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2010.5.28
 
 


伝染病対策について…

 2009年の麻疹(はしか)罹患者最多県は千葉だった。他地区の前年の大流行が収まったのでたまたまトップになったようだが、その後どうなったか眺めてみた。ようやくどうにかなってきた感じがする。
 この病気、江戸時代から、突然流行ったりする疾病である。急減したのは、たまたまか、予防のお蔭か、それともインフルエンザ騒ぎで感染させられないように用心したためか、よくわからないがまあ結構な話である。この傾向が続けばよいのだが。
 ご存知のように、麻疹が流行する国など、先進国では日本位のもの。防止は難しいことではなく、ワクチン接種さえすれば済むのである。抗ウイルス薬が無い疾病だし、1歳の記念に接種し、入学時に再接種でもすればよいのだが、日本ではこれができない風土できあがってしまった。副作用怖さなのだろうが、こまったものである。
 米国のような、医療費が原則自己負担で、自由裁量制の国でさえ、麻疹対策が成果をあげているのと対照的と言えよう。

麻疹ワクチン接種率 (関東各県内の市) [2008年度第4期]
- 最上位 - - 最下位 -
栃木県 大田原 51.6% 足利 16.8%
茨城県 桜川 64.9% 古河 18.2%
群馬県 沼田 50.1% 桐生 26.9%
埼玉県 秩父 70.9% 富士見,ふじみ野 14.9%
千葉県 館山 76.2% 東金 15.7%
東京都 武蔵野 42.0% 武蔵村山 13.6%
神奈川県 伊勢原 32.7% 川崎 13.1%
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou21/dl/081003b.pdf
 流石に大流行だけは収まったようだが、接種率が上がった訳ではなさそうである。
 数字を見て驚いたのだが、地域格差は極めて大きいのである。日本の防疫体制の現場がまともに機能していないことがよくわかる。接種率の数値目標の設定能力もないと見て間違いなかろう。
 こういう場合、まともなビジネスマンなら、どこからどのように手をつけるか熟慮するのが普通だが、おそらくそういう発想は皆無。と言うか、おそらく現場の実態がわからないから、議論はできない。
 従って、できることといえば成功例の真似。それが上手くいく保証はないが他に手はないのだと思われる。

 そうそう、こうなるのは、システムが悪いと言う人も少なくない。まあ、そうともいえるが、その見方には落とし穴があるから注意した方がよい。
 と言うのは、日本のマスコミは合理的な話にとんと関心が薄く、ムードを作って大騒ぎする体質が濃厚だからだ。どんな仕組みにしようと、仮説を立てて議論でも始めたりすれば、マスコミの格好の餌食になる可能性がある。そうなれば、もとの木阿弥。仕組みを変えてもココは変わらない。
 このため、マスコミ利用に長けた政治家が増えている。
 その典型例は、空港でのインフルエンザ防御大作戦を行った大臣。自らのリーダーシップで万全な体制作りに精をだしているイメージを狙ったものとしか言いようがない。言うまでもないが、非合理的で意味の薄い施策だからだ。一方、その実態は、トンデモ体制。なにせ、感染者が、病院待合室の大勢の患者のなかに入ってくるというお粗末ぶり。こんな素人でもわかる問題に対して何もしていないのが日本の仕組み。皆が一生懸命に防御体制作りに精をだしていても、マスコミが囃すムードにのっているだけで、肝心なことは抜けているからこうなる訳だ。もちろん、合理的に考える人もいるが、皆が真面目に対処している時に、批判的な発言をしようものなら袋叩きに合うのでどうにもならないのである。

 その体質は、インフルエンザワクチン輸入承認でも遺憾なく発揮された。言うまでもないが、生物製剤で完璧に同じものなど作れる訳がない。副作用の危険性もある。そのため、効果をあげる物質を混入したり、新方式の製造方式に承認が出ることなどほぼ考えられない状態がつ続いてきた。ところが、恐ろしい病気だからワクチン輸入をというマスコミのムード醸成ができると、方針はいとも簡単に180度転換。副作用発生時の責任をメーカーとどう取り決めたのかも気になるところだが、誰もそ知らぬ顔。

 これでおわかりだと思うが、マスコミがムードを作れば、いとも容易く方針を変えることができるのである。
 逆に言えば、マスコミが黙認すれば、おかしな仕組みでも、いつまでも続くということ。結核対策は好例かも。結核が減らない先進国として有名となってしまったが、普通ならやり方を抜本的に変えるのではないかね。
  → 「伝染病対策の質をあげるには」 (2009年11月19日)

 間違えてはこまるが、マスコミを批判したところでなにも変わらない。おそらく、批判されても、なにを批判されているかさえわからないだろう。それが使命と考えているかも知れないのだから。

 重要なことは、まず現実を直視することである。素人でもわかることさえ対処できないとしたら、それは判断力が無いということ。課題設定ができていないのである。
 現場情報の不足とか、協力関係欠落が問題ではないことを理解しない限り一歩も進まない。要するに、マネジメント能力が無いということ。
 その自覚があれば、なんとかなるかも。視野を広げて、問題を整理していけばよいだけのことだからだ。言うまでもないが、日本の専門家とは派閥内での処世術に長けているだけの人か、狭い領域内のことしか興味がなかった人だから、この役割を任せる訳にはいかない。専門家の見方を整理して、問題点を洗い出す能力がある人が必要である。そんな人を議論のまとめ役に起用するだけで、相当な効果があると思うが。
 尚、このスキルだが、問題の洗い出しといっても、分析作業ではなく、文殊の知恵で大所を見つける作業。頭の使い方は正反対。そこを間違うと、今迄となにも変わらないので注意が必要である。


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