収1,228万円。管理職の調査とされるかも知れぬが、業種を見ると、プロフェッショナルの意見を集めたと見なすのが妥当なところだろう。
[業種:金融・コンサルティング:24%、メーカー(電気・電子・機械):19%、ソフトウェア・インターネット:18%、 消費財・医療・流通:17%、マスコミ・広告・サービス:13%、その他:9%]

 驚くような結果が出ているとも思えないが、マスコミとしては、話題性ありと判断して、早速報道したようだ。
 しかし、マスコミが関心を示さなかった部分の方に面白いデータがある。この層が、どう考えているかわかるからである。

 それは、人気企業リスト。

 「就職活動中の大学生に薦めたい企業(3社)」というもの。「自分が大学生だったら、絶対に入りたい企業(1社)」にして欲しかったところだが、まあ、調査の目的を考えるとそういう訳にはいかないか。

 プレスリリースにも簡単な解説があるが、この層は以下のように考えているということでは。もちろん、小生の勝手な解釈。

若いうちから力を発揮できる可能性があり、大きな仕事に発展しそうな業種がよいかな。 もちろん、グローバルに見て競争力がある企業でなければチャンスには恵まれないぜ。当たり前だが、就社ではなく、就部署だよ。
     商社(三菱商事,三井物産,伊藤忠商事)
     金融(野村証券,ゴールドマン・サックス証券.三菱東京UFJ銀行)
●自分に力があると思うなら、若者にもチャンスを提供してくれそうな企業を選ぶこと。口先ではなく、簡潔明瞭な人事方針が貫かれていないと。なかには徹底的に鍛えてくれる仕組みを持つ企業もあるから、頑張るつもりならいいぜ。
     新業態開拓意欲(リクルート,ファーストリテイリング)
     ビジネスのあり方(P&Gジャパン,ジョンソン・エンド・ジョンソン)
     イマジネーションとストレッチの世界(日本GE,マッキンゼー)
     働き方を変えた(アップル)
●まあ、IT分野で力を発揮したいと考える人もいるだろう。それなら、一流の人材が集まるグローバル企業で、もまれたらどうかね。なんといっても、人事方針がはっきりしている企業がお勧め。
     時代の先端を走る(グーグル)
     潮流に乗っていく(日本アイ・ビー・エム)
●もちろん、IT分野で新時代を切り拓こうと、斬新な経営を進めている日本のIT系企業を選ぶ手もある。世界の先頭とはいかないかも知れないし、国内ビジネス中心のようだが、新興企業での経験は貴重だ。
     日本の業界風土を変えた(ソフトバンク)
     飛躍の芽がありそうなサービス業(楽天、サイバーエージェント)
●と言っても、日本経済を支えているのは製造業。そこで働かねばと考えるのは自然な話。この場合、真摯な経営に徹するグローバル企業を選ぶことだね。存在感の源泉は企業風土。市場のシェアは結果。従って、業種でなく、惚れた企業を選ぼう。
     自動車(トヨタ自動車,本田技研工業)
     家電系(ソニー,パナソニック,シャープ)
     電子機器系(キャノン)
     電子部品系(日本電産,京セラ,キーエンス)
●日本社会で働きたいというなら、非メーカーも悪くないか。
     磐石な国内のビジネス基盤(NTTドコモ,電通)
●国のために働きたいと本気で考えているなら、国家公務員だってよい。頼むぜ。

 上記の推測、どうかな。
 これに納得感があるなら、以下の“2:1分布”の意味も読めてくる。
   ・回答者の2/3が大手企業を勧め、残りが中小企業・ベンチャー。
   ・同様に、2/3が日系企業を勧め、残りが外資系企業。

 若者には挑戦的に生きて欲しいから、ベンチャーででも頑張ってと呼びかけたいが、現実を考えると、そんな正論を言う訳にもいかぬというのが多数派。そして、外資系で力を磨くのも悪くはないが、衰退しつつある国を支えるため、日本企業で頑張ってみるのも一つの道だぜと言っていうのでは。
 多分、全く認識が違う、対立的なグループが存在しているのではないと思う。

