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2010.5.27 |
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工場海外移転の次なる波…2010年5月19日の日経新聞が、「ニプロ、インドで医療機器生産100億円かけ工場」とスクープ。(1)成長しているインド市場で、人工腎臓の工場を2012年に稼働させるという話。現地生産すると、国内に比べて3〜5割安く生産できる見込みという。輸入承認を取り日本市場に流すつもりがあるのかはわからないが。 ついにくるべき時が来たようである。新興市場重視という話の方ではない。顧客の心理的な国産好みより、経営上の合理性を重視すれば、国内生産にこだわる必要がなくなってきそうだという点。 人工腎臓は技術的に成熟しているが、極めて高度な商品である。しかも、記録型DVDのようなハイテク系製品とは訳が違う。光ディスクは、設備投資さえすれば誰でも作れる状態だが、そうはいかないのである。繊維メーカーから透析用中空糸を購入して、それを組み立てるだけのことだが、医療機器には高度な管理体制構築が求められるからである。問題発生に迅速に対処するためには高度な専門家が必要だし、品質管理の分析業務は不可欠だ。単純労働者を活用してできる仕事ではない。 もちろん、単純労働も少なくないが、家電製品のアセンブリとは違い、ミスを防ぐためのコンピュータシステムを構築する必要もあろう。こうしたシステムを運営するIT関係の人材も必要となる。 つまり、優秀なエンジニアが揃う地でなければ、このような工場を建てることは考えにくいということ。低コストの単純労働を活用することができるというメリットでの工場移転とは違うのである。 作業員ではなく、エンジニアのコストパフォーマンスを考慮して立地を考える必要がでてきたということ。 と言っても、企業風土と社会の状況を考えれば、日本企業が簡単に実行できるものではない。しかし、それしか手はないという状況に追い込まれる可能性がでてくるかも。 一番の問題は、平均値で見れば、日本のエンジニアはあまりに高賃金すぎるという点。これで海外工場と戦えるかだ。間違えてはこまるが、スキルを身につけたエンジニアは、逆に低賃金である。もちろんアジア内での比較。 おわかりだと思うが、IT分野等の一部を除けば、大卒や大学院の新卒を雇用してすぐにエンジニアに起用できるというものではない。職場で時間をかけて育て、ようやく力が発揮できるようになるもの。ここが今までは日本企業の強みとなっていたが、これが弱みになりかねない時代に入ったということ。 何故そんなことが発生するかと言えば、日本のエンジニアの質が全く違うからだ。 アジアでは大卒が大量生産されており、スペシャリストを目指して厳しい競争状態に陥っている。就職するために、スキルを磨くことに必死なのだ。当然ながら、就職してもスペシャリストとしてスキルを磨き続ける。 一方、日本の新卒の大半は単純労働しかできないが、企業内でじっくり学習することになる。といっても、日常業務を上手にこなせるだけでスペシャリストとは言いかねる。 この差をどうみるかだ。 工場だから、日本型の組織力発揮が良いというのが今までの見方。確かに、現場の作業員と一緒になって問題に取り組むことで成果をあげてきたのは事実。勤勉で皆で勉強して工夫する風土作りが奏功してきたのは間違いない。しかし、それは製造が単純作業の塊だったからではないか。 これからの工場もそれが続くとも思えまい。単純作業は機械が行い、それをコントロールするために数多くのエンジニアが働く場所が工場だとしたら、今までの日本の工場が持つ強みが通用するとは限らないだろう。組織的に動くスキルをもっているエンジニアを集めれば、コストは膨大だが、その割に成果は小さいということになりかねないと思うが。 競争力を高めるためには、当該工場に必要そうな専門的なスキルを持つエンジニアが豊富な場所に立地する必要があるということ。 例えば、日本は電子部品分野で競争力があるとされているが、国内立地を続けてその地位を保てるかは疑問。 すでに、この分野でのエンジニア雇用という面では、シンガポールや台湾の魅力には勝てそうにないからだ。競争力維持のためには、国内工場を移転させ、国内では研究開発に専念する方がよいかも知れないのである。技術流出を恐れて、工場の海外移転を避ける方針が正しいかはなんとも言い難いものがある。 まあ、その前に、大量見込生産型ビジネスの電子機器のアセンブリ国内工場は消えるかも。 ともかく、中国が世界のパソコン工場となったため、この手の生産キャパシティが膨大であることが大きい。しかも、アセンブルのインフラが完全に整っている上、部品供給のネットワークができてしまった。こうなると、日本の工場で、エンジニアと現場の作業員がいくらコスト削減努力をしても追いつけるレベルではなかろう。 日本で残れる工場は、少量多品種生産向だけかも。 気まぐれでわがままな要求に短期間に応えるには、熟練工とエンジニアがチームで動くのが一番であるから、見込み生産から、注文生産へ変えていけば競争力を発揮せきそうな感じがする。ただ、余りに高コストだから、自信を持って言い切れる人はいないと思うが。まあ、工場だけでなく開発センターとの協調ができるかが勝負ということだろう。 こんなことを考えていると、今の日本の状況は心配である。 中国需要に応えるために製造業は雇用を増やしている。しかも政治的な圧力から正社員化も進めているようだ。これで、長期的に大丈夫なのだろうか。圧倒的な競争力を発揮できる根拠があればよいが、そうでないと弱体化の道に進んでいるかも。この辺りは、十分確認しておく必要があるのではないか。 --- 参照 --- (1) “ホットストック:ニプロ<8086.T>反発、インドで医療機器生産との報道” ロイター [2010年 05月 19日] http://jp.reuters.com/article/stocksNews/idJPnTK040942220100519 侏儒の言葉の目次へ>>> トップ頁へ>>> |
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