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2010.6.2
 
 


公立病院再開に見る地方政治の質…

 2010年ゴールデンウイーク明けに、公設民営方式で銚子市立病院が1年7カ月ぶりに再開されたそうである。(1)関心がなかったので、どんな調子で報道されたのかはわからないが。

 先日、テレビニュースで、その病院の最近の状況が映像で流れていた。広い待合室に患者が一人ポツリと座っていた。医師は一人だが、看護婦と職員の数は揃えているとのこと。興味を覚えなかったから、それ以上は見なかったが。
 ただ職員が4名とされていたから、なんなのか気になり、記事を検索してみたがよくわからず。ただ初日の状況はわかった。常勤1名に、非常勤を加えた、4名の医師の体制だったとか。午前8時の診療受け付けから午後4時半の終了までで計20人の患者を診察したという。(2)
 5人の外来患者が支払う診療費で、医者1名+看護婦1名+職員1名の日当を充当した訳である。唖然。

 これを、医療問題ニュースとして流すのだから、とんでもない話である。いかにも日本のマスコミらしいセンスではあるが。

 そもそも、以下の点で、(3)この病院は公設公営で存続できないと結論づけたのである。それを再開させるというのだから、なんだかね。
   (1)関連大学などからの医師派遣が極めて困難であること
   (2)今後の診療体制のなかで、外科医1名、内科医も1名になることなど、
       医師の減少によって入院の受け入れや救急対応が困難となり、収入が大幅に落ち込むこと
   (3)更に医師の退職が想定され、現行の診療体制が維持できないこと
   (4)大幅な経営改善を行っても多額の追加支援が必要となり、市の財政状況では支援が困難であること
   (5)年度途中に到来する資金不足に、県の財政支援が受けられないこと

 早い話、維持できないのは、自治体にお金がないというだけのこと。にもかかわらず、マスコミや政治家が他の理由を色々あげつらい、なんとか病院を存続させようとしている訳だ。
 病院を続けたければ、他の便益を削るだけのこと。それはせずに、病院存続だけ要求するのが、地方政治の実態。それを正義の主張と勘違いしている人だらけ。どうにもならない。

 この病院に限らず、たいていの公立病院は大赤字。ただ、実態がわからないようにしているから公表数字は信頼しない方がよい。それなりの施設だと、年間10億円程度の赤字は当たり前の世界と耳にしたことがある。まあ、素人の概算でもその程度になって当たり前。
 どうしてこんなことがまかり通るかと言えば、公立は赤字でかまわないという自称“社会派”議員だらけだから。
 ご存知だとは思うが、公立病院と言っても、やっていることは民間病院とほとんどかわらない。しかし、公立だけが大赤字なのが普通。それは当たり前のこと。職員の人件費や、よくわからないコストが矢鱈に嵩んでいるからだ。しかし、それに手をつける首長は少数派。ここにメスを入れることはタブーなのである。
 これが地方政治の現実。

 従って、病院運営の高負担に耐えることができる財政的な余裕が自治体にあるか否かで、病院の存続が決まるということ。
 実に、単純な話。これは医療問題ではないのである。

 自治体の財政が苦しいというのは、その地域が自立経済圏ではなく、他地域の税金で食べているということ。
 そして、日本全体の税収は減る一方だから、弱体経済地域の生活レベルが落ちて当たり前。その皺寄せが、病院に来る地域もある。それだけの話。

 だいたい、病院さえまともに維持できない地域に人が集まる筈はない。これから経済的衰退がさらに進むという明確な指標と言ってよいだろう。
 ことは病院の話ではなく、自立経済を目指して何か手があるのかだ。はっきりいえば、自立したいのかということ。
 ブル下がりを続けたいなら、これから、どう緊縮予算にもっていくかが問われているということ。ところが、その問題には皆知らん顔。面倒な問題はつつかないに限る。難しい問題はすべて後回しし、できる限り頬かむりするのが最善とされている訳だ。
 しかし、徐々にサービスは低下する。住民の不満がたまるのは避けられない。そんななかでの、命をまもる政治の御旗を掲げた病院再開運動である。都会から見れば、ガス抜き活動以上でも以下でもない。
 この政治体質こそ、地方の特徴そのもの。

 --- 参照 ---
(1) “銚子市立病院が診療再開 1年7カ月ぶり” 産経新聞 [2010.5.6]
   http://sankei.jp.msn.com/region/kanto/chiba/100506/chb1005061855002-n1.htm
(2) “1年7カ月ぶり診療再開 初日は20人が受診 銚子市立病院” 千葉日報 [2010年05月07日]
   http://www.chibanippo.co.jp/news/chiba/local_kiji.php?i=nesp1273213214
(3) 銚子市長 岡野俊昭 「銚子市立総合病院 病院休止のおしらせ」 [平成20年7月7日]
   http://www.city.choshi.chiba.jp/hospital/


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