プロが、終身雇用をお勧めするのは当たり前である。
 わざわざ、こんな話をしたのは、真意を考えないと、このようなアンケート調査の結果を読み違えかねないからである。
 特に注意すべきは、以下の数値。

Q:日本的な終身雇用は、市場経済のグローバル化に適して いると思うか?
  → 適していない+どちらかといえば適していない: 81%
Q:1つの企業に定年まで勤務する日本的な終身雇用についてどう考えるか?
  → よいこと+どちらかといえばよいこと: 63%

 当たり前だが、前者の質問は、現実認識を問うただけ。世界のなかで、「日本的な終身雇用」の仕組みが通用している国などほとんどないのだから、グローバル化に適しているかと聞かれれば、No.と答えるのは当たり前。
 No.でない人がいたらそれは心強い限り。日本的だろうが、どこの国の文化だろうが、企業が独自の仕組みで競争力が発揮できるなら関係ないぜという発想かも知れぬからだ。実践性は疑問だが、理屈は正論である。そんなものは企業の勝手で、どうして他に合わせなければならないのという思想かも。

 それはともかく、いきなり次の質問を繋げると、どうしても、恣意的な解釈が生まれる。時代に合わない制度でも、続けて欲しいと考えている人ばかりと見なしてしまうということ。
 この人達、なんかおかしいぜ、となる訳だ。
 小生は、この回答、極く自然な反応だと思う。

 簡単に解説しておこう。

 先ず、プロフェッショナルが日系大企業の終身雇用制度の現状をどう見ているかだ。

 おそらく、この制度は消えつつあると見ている。
 それに、「労働の流動性」なくしては、廃れていく産業から、勃興する産業へと労働力を移すことができないから、マクロで考えれば当然の流れと考えていると思う。

 ほほ〜。それなら終身雇用制度撤廃賛成なのかと思うかもしれないが、逆なのである。正論ではあるが、変えるには遅すぎる感が生まれてしまったのである。
 ここを理解する必要があろう。終身雇用が消えうせると、競争力も失う可能性が高そうだと思い始めたということ。

 どういうことかは、上記の就職お勧め企業リストがヒントになる。例えば、トヨタとホンダ、ソニーとパナソニックの間でのプロフェッショナルの自由な移動をお勧めするかね。常識なら“止めろ”ではないか。
 全く違う文化の組織だからだ。優秀とされる人が、移ったところで力が発揮できない可能性が極めて高いということ。
 以前、東品川の同じビルに両者が並んで入居していたので驚いたことがあるが、誰が見ても勤務スタイルからして違う。ワーキングスタイル自体がそれぞれの会社の競争力の根源かも知れないと感じるほどの差。

 おわかりだろうか。日本企業の競争向上を考えると、終身雇用が望ましいというのは、実感からきたもの。レゴブロックのように人を集めて組み立てただけの組織ではグローバル競争には勝てそうにないという当たり前の感覚を言い換えただけのこと。
 理屈から言えば、自社のコア人材を定義して、育成の仕組みを作ればよいだけで、終身雇用制度とは無関係な話だが、残念ながら現実はそうはなっていないのである。
 コア人材をはっきりさせず、計算上の余剰人員分を削ったので、コア人材層が薄くなり、力量が落ちてしまったのだ。働いている人はそれを実感しているということ。
 さあ、どうするかな。

 てっとり早いのは、終身雇用続行でコア人材の厚みを維持する方策。・・・終身雇用が望ましいというのは、それだけのことでは。
 一律型の終身雇用を期待している訳ではない。コア人材以外は、アウトソーシング化がベストと考えているのは間違いない。

 そう感じたのは、実は、お勧め企業のなかに、「日本GE」が選ばれているから。

 --- 参照 ---
(1) “平均年収1,228万円のビジネスマンが就活生に薦める
  「本当の就職先人気企業ランキング」 を発表”
  ビズリーチ PRESS RELEASE [2010年1月19日]
  http://www.bizreach.jp/biz/download/CompanyRanking20100119.pdf
“人事支援業界ニュース” 日本の人事部-BIZREACHプレスリサーチ [2010/1/26]
  http://jinjibu.jp/GuestNewsTop.php?act=lst1&gr=2&id=3693


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